蒼歌表紙版

蒼空の歌謳 -6-

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ようやく先生から解放された俺達は、家路についていた。
村の中心部にある石橋を越えたところにある鍛冶屋、フォノは自分の家の前で止まる。

「じゃあ、私はここで」
「あぁ~、フォノ!! ちょっと待って」

俺達と別れて一人家へと入ろうとしたフォノを、白夜は引き止めながら、急いで何かを取り出そうと二重に羽織っているマントの中をゴソゴソと探し始めた。
その様子を、フォノはやや複雑そうな表情で見る。まあ、原因は分かってる。
白夜にとって、最も捜索活動が困難なマントになぜすぐに取り出さなければいけないものをわざわざ入れているのか、だ。
しっかし、見るからに着脱が面倒なマントだよな・・・・・・今はもう見慣れてるけど。

「えぇっと、確かここにあったはず・・・・・・あ、あったぁ」

お、そんな俺とフォノの視線を気にせず必死に探して、ようやく目的のものを見つけたようだな。
白夜が取り出したのは、片手に乗せられるほどの小さな小包。
あんな小さなものを、白夜は必死に探してたんだよな・・・・・・一体、あれに何が入ってるんだ?
どうするのかと思っていると、白夜はそれをフォノに差し出した。

「これ・・・・・・何?」
「王都を出発する前に珍しい砂糖菓子を見つけてね、フォノにお土産にどうかなぁって思って買ってきたんだよぉ」
「・・・・・・あ、ありがとう」

常に無表情なフォノの表情が緩み、戸惑いながら白夜からのお土産を受け取る。
うんうん。嬉しい気持ちを必死に隠そうとしてるみたいだが、残念ながら顔に出てるぞ。
それもそのはず、フォノは見た目や雰囲気からは分からないかもしれないが、大の甘い物好きだ。
まあ、このことを知ってるのは俺と白夜、あとは先生や鍛冶屋の親方ぐらいだな。
このフィンラの村でも、知ってるヤツはほんの僅かしかいない。
そんなフォノを見ていた白夜は、受け取った本人以上に嬉しそうな表情を見せる。
まあ当たり前だよな。何せ、白夜は・・・・・・ククッ。

「それじゃあ、また明日。白夜、お土産ありがとう」
「うん、またねぇ~」「ああ、またな」

フォノは白夜から受け取った小包をしまうと、俺達と別れて家に入った。
バタンッ
扉が完全に閉まる音を確認すると、更に近くに誰かいないか確認した。
よし、誰もいないな。なら・・・・・・

「フォノの好感度が一アップした」
「ひゃあ!?」

俺が白夜の耳の側で小さく囁くと、白夜は思いっきり身体をピンと伸ばした。
お、やっぱり図星か?

「な、なな・・・・・・何言ってるのリーンッ、ぼっ、僕はそんなつもりじゃ・・・・・・」

・・・・・・ゆでだこのように耳たぶまでカァッと赤くなって、必死に両手を上下にブンブン振って俺に何か説明しようとしてるみたいだけど、お前そんなに動揺してたらすぐに分かるって。
俺に説明するのを諦めたのか、白夜は顔が真っ赤のまま俯いた。
口で勝負したら俺が勝つからな。頭は悪くとも、舌戦ならば絶対に俺は白夜には負けない。

「うぅ・・・・・・フォノには、絶対に言わないでよぉ」
「分かってるって・・・・・・にしても、お前物好きだよなぁ。あんなヤツが好きなんてさ」
「・・・・・・リーン、言い過ぎ。フォノがかわいそうだよぉ」
「はいはい」

俺は先に家へと歩き出す。白夜も、あわててついて来た。白夜の顔はまだ赤いが、今はさっきに比べたら大分元に戻ってる。
まあ、こんな暗い夜だから誰も気付かないだろうな。
俺達が歩いている道には、誰もいない。
その代わり、近くの家から明かりが漏れていて、中から小さな子供の笑い声など(などっていうのにはきちんと理由がある。他には、激しい夫婦喧嘩のような声が聞こえるからだが・・・・・・まあ、気にしないでおく)が聞こえる。

