スパイスと私。第3回は白胡椒の話です。前回黒胡椒についてお話ししましたが、黒も白も根本的には同じものです。収穫のタイミングと製造方法の違いがあるだけなので、基本的な香りの成分は同じだとも言えます。

ではなぜこんなにも香りの印象が違うのでしょうか？？？

黒は肉に、白は魚に、と明確に使い分けられていることや誰もが違いを感じる部分にはどの様な違いがあるのか？？？僕も今まで感覚的には理解していた部分を自分なりにしっかりと調べてみました。

まず第一に大きな香りの違いはインドール系の香りです。これは腐敗臭と言われる悪臭なのですが、濃度が低いとオレンジやジャスミンの花の様な香りに感じます。

なぜこの香りが生成されるかというと白胡椒は外皮を取り除くために水や流水につけて外皮を柔らかくさせるのですが、その環境が良くない場合、外皮が腐敗することがあるそうです。その過程で腐敗臭が発生し、乾燥させる段階でも少量残ることでインドールが残る様なのです。

現在の白胡椒の製造環境が劣悪かどうかはわからないのですが、この様な背景があることはわかりました。また乳酸菌がインドールなどの香りを生成しやすい性質があり、似た様な香りを持っていることがあるそうです。

このことから、ホワイトソースや乳製品、チーズなどに白胡椒を合わせる理由が垣間見えます。

白胡椒は辛みではなく旨味

これはすごく感覚的な話になってしまうのですが、白胡椒はそれだけで旨味の要素があると思っています。例えばですが乳製品系のソースやシチューが何か足りないな？と感じたら塩を入れるか白胡椒を少し入れます。

不思議なことに白胡椒の香りは旨味を感じやすくなるというか、塩味を引き出してくれる印象があり、塩が足りない場合に塩を入れるのもいいのですが、香り的に問題がないのであれば白胡椒を加えることで塩分は変えずに美味しさを担保することができます。

これは乳製品との香りの相性が良いとか、そもそも食欲の湧く香りだからとかいろいろな可能性のあるものだと思うのですが、明らかに成果が出ます。それと硫黄系の香りとの相性も良いと思うので、加熱した玉ねぎやキャベツなどとの相性もかなり良いです。

以前ツイートした玉ねぎのスープにチーズと白胡椒をかけると良いのはこの様な理論があるからです。

魚に白胡椒は絶対ではない。

この写真の料理はメカジキのローストなのですが、白胡椒で香りをつけていました。僕は魚の種類によって黒胡椒と白胡椒を使い分けるのですが（そもそもあんまり胡椒を魚に使わない）メカジキは絶対に白胡椒でした。

これを書いていて思ったのは、嫌な香りになり得るもの同志を組み合わせることで、それが好転するのではないか？という仮説です。

魚は肉に比べて腐敗臭がしやすいです。そもそもの賞味期限的なものも短いですし（管理によって変わる。熟成の概念もある）嫌な香りが発生しやすい。チーズも熟成発酵のあるものだということも考えると、白胡椒のわずかにあるインドール系の香りが一役買っている可能性は大いにある。

メカジキはどうしても独特の香りがある。ほとんどはカツレツやグリルにして別の香りを纏わせつつしっかりと焼く。

でも僕はメカジキを2〜3週間ほど寝かせてから、周りの乾燥した部分を削いでから使っていました。表面はどうしても香りが強くなってしまうので削いで中だけ使うのですが、それでも根本的なメカジキの香りは残っているので、それを白胡椒とニンニクオイルでマスキングしていたのです。

こうすることで嫌な香りはほぼ感じず、むしろとても美味しくなる。しっとりと仕上げたメカジキはレストランでしか食べれない一皿になっていたと思います。

どんなスパイスでもその本質を理解する

黒胡椒、白胡椒は当たり前すぎるスパイスなので、その使い方や成分に対してフォーカスすることは少ないと思います。しかしその性質的に相性の良いものはまだまだあるはずで、当たり前のスパイスだからこそ新しい提案ができるはず。

改めて胡椒の話をまとめることで自分の考えもクリアになりましたし、これまで以上に良い提案ができる様になると思います。この様に身近だからこそ調べない、あまり意識しないことは料理以外にも沢山あると思うので、もっと色々なところへ意識を向けることで新しい発見があるなと感じましたね。

スパイスの世界は本当に深く、現時点では僕自身も知識があるわけではありません。だからこそ、このコラムを通して学んでいき、新しい提案を届けられたらと思います。

また、良い香りの組み合わせだけでなく、本当の香水の様にノイズになる香りを敢えて加えたり、相反する香りの組み合わせから得られる可能性の様なものも探っていきたいですね。

4回目に何をやるか考えていませんが、次回もお楽しみにしてください！（バニラとかにしようかな）