蒼歌表紙版

蒼空の歌謳 -7-

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あの奇妙な事件から一夜が明けた。結局、あれは一体何だったのかはよく分からないままだけどな。
昨日酷い大ケガをしたデルアは、じいちゃんとばあちゃんの懸命の治療によってほぼ完治している。
まあ、ウチのじいちゃんはあれでも腕利きの治癒師(ヒーラー)だからな。
白夜の発作もしっかりと止められるぐらいの実力はある。
そして俺の方はというと、今日無事に先生に気付かれることなく、レポートを提出し終えた。
もちろん、先生には白夜に手伝ってもらったことは話していない。
ちなみに、昨日はこっぴどく叱られたあの三人は、バケツを両手で持って学校の廊下に二時間立つ羽目に。
口は災いの元だな。特に、自分が焦ったり周りがパニック状態になっているときはなおさらだ。
自分や周りが何を言い出すか分からないからなぁ・・・・・・。
嘘で分厚く丁寧に塗り固めた壁が、一瞬で砂と化し、一気に崩れ落ちるように。

あれからごくごく普通の平凡な毎日が過ぎ、白夜が戻ってきてからあっという間に一週間が経ってしまった。
今日は、予定通り白夜が王都にあるフィンリヴィアへ戻る日だ。

先生は腕を組み、丁度後ろにある柵に縋りながらある一点へ目を向ける。
そこにあるのは、ここから村の中央へと伸びる唯一の道。
俺と先生がいるのは、村外れにある自警団の演習場。とはいっても、元々は小さな牧場の跡地だけど。
ここでは、主に模擬戦闘訓練を行っている。そのため、この演習場の一部分には解読不能な文字が時々見られる。
今は丁度その状態。これから、俺とフォノの訓練を行う予定なんだ。
初めての模擬戦闘訓練。これから俺達は見るんじゃない、実際に相手と戦えるんだ!!
こんな訓練をこんなに早く参加できるとは・・・・・・ある意味、あの『切り札』とオーク共には感謝しないとな。

「お、向こうも来たみたいだな」

ずっと同じ姿勢のまま、一言も喋らなかった先生が急に顔を上げ口を開く。
俺も何事かと、同じ方向へ視線を向ける。
そこには村の中央へと続く道があるのだが、その先に、先程まで見えなかった人影が。
お、あれはフォノだな。しかも、何か大きいものを黒い袋に包んだものを抱えてこっちへやってきている。
そういえば、俺よりもフォノの方が遅れてやって来るなんて・・・・・・あまり無いことだな。
フォノの性格からして、あいつは集合時間よりも十分位は余裕を持ってくるはず。
・・・・・・ひょっとして、寝坊でもしたか? いや、それはないよな。今は丁度正午を過ぎたあたりなんだし。
大体、「まあフォノさん。ひょっとして寝過ごしましたか?」なーんて言えば、それが俺の最期の言葉になるな。
とまあ、俺の脳内で様々な思考が繰り広げられていたのだが、フォノが到着したのと同時にプッツリと切ることに。

「すみません。武器の修繕をしていて、遅くなりました」
「いや、大丈夫だ。突然悪かったな。今は親方さんがいないのに、俺の武器の修理まで頼んじまって」

フォノは小さく首を振りながら、抱えていた黒い袋を先生に手渡した。
手渡したとはいえ、その長さは先生の背丈ぐらいで、ある程度の幅がある。結構大きい。
受け取った先生は、その袋の中から目的の物を取り出す。
包まれていた袋から、やけに長い鞘に収まっているものが。おや、あれはひょっとして・・・・・・。
それを、先生は上方についているグリップを握り一気に抜く。
シュルルーン!! 独特の音が周囲に響き渡った。その刀身は日差しに反射して白銀に煌く。
やっぱりな。俺の予想は外れていなかったようだ。
先生が手に持っていたもの。それは、先生愛用のロングソード。
ウチの自警団は、先週リティカ村の襲撃事件の援護に行っていた。
フィンラの村に帰ってきた時、先生のロングソードは所々がほんの僅かだったけど、欠けていたんだ。
あの時援軍に行ってた連中に聞いてみると、あそこにいた魔物の数はよっぽど多くて、最後まで戦い続けられたのは先生だけだったとか。
まあ、あの先生の武器があそこまでボロボロになるってことは、よっぽど酷かったらしいな・・・・・・。
しかーし!! 今先生が持っているロングソードは、一週間前のものとは見違えるほど新品同様に輝いている。
先生はしげしげと自分の愛剣を眺めながら呟く。