「うわ、すっかり暗くなっちまった」
「本当だねぇ。あ、そだ」

何か思いついたような声を上げながら、白夜は一旦止まる。

「ルミネ、出ておいで」

この短い呼びかけに、白夜の額につけている紐から二本垂れ下がっている紐のうち、片方につけている霊石が淡く光り、そこから俺の時と同じようにルミネが現れた。
ルミネは少し俺達の周りを漂った後、すぐに白夜の頭の上へとちょこんと座り込むように着地。
昔白夜に聞いてみたところ、この場所はルミネにとってはお気に入りの場所らしい。
白夜が呼び出すと、いつもルミネはこの場所に乗るけど、俺やフォノが呼び出したときには全く違うんだよな。

「二人とも、先生からのお説教、かなり長かったみたいだね~」
「説教じゃなくて、今日の事件の報告だよぉ~」
「どのみち、叱られてたんでしょ~?」
「うー・・・・・・」

あーあー・・・・・・何だ、この鉛のようにどんよりと鈍く重くなっていくこの空気は。
おまけに、白夜は口でルミネに負けてるし・・・・・・。
まあ、ルミネのおかげで今は帰り道が明るいけどさ。
・・・・・・仕方ないなぁ。

「俺達は、叱られた分それなりに報酬があったんだぜ。
どっかの連中みたいに、他人の話を盗み聞きして先生に大説教を喰らったわけじゃないんだよ」
「むぅ~」

勝った!! ルミネは白夜の頭上でやや悔しそうに呻き、尻尾らしき長い物体が力が抜けて地面に向けて垂れた。
その様子を見てた白夜は小さく苦笑いしてたけど、急に何かを思い出したようにあっ、と小さく呟いた。

「そういえば・・・・・・さっき三人が宿題って言ってたけど、今日は宿題賭けはどうしたのぉ?」
「ああ、鍛冶屋の親方が今日から王都に行ってて、留守番頼まれてたんだと」
「へぇ。それで、宿題は?」
「えーっと、確か『現の世を除く四つの世と属性についての関係』だったかな。
一人レポート十枚、忘れたら廊下でバケツを持って二時間、だと」
「うわぁ。先生、さすがだねぇ」

白夜は他人事みたいにクスクス笑っている。
あの先生の罰や修行は普通だと考えられないぜ。今回のバケツを持って二時間なんてマシな方だ。
俺はたまに遅刻すると、村の近くにある結構高さがある崖から落とされて、それを上っては落とされて上っては落とされて・・・・・・ジ・エンドレス。
うぅ、嫌なものを思い出した。早く忘れよう。

「そのことなら、僕も一度フィンリヴィアで調べてるから大丈夫」
「助かるよ。ありがとな」
「でも、僕はあくまで助言するだけだからね。レポートは自分で書いてよぉ」
「・・・・・・了解」

気付くと、俺と白夜は家の前まで戻ってきていた。
家の中から美味しそうな匂いが・・・・・・うぅ、そういえば。昼に少しだけ食べたっきり、何も食べてなかったな。
ぐぅぅぅ・・・・・・
お、言ったそばから腹部から音が。

「あーっ、腹減った」
「はは、僕もだよ~」
「んじゃ、さっさと入って食べようぜ」
「うん」

俺が家の扉を空けて二人声を揃えてただいまと言うと、目の前からじいちゃんの俺達を叱りつける大声が。
その後ろから、ばあちゃんがじいちゃんを宥めながら俺と白夜を迎え入れてくれた。

コンッコンッ

「白夜ー、入るぞ」
「あー、うん。いいよぉ」

白夜の部屋を二回ノックして、俺は部屋へ入る。
相変わらず、白夜の部屋は綺麗に片付いているなぁ・・・・・・。
部屋の右奥に置いてある勉強机には本がきっちりと並べられてあって、本棚には隙間なくものが入っているけど、見るからに落ちそうな気配がない。
そして勉強机の反対、左奥に置いてあるベッドの側にある開けっ放しのクローゼットの前に、白夜はいた。
丁度風呂上りだったようで、動きやすそうなズボンと袖無しのシャツを一枚上に着ていた。
ウチの風呂は小さいからな・・・・・・一人が限界なので、順番に入るんだ。
俺が入ってきたのに気付き、白夜はこっちを振り向く。
思わず、俺は自分の顔が強張ったのを感じる。視線がある一点で固定されてしまった。

