蒼歌表紙版

蒼空の歌謳 -8-

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家の側から伸びている、村を囲う柵を超えるか超えないかスレスレの横道。
俺は、静かにその横道を進んでいる。この道の終着点を目指して。

「チチチ・・・・・・」

たくさんの鳥の声が重なる。俺の周りを、取り巻いている空気と共に音の波が押し寄せてくるようだ。
白夜が歌謳を使うときも、確か体中に音がこんな風にぶつかってくる感覚がするんだよなぁ。
俺は一旦その場に立ち止まり、上にあるはずの空を覆い隠すように広がる木々を見上げる。
しっかし、この道と周りの大木どもは相変わらずだな・・・・・・まあ、誰も手入れしているわけではないからな。
この辺りは俺の家の敷地のようなもので、村の外の魔物がいつ出るか分からないような危険な場所でもある。
そのお陰で、ほとんど人が出入りすることはない。・・・・・・たまに出入りする、約一名を除くが。
上を見上げても、左右を見渡しても、見えるものは青々とした緑一色。
やっぱり、この場所は不思議と落ち着くな・・・・・・さて、先を急ぐか。
俺は、再び止めていた足を動かし始めた。

道の最後の角を曲がり、最後に見えたのは左右に大きく広がる太い一本道。
そこが、俺が目指した終着点だ。
少し足を進めると、どうやら、俺の捜していた人物は無事発見されたようだ。
俺の四、五メートル前には、淡い黄緑色の長髪を腰より更に下で束ねている、着用に一苦労する二重マントを羽織っている少年が、ぼんやりと立ち尽くしている。
まあ、今までの内容から、多分分かると思うけど・・・・・・。

「やっぱりここにいたんだな」

周囲は鳥の声で満ちていた。
俺の口から発せられた声はそれよりやや小さかったけど、少しこの場所に反響した。

「・・・・・・白夜」
「リーン・・・・・・どうしてここに?」

突然聞こえた背後の声に、白夜は一瞬ビクッと身体を震わせたけど、すぐに振り返る。
いつの間にか、固まっていた自分の顔の表情が緩んだのを感じた。
ここに来ると、いつもこんな風になるんだよな・・・・・・。

「先生からお前を呼んでくるように言われたんだ。
家に帰ってみたらじいちゃんはお前がいないって言うし、もしかしたら・・・・・・って思って」

白夜は、俺を見て小さく微笑む。

「凄いねぇ~。やっぱり、リーンは僕のことなんでも分かっちゃうのか・・・・・・」
「・・・・・・母親の、お墓参りに来てたんだよな?」

白夜は小さく頷き、再び前を向く。俺も、白夜の側へ歩み寄った。
まあ、白夜の行動は大体予想はつく。白夜が家にいないとなれば、大抵は俺達と一緒にいるか学校の図書室で本を読んでいる場合が多い。
今は俺達とは一緒にいなかったし、白夜は村の学校には通っていないから学校には入りにくい。
となれば、白夜が行く先は唯一つ。他人の目も気にすることなく来ることができるここ、だ。
俺達二人の前には、何十年もその場に立ち続けていた大樹が。そして、その根元には、小さな碑石と花束が置いてある。
碑石には人の手で丁寧に彫られた文字があり、こう刻まれてある。

『シュレリア=ヴェイカント』

そう、ここは・・・・・・白夜の母親が亡くなった場所なんだ。
あの時、丁度この場に居合わせたじいちゃんが、亡くなる寸前の白夜の母親から白夜を預かったんだ。
でも、白夜はあの頃までの記憶はほとんど失ってるし、俺もその頃の記憶がほとんどない。
白夜と初めてあった頃の記憶も、結構曖昧だからなぁ・・・・・・不思議なことに。

「母さんには、まだ僕が謳い手の昇格試験を合格したことを報告してなかったから。
ようやく、母さんと同じランクを取れたことを、伝えなくちゃって思って。
やっと、同じ五重併唱を使えるようになったこともね」
「お前・・・・・・一年以上かけて、頑張ったもんな」
「・・・・・・おじさんとおばさんに、これ以上負担をかけたくなかったからね」