「おお、やっぱりフォノの打った剣は見事だな。この前のよりしっかりしている」
「先生、この前は親方が打ったんですが・・・・・・」
「えっ・・・・・・あ、そ、そうか・・・・・・」

お、先生が意外にも申し訳なさそうな表情を見せてる。
実のところ、フォノは今の親方よりも実力が上らしい。
このことから、親方は昔勤めていた王都の鍛冶屋に度々戻って修行をしているとかしていないとか・・・・・・多分、今親方がいないのはこれが原因だろうな。
先生は、自分の愛剣をパチッと短い音を立てて鞘へ戻すと、目の前で並んでいる俺とフォノの顔を確認する。

「これで二人揃ったな。じゃあ、始めるぞ」
「「はい!!」」

俺とフォノは大きく返事を返す。今日から初めて参加できる訓練に対して、お互い気合十分ってことだ。
先生は、少し離れた所にある奇妙な文字が円を描いている部分へと向かい、その後ろで、俺とフォノもゆっくりと歩みを進める。
そこで、俺は奇妙な文字の円の様子をもっと詳しく見ることが出来た。
よく見てみると、そこの地面描かれている文字は、白夜が持っている呪書の中につらつらと書き連ねられている文字だった。
どうして知ってるのかって? まあ、あの本を白夜に何度も見せてもらってるからな。
それに、たまーにだけど、これは先生が使ってたりしている。訓練以外にも、黒板にちょろちょろっとメモするときとかに。
白夜の話によると、この文字は『古代文字』といって、現在この世界で使われている言葉の元となったものらしい。
だけど、この言葉はあまりにも複雑で、この世界で解読できる人はほぼ皆無。
元々は、精霊達が使っていたもので、今も精霊同士は公用語として使い続けているとか。
そのためか、白夜は苦も無くスラスラと読んでいる。まあ、歌謳はこの古代文字を使うから、謳い手としては丁度いいんだけどな。
先生は、その場にしゃがんで円の縁に手を添えると、後ろについてきた俺達二人の方を振り返る。

「リーン、フォノ。武器を出せ」

はいっ!! っと言いたいところだけど・・・・・・実は、今俺は武器を持っていない。
俺は、チラリとフォノの方を見た。フォノは、俺の視線を受け取り、すぐに後ろにつけているポーチから霊石を二つ取り出す。
水色の霊石と緋色の霊石だ。その水色の方を、フォノは俺の方に差し出した。

「少し周りが欠けてて、しばらく強化していなかったから、一度火の中に入れて改良しておいたわ。
前よりは良くなってるはずよ」
「どうも」

フォノから受け取った霊石を、いつも括っている紐に通し、固定。
それじゃあ、呼び出してみるか!!

「出て来い 『氷龍』!!」

いつもの眩い光。そして、右手にはずっしりとした重み。見てみると、そこにはいつもと同じ俺の愛刀が。
しっかーし!! この前より、見た目は変わっていないものの持ちやすく、そして軽くなっている。
さすがフォノ・・・・・・口や表情はああだけど、職人としては一人前だな。

「出ておいで 『炎鎚!!」

俺の後に続き、フォノも自分の武器を取り出す。お互い、準備万端だ。
俺達二人の武器が出てきたのを確認すると、先生はニヤリと笑う。

「じゃあ、呼び出すぞ。まずは、この前お前らが相手をしたオークからだ」

うぅ、ひょっとして、また先週みたいなネズミの大合唱を聞かないといけないのか?
そんな俺の心配を知らないのか、知っていてあえて無視しているのか、先生は気にすることなくニセモノの魔物を呼び出すための呪文を小さく呟き始めた。
一応、これは遠くのものとかを呼び出すための『召喚術』の一種、らしい。
まあ、俺達の使っている『武器召喚』も、この術の一種なんだけどな。

「・・・・・・ぁ・・・・・・に・・・・・・」

・・・・・・小さすぎて、聞こえない。いくらお飾りではない俺の耳であっても、聞こえない。
横にいるフォノも、不思議そうに首を小さく傾げている。お互い、こんな近くで見るのは初めてだからな。

