【書評】飲茶『正義の教室』の哲学史解説はあまりにも分かりやすい

こんにちは ネオ高等遊民です

結論から言うと、飲茶『正義の教室』は一刻も早く読んだ方がいい本です。


飲茶『正義の教室』ダイヤモンド社、2019

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一番言いたいことは先に伝えます

主人公、正義くんが本書結論部で出した正義に対する回答
それは、大変危うい。

しかし同時に、その危うさは、私たちそのもの。
正義くんは、私たち自身の危うさを身をもって示してくれてる。


この正義の教室を読み終わることはゴールでもなんでもない
私たちは不本意にも現実世界に存在している

あらゆる正義、あらゆる不正にまみれたこの現実
むしろ正義なんかどこにもないこの時代


キケロも言うように

なんという時代!
なんという人の道!


みなが勝手な正義をふりかざす
その正義の産物は、せいぜいtwitterやFacebookでの晒し行為および拡散行為としてしか現れない

それは単なる気分でしかない
自らの一時の衝動的な感情を、正義・愛・神などといってご立派なものに仕立て上げる

それは政治経済も同じ
財政再建の名の元に、こっそりと国民の負担を増やす政策
架空の人格である法人を優遇するために、実在の人格である個人をいじめぬく
現代とは、正義の名のもとに不正が行われている時代なのだ



そう、みんな少なからず感じているはずだ

「この世は、真面目に生きる価値がない」と


だが、私たちは愚かにも希望してしまう

「それでも、善く生きるには?」
「こんな時代だからこそ、何かしらの価値を見つけ、生きていくには?」


バカな・・・なんて見通しが甘いのだろう・・・!

現実には、正義など、もはや笑うべき概念ではないか。



だが、私たちは愚かにも期待してしまう

「それでも、正義を考えるには?」
「不正の時代を生きる私たちが、世の中を少しでも良くするには?」


それが、哲学。
だからこそ、人は、哲学を求めてしまう。
大概は失望するにもかかわらず。
失望することは予見していても、それでも求めてしまう。


そこに現れた本が、『正義の教室』

『正義の教室』とは
「善くありたい」という私たちの実りなき希望に、答えようとした本だ
私たちを正義の哲学に誘う羅針盤になる


著者は、飲茶。
書く本書く本ハズレなしの飲茶さんがどうしても描きたかったという、正義についての哲学

こんな本書くなんて、無茶しやがって…(ここらでお遊びはいい加減にしろってところを見せてやりたかったのだろう)


そして、哲学youtuberのオレ。

真剣に読んだ
私はYouTubeの生放送を使って8時間かけてこの本を読んだ


私の読む姿は真剣そのもの
飲茶さん本人も私の生放送を見てくれた


徳川倫理ちゃんもツインテールだと思い込んでいて、
「ちゃんと集中して読め!」と怒られ

自由主義の問題点を読んだ時には
「ネオ高等遊民のリア充嫌い&エリート意識は、自由論を書いたJSミルにそっくりだな!」とディスられ。

公式からの苦情を受けつつも、大変興味深く読み込んだ



だから正義の教室について書評と感想を述べたい。述べさせてくれ。


正義の教室はどんな本か。

たった一言で述べると


学園ラブコメ哲学エヴァンゲリオントラジディーである


以上終わりだ、もはや何も語ることはない



おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいコメディーとトラジディーが同時に入ってるじゃねえか

一体どういう本なんだぜネオ高等遊民

それは読んだ人にだけ分かるんだぜ・・・!


正義の教室の登場人物

主人公の男の子が正義

徳川倫理
千幸
ミユウ

という3人の女子


女子


女子!


