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[詩]「彼から届いた詩的手紙」

病巣から発信されたサインに気付かぬふりをする
それは 君の横顔が美しいから
それと お寿司を頬張る君の顔が可愛いから

壊死した細胞から送られてきた死を予告する脅迫文は
目を通さずにレーターケースに仕舞い込む
角のない痛みの側面には鋭利な刃が付いていて少し厄介だが
自分が死ぬ時期は私自身がよく知っている

怖れはない
生き物は必ず死ぬものだと観念しているから
悔いもない
これまで思いどおりに生きてきて
死ぬまでいつも通りの日常を送るつもりでいる人間が
何を悔いるというのだ
やり残したこともない
課されたノルマがある訳ではないし
できるところまで作業を進めて死んでいけばよい
また 私は死を宣告されたことで焦って旅行に出掛けるような粗忽者ではない
旅先で見た景色など意識の消失と共に消えてしまうのだから

結局 私は
「自分が死んでしまう」というような主観的な捉え方はしておらず
自身の死に向かう過程を「彼の死」というような客観性を以って眺めている
「彼」が「主観的な私」に戻るのは
呼吸が困難となる死の間際なのだろうと私は予想している

沈鬱な冬の景色とベクトルを同じくする倦怠感
そんな薄暗闇の時間の中で
さっき私は大好きな君の顔に手を伸ばし
その鼻先に触れ 何にも勝る無上の悦びを得た
虹色の明日への希望など無くても
呼吸が止まるまで私は生きる

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