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冷蔵庫に、2本のおまもり。

日々、頑張れども頑張れども、終わりのない仕事。

帰宅ラッシュの時間に帰れることなんかない。終電でなんとか帰るか、深夜も深夜にタクシーだ。名ばかりの残業代は、タクシー代に消える。

ふと、考えることがある。なんのために頑張っているのか。頑張った先に何があるのか。考えると、このままどこかに行ってしまいたい気分に駆られる。が、抜け出す度胸もない。

そんな日々も当たり前になり。堂々巡りもそんなものだと思うようになり。いつか抜け出す日があるのか考えたって、まるでフィクションのドラマとしか思えない。このまま、当たり前としてサラサラと砂のように時間が過ぎ去るのだろうか。


「おはようございます」

毎朝、職場の人にしか言わない言葉。

時間も忘れてパソコンに向かい、デザインして提出しては修正しを繰り返す。こうしてほしいと返ってくる言葉が、さっき言ってたことと違うなんて日常茶飯事。

昨日笑ったかな?いや、最後に笑ったのはいつだろう。怒る気力すらない。そのくらい感情が止まっている。どこにおき忘れてきたのだろう。


22時、お昼ご飯なのか晩ご飯なのかわからない食事をとるため、いつものコンビニに向かう。適当に目についたお弁当を手に取り、お菓子とレッドブルとガムも買う。深夜コースを受け入れた時のメニューだ。

いつのも店員さんがレジを打つ。「お疲れ様です」の一言に癒される。キャンペーンだと言ってくじを引くよう紙のボックスを渡され、適当に引いて見せる。「あ、あたりですね。おめでとうございます!今引き換えますか?」と言われ、よくわからないまま「じゃあ…」と歯切れの悪い返事をする。


目を覚ますためベランダで夜風に当たりながらお弁当を食べ、食後にコーヒーを飲みながらタバコをふかす。ガムを取り出そうとガサゴソ袋を探ると、買った覚えのない栄養ドリンクが出てきた。

あ、さっき当たったやつかな?栄養ドリンクだったっけ?栄養ドリンクが当たるなんて、神様が見てるのかも、なんてくだらないことを考えて力なく笑う。


デスクに戻ると、また覚えのない栄養ドリンクが置いてあった。

"お疲れ様です。お先に失礼します。良かったらどうぞ。
でも頑張りすぎずほどほどで。"

付箋にメッセージ。ほどほどか、と長く息を吐く。

2本並んだ栄養ドリンクと、レッドブル。

"どれだけ頑張るんだよ!"

と心の中で突っ込んで、笑った。


栄養ドリンクは冷蔵庫にしまって、レッドブルを流し込む。
この栄養ドリンクは、優しさの魔法がかかっているから取っておく。朝までコースの日のお守りだ。

それは今日かもしれないし、明日かもしれない。

終わらない戦いのお守りに、2つの守護神。
止まっていた感情が、少しだけ動き出す。

さて、もうひと頑張りするか、と大げさに伸びをしてみる。


でも、ほどほどに。



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サポートとても嬉しいです。凹んだ時や、人の幸せを素直に喜べない”ひねくれ期”に、心を丸くしてくれるようなものにあてさせていただきます。先日、ティラミスと珈琲を頂きました。なんだか少し、心が優しくなれた気がします。