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ご質問にお答えします!『テンポの良い脚本を書くコツは?』

脚本家志望の方から、こちらのご質問をいただきました。

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ご質問ありがとうございます!
ご自身の作品に対して、「シーンがブツ切りだと感じる」「テンポが悪い」と感じられているということですね。
それぞれの問題に関して、私はどのように注意を払っているかをお答えしていきます。


【シーンをどこから始めてどこで終えるか?】

まずは「シーンがブツ切りだと感じる」という問題について考えてみましょう。

プロット→ハコ書きと書き進めていき、シナリオ執筆を取り掛かった際に、私は毎回「各シーンをどう始めて、どう終えるのか?」ということに頭を悩ませます。
このことの重要性を分かっていただくために、具体例を挙げたいと思います。

向田邦子さんの作品『隣りの女』から、シーン2、シーン3の内容をご紹介しましょう。

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シーン2の柱は、主人公の主婦、サチ子が暮らすのアパートの前。
サチ子は、隣人であるスナックのママ、峰子と顔を合わせて、おしゃべりをします。
そこに若い男性が峰子を訪ねてきて、峰子は部屋に去ります。
するとサチ子は、アパートの大家であるヨネと峰子の噂話。
「昼日中から、ご苦労さんなこったわねえ」とヨネ。
しばしば若い男性を部屋に招きいれている峰子のことを、ヨネはあまり快く思っていない様子です。
「時沢さん(サチ子の苗字)とこ、丸聞こえでしょ」
とヨネに問われて、サチ子はこう答えます。
「え? さあ。あたし、ミシンかけてるから」
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続いてシーン3の柱は、サチ子が夫と暮らすアパートの室内。
サチ子が一人、ミシンをかけています。内職のブラウスを縫っているのです。
そこに、隣室で峰子と男性が言い争う声が聞こえてきます。
気になったサチ子がミシンのスピードを落として聞き耳を立てていると、隣室の声はさらに激しくなっていきます。
ついに、壁に張り付いて耳を澄ますサチ子。
峰子たちの声は、言い争いからなまめかしいものに変わっていきます。
サチ子は、壁に張り付いている自分の姿が鏡にうつっているのに気づいて驚き、壁から離れて、上の方にかけてある絵の位置を直します。
ここで、サチ子のナレーション。
「別に曲がっていないかも知れません。でも、直すのが癖になっています」
そしてサチ子は、買い物カゴを手に部屋から出て行きます。
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シーン2は、「あたし、ミシンかけてるから」というサチ子のセリフで終わります。
このセリフがシーン2の最後にあるかどうかで、シーン3の見え方はかなり変わるはずです。
隣室に聞き耳を立てている自分が恥ずかしい。みっともないと思っている。それでも聞くのを止められない……。
そんなサチ子の心情が、「ミシンかけてるから」があることで、シーン3全体から伝わってきます。

そしてシーン3は、サチ子が部屋を出て行くことで終わっています。
「そうでもしないと、あさましいと思いながら盗み聞きを止められない」というサチ子の心情がよく伝わってきますね。

このように、「あるシーンをどう始めて、どう終えるのか?」「その次のシーンをどう始めるのか?」ということはとても重要です。
それによって情感が立ち昇ったり、逆に味気のない作品になってしまったりするからです。

この点に注意を払うと、「自分の作品はシーンがブツ切りだと感じる」という質問者さんのお悩みを解決する糸口がつかめるのではないでしょうか。
質問者さんが「面白い」と感じる作品を、
「各シーンがどう始まって、どう終わっているか?」
「前のシーンの終わり方と、次のシーンの始まり方がどう影響し合っているか?」
という観点で分析し、ご自身の作品と比較してみると、多くのヒントが得られると思います。

【「テンポが悪い」とは、具体的にどういうことなのか?】

続いて、「テンポが悪い」ということについて考えてみましょう。
質問者さんはご自身の作品について「なんとなくテンポ感が悪く」とおっしゃっています。
こういう場合は、「なんとなく」で済ませず、
・なぜテンポが悪いと感じるのか?
・テンポが良いと感じる作品と、どこが違うのか?
といったことを明確にしていく
ことが重要です。

自作の推敲時も含め、私が脚本を読んで「テンポが悪い」と感じるのは、ストーリーの進みが遅く、「いつまで経っても、事が起こらない」場合です。
特に序盤で「ストーリーの前提条件」や「登場人物の人となりの説明」のシーンが長々と続くと、フラストレーションが溜まります。

もちろん、「ストーリーの前提条件」や「登場人物の人となり」を観客に伝えなくてもいいということではありません。
ですが、「説明だけ」のシーンは冗長に感じるということです。
ハラハラしたり笑ったり、見ていて感情が動かされるシーンや、物語がどんどん展開していくなかで「前提条件」や「人となり」が自然に伝わってくる(=観客が説明だと感じないうちに、説明されている)のであれば、冗長には感じません

「説明でしかないシーン」は、「書かなくてもいいシーン」「むしろ書かない方が面白くなるシーン」と言ってよいでしょう。
脚本のテンポをよくするには、「何を書くか」と同様に、「何を書かないか」も重要ということです。


【「書かない方が面白くなるシーン」をつい書いてしまう理由】

なぜ書き手は、「書かない方が面白くなる説明シーン」を長々と書いてしまうときがあるのでしょう?
多くの場合は、「観客に、自分の意図が伝わらないのではないか?」という不安が要因だと思います。

自分の経験を振り返っても、余計な説明のシーンが多くなるときは、
「登場人物の行動について、因果関係をきちんと分かってもらいたい」
「それが伝わっていなければ、感情移入してもらえないのでは?」
と考えすぎており、それがマイナスに働いています。

書き手はどのシーンも知恵を絞って書いていますから、一旦書いてしまうと思い入れが生まれ、削るが難しくなると思います。
それでも、質問者さんが自分の作品を「テンポが悪い」と感じていらっしゃるのなら、「極限まで説明を削るなら、どこを削るか?」という観点でご自分の作品を見直してみると良いと思います。

その結果、原稿の分量が半分になったとしましょう。
その場合はおそらく「尺に対して、ネタの量が少なすぎる」ということなのだと思います。
「2時間の映画の脚本のつもりで書いていたけれど、実は1時間モノ程度のネタでしかなかった」ということは、私が習作を書いていた頃にも経験があります。
この場合は、プロットに戻って練り直すと良いと思います。

これからもお互いがんばりましょう!

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