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郷土愛のような感情

僕は東京郊外のベットタウン出身で、「郷土愛」というものが少ない。

地方出身の方々が各々の地元を愛情を持って語っていることにとてもうらやましく感じていた。

そんな中、僕が「郷土愛」に似たような感情をもつ場所がある。それが、父親の実家のある福島の山奥の村である。

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僕の両親は父が福島で母が新潟出身だ。幼い頃の里帰りは母方の実家が多かった。ただ数年に一回、父親の実家である福島の村に行くことがあった。

祖父は僕が生まれる前に他界していて、寝たきりの祖母がいて、長男の叔父さん夫婦が切り盛りをしていた。

家のすぐそばに先祖のお墓があるお寺があり、そこでお墓参りをした。家のすぐ裏にきれいな川があり、水遊びができた。夜、外に出ると満天の星空で、自動販売機の明かりにカブトムシが群がっていて喜んで採って遊んだ。

古いがとても広くて立派な家だった。小6のころだったか、祖母が亡くなり親戚一同でのお葬式での集まりがあった。数十人の親戚で夜ご飯を食べ、みんなで泊まった記憶がある。

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十年経ち、僕も社会人になり、昔から取りたかったバイクの免許を取った。まるで翼を得たように行動範囲が広がり、色んなところに自由に行けるようになった。

その年のゴールデンウィーク、泊りがけで遠出をしたいと思った。その時真っ先に浮かんだのが父の実家のある村であった。行くのは祖母のお葬式以来だったかもしれない。

下道で、峠道を超えてはるばるたどり着いた。十年前のかすかな記憶を頼りに辿り着くと玄関の外にちょうど叔父さんがいた。父の面影があるのでよくわかる。父より20ちょっと年上なので、祖父のような感覚である。

葬式の時には数十人の親戚で賑わった広い家も、今は叔父さん夫婦と僕の三人だけだった。夜は食べきれないほどの山菜や川魚といった田舎料理を頂き、いろいろと話をした。

翌朝は、畑を手伝ってみるか、と言われ、軽トラに乗って畑へ。とても広い畑だった。天気も良く、青空に新緑が映えとても気持ち良かった。

ジャガイモの植え付けなどを手伝った。90近い叔父さん夫婦であったが、「腰痛いわあ」と言いながら、テンポよく作業をこなしているのをみてすごいなあと思った。

「東京で仕事していたらこんなの味わえないだろう」と叔父さんは言った。

とても穏やかな性格の叔父さんであったが、戦争経験者でベトナムに戦争に行った時の話などをサラッとしてくる。今の僕には全く想像のつかない世界の話だ。いろいろ経験して芯を持った叔父さんのことをとても素敵に感じた。

短かかったが、とても印象に残る旅になった。

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それからまた十年くらい経ち、その福島の村がネットのサイトの記事で特集されているのを見た。

伝統工芸である「からむし織」という織物が時代を経てまた注目されているというのだ。東京でそのイベントがあるとのことで足を運んでみた。

からむしという植物の繊維から織物を作るというもので、実演があり繊維をとるときのシャァーという独特の音がとても快かった。

会の終わりに、観光協会の方に父親の実家があることを告げるととても喜んでくれた。村に住んでいる別の親戚の叔父さんとは知り合いだという。狭い村だからこその繋がりがあった。

「東京で頑張っているのねえ・・・」と言われたとき、まるで僕自身がその村から上京してきたかのような錯覚を得た。

その時ちょっと思った。僕はこの村に「郷土愛」のような感覚を感じる。いずれ何か関わっていきたいと。

気質も何か似ている気がするのだ。とてもシャイでよそ者を受け入れるのには時間がかかるが、慣れればとても情深い人たちだと思う。

具体的に何ができるかは考えていない。今話題の二拠点居住とかもこの村でできるだろうか。人生の選択肢として検討してみたい。このような感情を抱けることを少し幸せに感じる。


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