白夜は本来、フィンリヴィアの中にある謳い手を目指すクラスに所属していたんだ。
そのクラス『歌謳専攻科』には、フィンリヴィアで唯一の学費免除が利用できていた。
まあ、もしもこれが無かったら・・・・・・自分よりも相手のことを優先する性格の白夜は、誰が何と言おうとも、例え先生が「行け」と命令を下したとしてもフィンリヴィアに行かなかっただろうな。
でも・・・・・・二年前、歌謳を使いすぎて身体を壊し、しばらくは入院しないといけないぐらいの状態になったんだ。
あの時は、じいちゃんが王都の病院へ飛んでいくほど危ない状態だったらしい。
その入院後、学園の先生とヴィア先生の判断で、白夜は別のクラスへの転属を余儀なくされた。
以来、学費の免除が認められなくて俺のじいちゃん達が必死になって白夜の学費のために働いた。
国が作った学園じゃないから、学費は半端なかったらしい・・・・・・時々、先生も肩代わりしたぐらいだ。
そのことが、白夜を大分苦しめていた。
少し前までルミネを通じて話す事は、いつもこのことばかりだったんだ。

『自分のせいで他人を苦しめるぐらいなら、僕だけが犠牲に・・・・・・』

と、あいつの口からその言葉が何度も零れたっけ。
じいちゃんや先生達は、気にしなくてもいいって言ってくれていたんだけどな・・・・・・。
そして、クラスを転属した後、白夜は周りの人に迷惑をかけないでフィンリヴィアで勉強し続ける唯一の方法を見つけた。
その方法とは、謳い手のランクS、つまり最高位の資格を取ること。
この資格さえあれば、クラスに関係なくフィンリヴィアでの学費免除を使えるという決まりがあったんだ。
でも、普通の同じ年代の子供だったらまず不可能に近く、合格する確率もほぼゼロに近い。
しかーし! 白夜はそれを完璧にやり遂げ、無事に最高位の謳い手として認められたんだ!!
その報告は半年前、合格直後に俺やフォノにも届いている。

「これで、お前の望んでいたことが叶ったんだな」

俺の問いに、白夜は嬉しそうに頷く。
本当に、お前はいつも自分よりも他人のことを優先に考えるんだからなぁ・・・・・・。

「ようやく・・・・・・おじさんとおばさん、それに先生に迷惑をかけないで、フィンリヴィアにいられるからね。
今は、最高位の資格を取ったおかげで給付金が少し貰えるから、生活費も大丈夫だよぉ」

白夜は一息ついて、俺の方へ身体を半回転。
俺と白夜は、丁度お互い向き合うような形になっている。

「そろそろ、先生のところに行かないといけないかなぁ・・・・・・」
「先生のことだから、もう準備は整ってるころだと思うけど・・・・・・どうしたんだ?」

向かい合っている表情を見る限り、どうやらまだここに心残りがありそうな感じだな。
まだ、何かやり残していることがあるのか・・・・・・?

「うん。ちょっと、ね・・・・・・」

白夜は心配そうな顔を少し俯かせる。
何か言いたいことがあるけど、自分の中に詰まっている何かのせいで上手く切り出せないみたいだな。
まあ、これが白夜だからなぁ・・・・・・ここは一つ俺が手助けを、と。

「言いたいことがあれば、すぐに吐き出した方がいいぞ。どんなことでもな。
お前、いっつも自分だけで溜め込んでパンクするから」

俺の一押しで、白夜から心配そうな表情が徐々に薄れ始めた。
そして、左手を顎に添えて小さく笑う。
うーん・・・・・・顔立ちがそれっぽいせいもあるけどな。
その顔で更にそういう仕草をすると、白夜って本当に女の子みたいに見えるんだよなぁ。