「・・・・・・出て来い!!」

先生の大きな合図の直後、触れていた文字の円が淡く光り始めた。そして、その光は徐々に強くなる。
だけど、周り一面が眩い光に包まれるとか、そのような強い光ではないな。
そこまで強くならないうちに、光はまた徐々に弱くなっていく。
再び目の前が普段見ているぐらいの明るさに戻った頃には、あの文字の円の中に、あの見覚えのある、あの魔物。

「チュー!!」

俺の約一・五倍の背丈で、俺の二倍の横幅。両手を振り上げ、その右腕には荒削りなグレーブ。
幸い、現われたのは一匹のみ。どうやら、今回の演奏は伴奏なしの独唱みだいだな。
そいつは円の外へ出ようとしたけど、不思議なことに、ゴツゴツの硬い皮に覆われた顔面が何かにぶつかったようだな。
まるで、円に沿って特別な壁を張っているみたいだ。良く見てみると、円の周りにはシャボン玉のように薄い虹色の膜が張ってある。
でもオーク本人・・・・・・いや、人じゃないけど、は自分に何が起こっているのか分からないため、ジタバタ暴れまわっている。
目の前で起こっている奇妙な現象が理解できない俺とフォノに、いつの間にか立ち上がり円の側で右手を腰に当てている先生は今の状況を説明してくれた。

「安心しろ。俺が合図を出すまでは、こいつは外へは出てこない。何度も確認しているが、これが最後だ。
準備は、いいな?」
「「はいっ」」

お、ようやく戦えるみたいだな。俺とフォノはお互い顔を見合わせ、小さく頷く。
そして、同時に先生の方を見て大きく返事。先生はそれを確認して、腕を上げる。
そして・・・・・・

「それじゃあ、始めるぞ!!」

勢い良く振り下ろされた腕に呼応する様に円の周りに貼っていた壁が一瞬で膨らむ。
大きなパンッという破裂音とともに、シャボン玉が割れるように、膨らんだ壁はあっという間に消え去った。
同時に、近くにいた先生は一瞬のうちに遠くへ移動。
突如目の前から障害物が消えたオークは一瞬怯み、何が起こったのか不思議そうに硬直する。
けど、自分が自由の身となったのに気付くと、オークは俺達目がけて走り出す。
そのままの勢いで、ヤツは俺達に向かってグレーブを大きく振りかざした。
だが、そんな攻撃はもうお見通し!! 俺は右、フォノは左へそれぞれ別の方向へ走り出し、軽々とかわす。
オークのグレーブは何もぶつかることなく地面へ直撃。周囲に砂埃を上げる。
ヤツの攻撃は完全にかわしたものの・・・・・・この砂埃、意外と大きいし濃いな。周囲が濃い霧に包まれたみたいだ。
そのせいで、もちろんフォノの姿なんて見えっこない。
俺は砂埃を吸い込まない程度に大きく息を吸い込む。そして、見えない影に向かって上空へ叫ぶ。

「フォノ!!」
「分かってる。もうすぐこれは消えるから、あんたはその後に時間を稼いで!!」
「消えるって証拠はあるのか?」
「私の勘よ!! 信じるか信じないかは、今までの経験から判断しなさい!!」

返答は、意外と近くから聞こえてきた。了解!! フォノの勘なら、先生の勘よりも信頼できるからな。
フォノからの指示を受けたあと、少しの間、俺はその場でジッとしていた。周囲に、何かが動く気配はない。
お、良く見てみると目の前の視界が霧が晴れるようにはっきりと見えてきた。
しかも、丁度目の前にはあのオークらしき姿。
俺はその場から、一直線に駆け始める。
砂埃を纏うように、そして振り払うかのように両手を広げながらその中から飛び出す。
目指すは、目の前にいるオークの真正面!!

「うりゃあああああ!!!!!」
「チュー!?」

右足を軸に、右手に持っている氷龍を大きく左上に振り上げ、そのまま時計回りに回転するように右下へと一気に振り下げる。
さすがに真正面からの攻撃に驚いたオークだったが、すぐに持っているグレーブを水平に構えて、俺の氷龍を受け止める。
ガキンッ!! 周囲には重くて鈍い金属音が響き渡った。同時に、俺の氷龍とヤツのグレーブが触れた部分から赤い火花が散る。
うぅ・・・・・・この近くにいるフォノが聞いたら、きっと怒りそうな音が。
ヤツは俺の攻撃を受け止めたまま、俺はヤツに攻撃を与えたまま、お互いの武器は今は押し合い状態となっている。
いくらニセモノの魔物とはいえ、やっぱり凄いな。ほとんど、この前と同じ感覚、力だ。
ただ違うのは、こいつの方があいつらよりも知能が発達しているって事だけ。
今、俺もあのオークも、一歩も動けない状態になってしまった。
どちらかが押し返せば状況が変わるんだけどな・・・・・・。
あいにく、俺がヤツに押し返すことも俺がヤツに押し返されることもない。
お互い、力はほぼ互角って事か。ならば・・・・・・