「リーン?」

白夜は、今の俺の状態を不思議そうに見つめている。
しかし、俺の視線の先を見てすぐに理解したみたいだ。
今、俺の視線の先には、白夜の右腕全体から右胸近くにまでに伸びる巨大な爪で斬られたような、とても大きくて痛々しい傷跡がある。
六年前、村の外で魔物に襲われた時に白夜が俺を庇って負ってしまった傷が。

「・・・・・・」

やっぱり、まともにあの傷跡を見るのは辛い・・・・・・。俺は、無意識に傷跡が俺の目に入らないように目を背けてしまった。
そんな俺の様子を、白夜も表情を曇らせて見ている。
この部屋の中に、沈黙が重々しく流れ始めた。俺も白夜も、髪一本動く気配が無い。
だけど、この沈黙を先に破ったのは白夜だった。
目の前のクローゼットをから、長袖の上着を取り出してすぐにバサリと袖を通す。
長い傷跡は、上着の手が見えるか見えないかギリギリの長い袖のおかげで隠れた。
顔の緊張が、ゆっくりとだが解れ始める。相変わらず、ダメみたいだ・・・・・・。

「悪い・・・・・・もう気にしないって決めたんだけどな。やっぱり、まだ、まともに見れないみたいだ」
「無理しなくてもいいよ。でも、僕はこの事は全然気にしていないから大丈夫」
「・・・・・・ありがとな」
「いつものリーンらしくないよぉ。リーンはもっと明るく元気にしないと」

気まずそうに謝る俺に、白夜はいつもの表情で微笑んでくれた。

「そうだな。じゃあ早速だけど、宿題教えてくれ!!」
「い、いきなり直球に言うねぇ~。分かった、いいよぉ」

俺は白夜の勉強机についているイスに座り、机にレポートを書くための紙と羽ペン、インクを置いて準備完了。
白夜は自分のベッドの端に座り、俺が用意する様子を眺めている。
俺の準備が終わったのを確認すると、白夜は静かに唇を開いた。
部屋中に白夜の優しい歌声が響き渡る。
昼に聞いた歌謳を発動させる節のようなものではなく、小さな子供に母親が子守唄を聞かせるような心地良いものだ。
さっきまでの辛いことを全て忘れさせてくれるような、そんな優しい声だ。
俺はその場でジッと目を閉じて白夜の歌声に聞き入っていた。

昔々のその昔 この世界は初め何もない無の場所でした

そこに世界が誕生しました 同時に神と精霊の長が生まれたといいます

神はやがて世界を二つに分けて冥界を

精霊はこの世界を繋ぐための場所を築きました

後に

神は世界の一部を切り離し新たな世界と人間を

精霊は世界の為に数多の精霊を生み出しました

人間は神と精霊の力を借りて魔術や多くの奇跡の御技を生み出すことが出来たといいます

しかし

人は其の力を以って幾多の争いを始めました

それは天高く轟き 多くの悲しみを降らせ 地深くに冷たい傷跡を刻むことになりましました

長きに渡って続いていた争いの日々は

ある日この世界が五つに分かれたことに因って 終わりを告げました

この争いの後 この世界はそれぞれの力を司る個々の世界となったといいます


そして 君が此処に立っている場所 これが今の世界の姿です

白夜が歌い終わった後も、部屋には余韻がしばらく漂っていた。
俺は静かに目を開く、目の前の白夜は小さく深呼吸。

「これは『世界のハジマリ』って歌だけど、リーンも知ってるよね」
「ああ、小さい頃からあちこちで歌わされるからな。それで、今回のレポートとこれって何の関係があるんだ?」
「属性について考えるには、まず世界そのものから見ていった方がいいと思ってねぇ。
この歌の通り、この世界は最初は一つだったけど・・・・・・今はどんな風になっているか知ってる?」

俺は、急いで脳内の記憶の本棚からこの世界についての情報を引き出す。
俺の記憶の本棚は、こういう勉強関係のものを直すには小さすぎるが、生きる上ではあまり役に立たない知識や悪知恵はたっぷりと収まっている。
うー・・・・・・ダメだ、ほとんど思い出せない。
頭を抱え、空を仰ぎながら唸っている俺の姿を、すぐ側で見ていた白夜は、小さく苦笑い。