それぞれ

功利主義
自由主義
直観主義

の考えを代弁する対話相手

よくわからないと思うので分かりやすく直すとこうなる(たぶん絶対)


完璧だ。我ながらわかりやすい

さらに倫理の授業の先生、風祭先生がいる

これはエヴァでいうと梶さん。(もはやゲンドウでも冬月でもなんでもいい)


正義の教室の目次と構成

全9章+エピローグ
最初の2章はプロローグと問題提起

3-4章 功利主義の特徴と問題点
5-6章 自由主義の特徴と問題点
7-8章 直観主義の特徴と問題点

これらの考え方と問題点をそれぞれ2章ずつ使って解説


最終章では哲学者フーコーの解説を中心に据えて
構造主義およびポスト構造主義についての簡単な解説がある



私のお伝えしたいポイントは3つ

1
第7,8,9章の哲学史的な解説が非常にわかりやすくて面白い
2
主人公の正義(まさよし)くんが
本書の結論部で出した正義が非常に危うい、危険なものであること
3
読者さんには『正義の教室』では扱われなかったギリシア哲学、特にプラトン『国家』を読んでほしい


では ポイントを1つずつ 詳しく

第1のポイントは哲学史的な解説の面白さにある


それは第7章第8章に現れる

「絶対的な正義といったものは存在するのか、存在しないのか?」という議論が生じる

そして

・絶対的なものの存在を仮定する哲学
・絶対的なものの存在を否定する哲学

に分け、哲学史とはこの対立軸で発展してきたのだと説明される


哲学史の歴史は2500年と長い
もちろん様々な軸から、様々な見方ができる。

だが飲茶さんが採用した対立軸は非常に分かりやすい

ギリシャ イデア論 vs 原子論
中世哲学 実念論 vs 唯名論 (普遍論争)
近代哲学 合理論 VS 経験論


ちなみに実存主義や構造主義ポスト構造主義などは全て
絶対的なものの否定する立場

このように1つの観点から哲学史を解説するのが実に見事だった



この解説は主に第7章から第8章に出てくるが、
その他前半の章でも哲学者の思想の解説は秀逸だ


功利主義の特徴と問題点を語る章では、ベンサムについての詳しい解説がある

自由主義の特徴や問題点を語る章では、ロールズの解説が。
無知のヴェールも思考実験まで含まれており、ロールズの正義論を読者が追体験できる形で非常にわかりやすく解説されていた



第1のポイント=哲学史解説の面白さは、まだある。

第9章のポスト構造主義の話
フーコーの解説が非常に詳しく書かれていた

さらに私がとても 感動した部分がある
それは、構造主義の思想を解説するときの例え。


構造主義を

・コップと
・コップに入る水

に例えた

コップが構造
水が私たちの思考


構造主義の基本的な考え方とは何か?

私たちの行動や思考は、その時代やその場所が支配している構造によって規定されている。
そして、その構造から抜け出すことはできない
その枠組みの中でしか物を考えることができない

という考え方だ。

コップに水を注ぐ。
コップに注がれた水はコップの形になる

しかしこのコップが時と場所を変えればどうなるか?
コップに入った水を1時間後に花瓶に移すとどうだろう?
当然水は花瓶の形になる。水はぬるくなる。


なんて分かりやすいんだろう。
我ながら素晴らしい説明だと思う


あ、違った。

これはオレのやつじゃない、飲茶さんのやつだ…



ともかく、このように構造主義を説明したのは感動的に分かりやすかった。

以上が 正義の教室における哲学史的解説の感動的に面白い部分である。



ここを読むだけでもこの『正義の教室』を購入する価値は十分にあると思っている


第2のポイント、正義くんの出した正義は危うい。

ここにこそ、『正義の教室』の問題点および批判すべき点がある。


しかしその問題点は、外から指摘して悦に入るような類の問題ではない。

ちょっと哲学かじっているyoutuberが難癖つけて終わりという類の問題ではない。


この問題は、まさに私たち自身の生き方を根本的に見つめ直す機会となる。なってしまう。

著者による恐ろしい仕掛けなのかもしれない


これも書こうと思うが、もうずいぶん長く書いた

また後日書きます。



飲茶『正義の教室』ダイヤモンド社、2019

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