「フォノ!! 今だ!!」
「チュッ!?」

オークの背後から、突如表れた黒き鉄鎚。そして、それはそのままオークの脇腹に直撃した。
いきなりの不意打ち、かつ俺のせいで動きを封じられていたオークは、自分を守る術がないまま、フォノの攻撃の勢いで空中へ浮き上がる。
そして、そのまま数メートル飛ばされ、仰向けにドスンと大きな音と砂埃を上げて墜落。
その様子を確認した後、すぐにフォノが俺の側に現れた。ようやく合流できたな。
俺とフォノは、急いでヤツの所へ走り出す。もちろん、警戒は怠らないさ。

「チュ~・・・・・・チュッ!!」

だが、走り出そうとした俺とフォノは、すぐに足を止めた。
砂埃がまだ宙を舞っているから、はっきりとした姿は見えない。だが、ヤツはまだ立っていた。
うっ、あのオーク、まだ動けるのか!? フォノのあんな攻撃をまともに受けたのに・・・・・・さすがは魔物だな。
俺は、フォノより一歩前へ出る。氷龍をしっかりと握り締め、構える。

「フォノ、あのオークがあそこから出てくるタイミング、分かるか?」
「・・・・・・多分、集中すればね」

大きく深呼吸して、フォノは目の前に広がる砂埃を眺める。俺も目線を前へ移す。
少し待ってみると、僅かだが砂埃が治まり始めた。ぼんやりと見えていたヤツの影も、徐々にはっきりと。
あと、もう少しで消える・・・・・・そう感じたとき、

「今よ!! 丁度真ん中!!」

フォノが弾かれたように叫んだ。同時に、俺も弾かれたように側を駆け出す。
あいつの勘通り、ヤツは俺の真正面から飛び出した。だが、向こうは突然現われた俺に驚いて動けない。

「うりゃああああああああああああ!!!!!!!」

俺は氷龍を身体の方へ押し付けながら、しっかりと両手で掴む、刃先はオークへ。
そのまま、オークへ向かって一直線。今回は右足を軸に使う俺流の攻撃ではなく、ただ相手の懐へ一気に突っ込む。
ドンッ!! ・・・・・・ん? オークの割には、やけに鈍い音がするな。
なるほど、あくまでコイツはニセモノってことか・・・・・・刺したときの感覚、音は、まるで袋詰めした袋を突き刺したようなものだ。
だが、オークにとっては十分なダメージのようだな。
ヤツは何度か体を痙攣させ、右手に持っていたグレーブが手からはなれて地面へ落下。

「チュ、チュチュッ・・・・・・チュー・・・・・・」

しばらくすると、氷龍から伝わる振動が完全に消え、目の前の相手が動かなくなったのを確認する。
そして、俺は氷龍をヤツから引き抜いた。
俺と氷龍の支えを失ったヤツの体は、そのまま重力に従って地面へ。
ドサリ、と大きな音を立てながらうつ伏せに倒れた。

「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・」

気付くと、俺は両肩を大きく上下させて息を整えていた。あの突入の時、全速疾走したからな。
オークが倒れ、俺が立っているこの場所に、後ろにいたフォノが合流した。

「何とか、終わったみたいね」
「まあな。ま、こんな戦闘訓練、俺達にとっては簡単なもんだぜ!!」

ガツンッ!! うぅ・・・・・・この柔らかい地面に釘の如くめり込みそうなほどの衝撃が!!
しかも、人間で最も重要な器官である頭部に。だが、この不意打ちは真正面のフォノからではない。
まあ、フォノも呆れ顔で俺の方を見ているけど・・・・・・。

「ったく。一戦、しかも魔物の中でもかなり格の低いオークを倒せただけで、調子に乗るな。
半人前の見習いが」

いつの間にか、俺の背後には右手の拳をしっかりと握り締め、左手を腰にあてながら、いつもの姿勢で立っているヴィア先生が。
さすが、俺への不意打ちで先生以上の攻撃を与えられる人はいないな。ちなみに、二番目はフォノだ。

