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母が加トちゃんだった頃

大学進学を機に上京すると、郷里の母から三日と空けずに電話がかかってくるようになった。
電話は夕飯どきに来ることが多く、
「ご飯、食べたんか?」
「お風呂は?」
「風邪引いとらん?」
と、毎回ドリフの加トちゃん的チェックを受けなくてはならなかった。
最後は、
「あんたの方からなんか連絡は?」
と聞かれ、
「別に」
と答えると、
「愛想のない子やねえ」
と言われて終了、というのがパターン。

私は大学卒業後も東京で働くことになり、社会人になっても母の加トちゃん的チェックは続いた。
その後、いろんなことで衝突したり揉めたりして、私が「もう連絡してこないで」と母に言ってしまったり、なし崩し的に元通りの関係になったりを経て、現在に至る。
今、母が私に電話をしてくるのは、たいてい何か相談事がある時だ。
「この前、こういうことがあったんやけど、どうしたらいいかねえ?」
いつも大した返事はできないけれど、私なりに思うことを答えると、
「そうね。それがいいね」
と、ちょっと安心したような感じで話が終わる。
いつからか、加トちゃん的チェックはされなくなった。

母にとっての自分が、「心配の対象」から「頼りたい相手」に変わったんだな、と今さらながら気づく。
気がついて、「こういうのも悪くないな」と思っている。

#日記 #エッセイ #コラム #母
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