「やっぱりねぇ~。リーン忘れてたでしょ? 僕がフィンリヴィアに行く前からずっと勉強してきたことだよぉ」
「うーん、この世界ややこしいんだよ。ヴィア先生の教え方だと余計わかんないしさ。頼む、教えてくれ」

うん、どうやらしっかりと見破られていたいみたいだな。
両手を合わせながら、俺は深々と頭を下げて白夜に頼み込む。
白夜は呆れたような表情を見せた後、すぐに普段の表情に戻って小さく肩をすくめる。
白夜はいつもこんな風に俺の頭の悪さを決して馬鹿にしない。どんなことがあっても、俺が納得いくまでゆっくりと教えてくれるんだ。
まあ、そんな白夜の努力を俺はたまに・・・・・・いや、大体は無駄にしてしまっている。
勉強関係は覚えるのが苦手なんだよ・・・・・・。

「分かった。じゃあ、ゆっくりと説明していくね。今回は、ちゃんと覚えてよぉ」

白夜はベッドから立ち上がり、俺が占領している机の本棚に置いていたノートを二冊、その半分の大きさのノートを六冊ほど取り出して再びベッドの側に座る。そして、白夜は側にリズを呼び出した。
一体何をやるのだろうか・・・・・・そう思っていると、白夜はリズを使って持っていったノートを全て空中に浮かばせ始めた。
大きさが違う合計八冊のノートはしばらく空中を漂っていたが、白夜がゆっくりとそれらを操作し始める。
すると、ノートは不思議な形を保ち始めた。
大きい二冊のノートの間を、小さな五冊のノートが一枚を中心にして四方を取り囲むように十字に並ばせ、サンドウィッチのように固定。残りの一冊は、その周りをクルクルと不規則に周り始めた。
一見奇妙な光景なのだが、俺は何となくだが見覚えがある。
えーっと、何だっけ・・・・・・ああ、なるほどな。これが分からなかったら、俺はこの世界の住人失格だな。
白夜が作ってくれたのは、この世界の模型だった。つまり、立体的に説明してくれるって事だな。なるほど。
白夜は、その固定した模型を上から順に指差し始める。

「この世界は、いくつもの平面状、薄い板のような世界がいくつも重なり合って成り立っているんだ。
大きく分けると、この世界は三つの層に分かれているの。まず、上は『天界・ラシアス』で、ここは神々や精霊が暮らす世界。
この天界がこの世界の中で最も上に位置していて、この現実世界の丁度真上にあるんだ。
次にその下にある僕達の暮らす現実世界と呼ばれている世界の五つの世・・・・・・これは、一つの世界が更に五つに分かれているの。
中央には『現の世』、北には『清瀬の世』、南には『業火の世』、西には『砂礫の世』、東には『蒼空の世』がある。
最後に、この現実世界の真下には『冥界・ゼトン』主に魔物、魔族が暮らす世界。一部の地域では人間も暮らしている。
そして、今僕達は現実世界にある『現』にいるってことだけど・・・・・・どう、分かる?」

うーん、なぜだろう。突然、酷い頭痛がしてきたけど、今の説明のおかげで、何となくだけど理解できた。今まで以上に。
俺は小さく頷く。白夜もそれを受けて小さく頷いた。
最後に、白夜は不規則に回っているノートを指差した。

「あとは・・・・・・この世界の中で唯一固定されていない『狭間の世』だね。これは、あまり数えられないんだよねぇ」
「どうしてだ?」
「この世界は、最初天界から冥界を切り離すときに偶然生まれたもので・・・・・・僕達、種族間が最後に行き着く場所って言われているところなんだ」

・・・・・・なるほどな。道理で、教科書とか簡単な参考書にはこの『狭間』については詳しく載っていないんだな。
白夜のような異種族の間に生まれた種族間は、このイルフィス国ではそう酷くはないけど、国によっては差別、迫害の対象となることもある。
その為に、種族間達は自らの正体がばれないよう正体を隠しながら暮らし続けなければならない。
でも、そんな生活に限界を感じてしまった種族間の最後の居場所としてあの『狭間』が存在する。
あの世界は、今どのような状態になっているのかは、誰もほとんど知らない。
ちなみに、白夜達のような種族間を呼ぶときにはもう一つ別の呼び名がある。『狭間のモノ』だ。
これは明らかに、種族間を人として見ていない。普通の人なら、モノは者になるはずだから・・・・・・。
この言葉は差別用語なので、俺は全く使わないし、大嫌いだ。