「リーンらしいねぇ。うん、リーンのお陰で決心がついたよ」

白夜は一呼吸置いて、体を半回転させた。
俺達二人は、さっきと同じように同じ方向を向いて並ぶ。

「・・・・・・聞いて、驚かないでね?」

そして、白夜は小さな声で囁き始める。

「リーンは、僕がリーンのおじさんに引き取られて以来、ずっとここに通っている事は知ってるよね?」
「・・・・・・ああ」

俺は、小さく頷きながら返答した。
知らないはずはない。現に、白夜はここにいるんだからな。

「・・・・・・でも、ね。僕、良く分からないんだ・・・・・・」

だんだんと、白夜は口を開くのが辛くなっているみたいだな・・・・・・。
今は途切れ途切れで聞こえるものの、まだ声としては俺のお飾りではない耳に届く。

「・・・・・・何が、分からないんだ?」

俺の最後の一押しで、白夜は小さく深呼吸をする。
俺の耳にも聞こえるような大きな息を吸う音が聞こえ、そして・・・・・・

「僕には、母さんが『死んでいること』・・・・・・『人が死ぬ』ってことが、全く分からないんだ」

周囲に響く今の白夜の声は、普段の周囲を鉛に変えるようなとろんとした口調とは、全く違った。
どこか悲しげな雰囲気が周囲を包み込んでいるような、そんな気がしてきた。
俺と再び向き合うように体を半回転させる。
真正面には、どこか寂しげな表情の白夜がいた。

「変だよね、僕・・・・・・自分の母親が亡くなっているのに、その事実の大切さが理解できないんだ。
生きているものには、全て寿命がある・・・・・・だから、『当たり前のことで仕方ない』って考えてる。
いずれ、全ての命は限界が来て、やがて力尽きてしまう・・・・・・って」

自分の中に積もっていたことを一気に吐き出した白夜は、一息ついて更に続ける。

「こんな事、リーンやフォノに言ったら・・・・・・きっと変だって、嫌われるって思っててね。
ずっと、怖くて・・・・・・言えなかったんだ」

辛そうに自分の胸の内を話した白夜は、大きく俯く。僅かに、震えていた。
・・・・・・正直、驚いていないっていうのは嘘だ。
だけどな・・・・・・俺が今驚いている理由が、白夜の話した内容じゃない!!
あいつが、それだけ一人で必死に悩んでいたことだ。
きっと、白夜は物心ついた頃からこの問題に一人で苦しんでいたんだろうな・・・・・・。
少なくとも、ここ数年でふっと出てきてしまったことではないはずだ。

「白夜・・・・・・」

無意識に名前を呼んだ後、言葉は続かなかった。だけど、すぐに続きは見つかった。
俺は少し歩みを進め、白夜の目の前に立った。そして・・・・・・
ポンッ 俯いていた白夜の淡い緑色の髪の上に、小さく右手を添えた。

「・・・・・・リーン?」

不安そうに見上げる白夜を見て、俺はニヤリと大きな笑顔を作る。

「よく自分の思っていたことが言えました。偉い偉い」
「リ、リーン!! 僕は子供じゃないよぉ・・・・・・」

すぐに頭に載せた俺の手を、白夜は掴んで引き摺り下ろす。
その表情は、さっきとは正反対。顔を真っ赤にしている。
お、随分と怒ってるみたいだな。子ども扱いされたことに対して。

「えー。これ、お前がいっつも小っちゃい頃に俺にやってたことだぞ?
自分がやって嫌なのか?」
「あ・・・・・・」

どうやら、白夜も思い出したみたいだな。
俺は、ガキの時は今では考えられないほど、凄く臆病で弱虫でいつも泣いてばかりの苛められっ子だった。
そんな俺を、今よりもずっと体が弱かった白夜はいつも俺を庇ってくれていた。
そして、俺が何かしたときには、必ずこうやって撫でてくれたんだ。
引き摺り下ろされた後は白夜に主導権があった俺の右手は、すぐに開放された。

「それにしても・・・・・・お前、そんなこと一人でうじうじ考えてたのか?」
「・・・・・・だって、リーンは変だと思わないの!?」

普段と全く変わらない態度で会話を続ける俺に、白夜は思わず大声を出す。
まあ、普通はそうだろうなぁ・・・・・・うん。
けど、こっちだってそれなりの態度を取れる程度のお前の悩みの原因の根拠はある。
こういう時だけなぜか回転速度が上がり、普段は記憶の奥底深くに埋もってる便利な情報が頭の中を縦横無尽に駆け巡る俺の頭にはな。

「別に、変だとは思わないぜ。お前は半精霊。半分は世界を管理する役割を持ってる精霊だ。
だったら、世界の理とか真理とかは体に叩き込まれているはずだろ?」
「・・・・・・っ!?」

