見出し画像

晩秋の道みち、ひかりや風と一緒に
枝川の流れをほぉっと見ながら歩く。
特別になにかをするわけでなく
秋の中を漫ろ歩くような、ほぉっとした感じで。

木の葉も少しずつ色を変えて
秋が深まってきたことを教えてくれる。
標高250メートルの小山のふもと。
ブナの木の枝ぶり葉ぶりは大らかで大胆で
まるで守り木のようだと思った。
辺りにはあなたの子がぽと、と散らばり
いつか君もコナラの木になれるのかな。
数十年後に、そうなれればと夢を見るように思った。

赤い実に触れてみた。
この子は触れるとなお、ほとばしろうと揺らぎだす。
実を摘まむと手のひらが覚えているような
話しかけたくなるような懐かしい気持ちになる。
無数の思いと無量の思いをひと粒ひと粒に含んで
ふくらみゆく日々がここにあって、かつてあって
今に至る証しを、時と呼んでいるのだよと
わたしに語り、伝え、そうしてまたほとばしる。

転がる実と垂るる実を並べたり連れ帰ったりする。
そのちいささ、を思いながら。
ちいさすぎて通り過ぎてしまう。
気づいても立ち止まらないで過ぎてしまう。
そのようなちいさなものことは
人のそばにあって、いつでもそばにあって
あったことさえも忘れるほどちいさいけれど
そんなちいさなものから、とくとく、とくん、とくん。
じょうぶな心音が聴こえてくる。
とくとく、とくん、とくん。
同じかな、おなじだ。わたしと。



わたしも、実。ひとつの実。

赤くてちいさな。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?