「・・・・・・次の話、進んでもいい?」
「あ、ああ。いいぜ」

俺の表情を窺っていた白夜は、恐る恐る尋ねる。危なかったな。
もう少しで、またさっきみたいなどんよりとした空気になっていたのだから・・・・・・。

「これで、世界については分かったと思うけど、これからは現実世界についての詳しい内容に進むね。
あの歌にはね、『ある日この世界が五つに分かれた』と『この世界はそれぞれの力を司る個々の世界となった』っていう歌詞があるの。
つまり、この現実世界が五つに分けられたことによって、それぞれの世がそれぞれの力を持つことになったってことなんだ」

・・・・・・ん? 急に、話の内容が壮大になったような気がする。

「ってことは・・・・・・元々はひとつの大きな塊が、それぞれの性質によって分けられたってことなのか?」

白夜は、凄く嬉しそうに頷いた。俺が、話の内容をしっかりと理解してくれたと思っているみたいだな。
まあ、白夜の教え方は先生よりも何倍も上手いからなぁ。実際のところ。

「そういうこと。だから『清瀬』では『水』と『氷』、『業火』では『火』と『炎』、『砂礫』では『土』と『重』、『蒼空』では『風』と『雷』の属性の力を司っているの。
このことから、各世ではそれぞれの属性の人を持つ人が多いいってことも分かっている。
でもね。『現』はそれぞれの属性のバランスが均等になっているから、属性についてはまだ解明されていないことの方が多いんだ。
きっと、だから先生は『現』以外の四つの世って言ったんだね」

へぇ、あの先生の発言は単なる気まぐれだと思ってたけど、裏にはしっかりと意味があるものだったんだなぁ・・・・・・。
しっかし。そんな複雑な裏の意味を理解するなんて、やっぱり白夜は頭がいいよな!!
その頭を一部でもいいから貰いたいよ。本当に。

「基本的な話についてはここまでなんだけど・・・・・・これじゃあレポート十枚を埋めるには少なすぎるねぇ。
この話だけだと、三枚程度でしょ?」

白夜は左手を顎に添えながら、いつもの癖で考える仕草を見せて小さく微笑んだ。

「だよなぁ~。まだまだ不十分だってことがよーく分かるよ」
「しょうがないなぁ。じゃあ、僕が昔書いたレポートを少し見る? あれは確か二十枚ぐらいだったはずだから」

近くに置いていた長旅用の鞄から、白夜はガサゴソと何かを探り始めた。
そんな白夜を見ながら、俺はふと考える。
白夜が書いたってことは、つまりフィンリヴィアで書かされた課題ってことだよな・・・・・・おぉ!! こんなに美味しいものは無いな!!
だけど、あんな名門の連中がこんな田舎の学校と同じ課題に取り組んでいるとは限らないからなぁ。

「そういえば、そのレポートって俺達と同じ課題なのか?」
「いや、ちょっと違うかなぁ。僕がやったのは『各世における歌謳の効果・威力に対して、属性相性を加えた相乗・半減作用について』だったんだけどねぇ。
このレポート、世界の仕組みとかについてで半分以上使っちゃったから、リーンのレポートに役立つはずだよぉ」

ゾクセイアイショウ? ソウジョウ・ハンゲンサヨウ? ・・・・・・だめだ、全く理解できない。
身体を起こした白夜から、そのまま俺はレポートを手渡された。確かに、表紙らしきページの中央に小さなシールでさっき白夜が言ってた奇妙な単語が羅列されていた。
見るからに分厚そうな紙の塊・・・・・・この中に書かれている内容を書けば、俺の課題は終わるのだ!!

「さんきゅー」
「頑張ってねぇ。僕も、レポートが完成するまでずっと見ててあげるから」

気がつけば、俺と白夜は次の日ギリギリまでレポートを製作に励み。その間、白夜は絶え間なく俺にアドバイスをたくさんくれた。
よーし、今回のレポートは完璧だな!!
だけど、白夜に手伝ってもらったって事は、先生に気付かれないようにしないとな・・・・・・。

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