どうやら、こういう学問に関しては特に勘の鋭い白夜はすぐに気付いたみたいだな。

「それを考えてみたらどうだ? 生き物にとって『死』ってのは、当たり前のことだ。
それを、お前は生まれながらにして・・・・・・まあ、本能的にだな。それを理解しているんだ。
いくら半分はそういう感情が備わっている人間でも、それが発揮されるのは難しい場合もあるんじゃないか?」
「・・・・・・そっか。そう、だったんだ・・・・・・」

とは言ったものの、これはあくまで俺の仮説だし、信じるか信じないかは白夜次第。
まあ、こんな事をフォノの前で言ったら、確実に現実を見ろとか鼻で笑われそうだな・・・・・・ははは。

「でも、これはあくまで俺の仮説だからな・・・・・・あんまり信用できないだろ?」

俺が冗談交じりに苦笑いしたけど、白夜はそれを笑わずに、小さく微笑みながら首を横に振った。

「ううん、リーンらしい考え方だなぁってね。僕、信じるよぉ。
リーンのそういう説明って、結構説得力があるように感じられるんだよ?」
「そ、そうなのか?」
「うんっ」

さっきの暗い表情はどこへ行ったのやら。
さて、と白夜は大きく体をその場で伸ばし、両手を所々に木漏れ日が眩しい緑の天井と化している空に向かって伸ばす。

「リーンに話したら、ずっと悩んでた自分が馬鹿らしくなったよぉ。
もう大丈夫だよ。ありがとね、リーン」

おいおい、村一番の天才お前が、自分をバカって言ったら・・・・・・俺は、それ以下の下等生物じゃないか。
すっかりいつもの表情に戻った白夜を見て、俺の体も自然と解れていた。
というよりも、俺も緊張していたってことに今気付いたよ。

「んじゃ、さっさと先生ところに帰ろうぜ。そろそろ本当に行かないと、みんなが待ってるはずだ」
「うん。そうだね・・・・・・あぁっ!!」

俺の催促に頷いて、もと来た道を逆に歩き始めようと俺達二人は動き出した。
が、片足を前へ踏み出した途端、白夜は思いっきり声を上げる。
うわっ、突然大きな声が聞こえて思わず体がビクッと驚いてしまった・・・・・・。
ん、まだ何か忘れてるのか?

「ごめん、リーン。最後に一ついいかなぁ?」
「まだ何か忘れてるのか?」
「うん、大事なことを忘れててね。もうちょっと、付き合ってくれない?」

はいはい。俺は足を止めて、再び大樹の方を向く。
俺の前にいる白夜は、再び大樹・・・・・・いや、母親の方に向き直る。
後ろから見ても分かるような大きな深呼吸を一回。そして・・・・・・


創り出せ 創り出せ 全てを生み出す 元の力よ
Oyema soowet ebusowiakes

貴方は全てと繋がる 常に変わり往くものよ
Nena batinutoti hatuonetebsuami

汝失くして他は在らず
Uzara ahiznaneti hsukanatu

他失くして汝は在らず
Zara ahateti hsukaniznan

今 全ての歌一つに束ねん
Oyo nomukuyir awakinenuturaga nutot ete busahatana

世界を 全てを治めよ
Oya rakiton nnegusa dimuowetebus esa dirukut esadirukut

最後の一節を歌い終えた後も、周囲には静かに声の波が漂っていた。
これって、確か余韻っていうんだっけな。
俺の耳にも、未だに白夜の声がじんわりと残っている。だけど、とても心地良かった。
おっと、ようやく意識が自分の体に戻ってきたみたいだ。
また、白夜の透き通るような声に聞きとれてたみたいだな・・・・・・。
相変わらず、白夜の声は並の人間の出せるような声じゃないよなぁ。
ん、そういえば・・・・・・俺は、再びへ向き直った白夜を見て、口を開く。

「白夜、その歌って・・・・・・」
「うん、僕が先生に最初に習った歌だよぉ。歌謳を唱えるために使う『節』を練習するための。
小さいときから、母さんの前ではいつも歌ってて、僕なりの・・・・・・鎮魂歌、かな」