「でも先生、見習いの俺達でも魔物と対等に戦えるようになったんですよ。一応は認めてくださいよ」
「対等? つまり、リーン自身はあの低俗で頭の悪いオークと同等の存在になって嬉しいのか?」

ニコリ。太陽の如く眩しい笑顔の光が、俺に降り注ぐ。しかし、これは決して聖なる光なんかじゃない。
この扱いからすると・・・・・・つまり、俺は、頭の悪いオークどもと一緒にされたってことなんだよな。
そう考えると・・・・・・あぁ、さっきの自分の発言を全て撤回したい・・・・・・。
そんな俺と先生のやり取りを、横にいるフォノは相変わらず無表情で見ている。
生意気な口の多い半人前の見習いに(分かると思うが、俺だ)、天からの鉄鎚を下した先生は、再び俺とフォノを見る。

「まあ、お遊びはこれまでにして、と・・・・・・じゃあ。次、行くぞ」

ヴィア先生は、再びあのニセモノの魔物を呼び出す円の方へと向かう。
俺とフォノは急いでその後を追いかけた。

本日、俺達の模擬戦闘訓練で戦った魔物(ニセモノ)は合計十二匹。
最初に戦ったオーク一匹から始まり、子鬼のような容姿のゴブリンや不定形且つヌルヌルしたスライムをそれぞれ四匹、また最後は異常な治癒力を持っているトロールを三匹。
いくら本物の魔物ではないとはいえ、やっぱり本気で戦うとなると、今まで以上に体力を使うんだな。
まあ、あれだけの魔物といきなり戦えば、疲れるのも無理もないんだけど。先生の訓練って、時々無茶苦茶なのがあるんだよなぁ。
だけど、何となくだけど・・・・・・この訓練のおかげで、今日しっかりと実感できた。俺にも戦う力があるってことを。
そして、俺とフォノが訓練を無事に終え、先生の後片付けを手伝いを終えた頃。

「おぉ、そうだ。リーン」

先生は急に何かを思い出したかのように、俺を呼び止める。
村の中心部へと戻ろうとしていた俺は、動かしていた足を止め後ろを振り返る。

「ん? 先生、何か忘れ物ですか?」
「まあ、そんなもんだな。すまないが、白夜を捜して学校まで連れて来てもらいたいんだ。
構わないか?」
「いいですよ。フォノ、悪いが先に帰るぜ」
「分かった」

俺はフォノに声をかけた後、急いで家の方へと走り出す。
村の外れにあるこの場所からは、家までの距離はやや遠いが一応は同じ村の中。
俺は今、魔物の侵入を防いでいる柵に大きく囲まれた村の中を、対角線のように正反対へ一直線に走っているようなもんだな。
そういえば、先生はどうして白夜を呼び出したんだ? 確かに、今日は白夜が王都のフィンリヴィアへ戻る日だけど・・・・・・あ、そうか。
確かこの村で唯一、先生は一応俺の父さんと同じ『転送術』を使えるらしい。
とはいえ、実を言うと先生は資格を持っていないけどな。時々、白夜を王都へ戻らせるために、こっそりと使っている。
昔白夜から聞いた話だと、資格無しであの術を使うことって、結構危険なことらしい・・・・・・。
お、色々考えながら走っていると、気付けばもう俺の家の前。
家の前にはじいちゃんがいた。手にはたくさんの薬草を入れてた木の皮で編まれたザルを持っている。
どうやら、さっきまで家の近くにある畑で薬草を摘んでいたみたいだな。

「じいちゃん。白夜がどこにいるか分かるか?」
「ん? 白夜は、お前と一緒じゃなかったのか?」

この会話では、最初に俺が尋ねたはずなんだけどなぁ。疑問形で返されている。
じいちゃんは、不思議そうに俺の方を見た。

「いや、俺はさっきまでフォノと一緒に先生と訓練してたんだぜ」
「そうか? お前が出て行った後に、すぐ白夜が家を出たんじゃよ。
わしはてっきりお前のところに行ったと思ってたんじゃがな」

なるほどな。俺はじいちゃんに一応お礼を言って、その場を離れた。
白夜は今、家にはいないし、俺達とも一緒にいないかった。
俺が先生と一緒に訓練を始めたのは大分前だしなぁ。戻っていても不思議じゃないんだけど。
あいつが一人でフラフラするような場所、か。

だとすると、今あいつがいる場所はただ一つ。
あそこ、か・・・・・・。

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