歌を歌いきった白夜は、どこか吹っ切れたようなすっきりした表情だった。
まあ、長い間ずっと詰まっていたものが取り除かれたようなものだしな。

「ごめんねぇ、時間をとらせちゃって・・・・・・急いで先生のところへ行こうか」
「ああ、もう先生は準備を済ませてるはずだぜ。お前も、荷物の準備とかは大丈夫なのか?」

ようやく歩き始めた俺達二人は、比較的ゆっくりとした白夜の歩みに合わせる。
今俺が全速力で走ったって、白夜は走れないんだからな・・・・・・うん。
俺の問いに小さく頷き、白夜は二重に羽織っているマントの下から、両手で抱えられる程度の口が紐で縛ってある袋を取り出した。

「うん、家を出る前にあらかじめ準備しておいたの。多分、一旦帰る時間はもう無いと思ってねぇ」

相変わらず、その場で何とかなるさと何も準備していない俺に比べて・・・・・・本当に手際がいいよなぁ、白夜は。
感心しながら、向こうの歩みに合わせていた俺だったが、ふと空を見上げる。
ん、今の太陽の位置からして、今の時間は・・・・・・え?

「び、白夜!! お前、学園に戻る時間は決まってるのか?」
「ふえ? あ、うん。午後三時ぐらいには戻るって、先生には言ってるから・・・・・・」

そうだった。
白夜が帰って来た最初の日、帰る時間帯もしっかりと決められていることを白夜の口から直接聞いたんだ。
だけどな・・・・・・

「お前、今もう三時半を過ぎた頃だぞ!! 太陽が大分西に傾いてるからな」

白夜も俺と同じく空を見上げた。そして、顔に焦りが見え始める。

「ほ、本当だ・・・・・・気付かなかったよぉ~」
「あの森は日が差し込みにくいからな。時間の感覚が狂うんだ」

俺は、白夜の右手を急いで引いた。

「急ぐぞっ。お前はリズに頼んで浮いたままで、俺が引っ張る」

だが、白夜は首を横へ振った。

「それじゃあ間に合わないよぉ。僕がリーンも引っ張るから、両手で掴まっててくれない?」
「でも・・・・・・お前の体力でそんなことして大丈夫か?」

白夜の体力は俺の半分以下なんだ。そんなことはあまりにも危険すぎる。
だけど、白夜は更に首を振り、小さく微笑んだ。

「平気平気。リズ達に協力してもらったら僕はあまり体力を使わないからね。
それに・・・・・・さっきのお礼だよぉ」

そういった白夜は、周囲に漂っていたリズを集め始める。
マントが微かに風を纏って靡き始めた。続いて淡い黄緑色の髪と額に結んでいる霊石の紐が下から浮かび上がる。
俺の目の前で、あっという間に今度は白夜自身が風を受けて宙に浮かんだ。
うぅ、そんな風に俺も元素霊を正確に操ることが出来たらなぁ・・・・・・。
俺の心の中の嘆きを知ることなく、白夜はそのまま俺に突進してくるような形で俺の両手を掴み引き上げる。
うわっ、体の内側が無理やり引っ張り上げられてくる感覚が・・・・・・いつもの事ながら、気持ちが悪くなりそうだ。
考えてみたら、白夜はいっつもこんな変な感覚を嫌でも感じなきゃいけないんだよなぁ。
ん? ・・・・・・って、考えているうちに俺は今地上から約一メートル五十センチぐらいの高さにいる。
そして・・・・・・

「白夜、速いっ速いっ!! 落ちるってー!!」
「んー・・・・・・リーン、何か言ったぁ~?」

目の前を走馬灯の様に走り抜ける緑の森の木々。その中を颯爽と走り抜ける俺と白夜。
まあ、俺は明らかにおかしな格好だけどな・・・・・・。
ヒュォォォ・・・・・・
風が、俺の耳の側をすり抜けていく。体も、前からの強い風でやや下半身が後ろの方へブラブラと足を着ける場所も無く彷徨っていた。
俺は両手を空へ掲げ、万歳をしている姿勢。その両手を白夜はしっかりと握り締めて進路を探していた。
とりあえず、学校へ着くまでは誰にも見られないことを祈りたい。

白夜、頼むっ!! 早く降ろしてくれー!!

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