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短編【紫の蝶】小説


1

「なあ、出来杉」
「なんだ、野比」
「おまえ、一日何時間勉強してたんだよ」
「俺か?最低8時間かな。調子がよけりゃ10時間」
「そうか。お前でもそれくらいしてるのか。じゃ俺はもっとしなきゃならんな…。それにしてもお前は凄いよなぁ」
「何が」
「大学一発で合格してさ。しかも受験勉強中に3人も泥棒を捕まえて表彰もされてさ」
「ああ。アレは偶然だよ。俺の部屋、強盗に狙われ安いんだな」
「強盗に狙われてやすい部屋って、どんな部屋だよ。はぁ。時間が欲しい!」
「勉強時間も大切だけど、それよりもストレス対策が一番肝心だよな。ストレスを抱えていたんじゃ、いくら長時間勉強しても身につかんからな」
「ストレス対策ねぇ。お前はどうしてるの?ストレス解消に何してるの?」
「まあ、普通にカラオケとかボーリングとか」
「どこにそんな時間があるんだよ!」
「お前は?」
「おれ?俺は…まぁ…いろいろと」
「風俗か?」
「ち、違うよ」
「オナニーか?」
「違うって!」

俺の名前は出来杉貴文。自慢じゃないけど幼い時から優等生だった。周りもそういうふうに俺の事を見ていたし俺も優秀な自分を演じていた。やがてそれはプレッシャーになり鎖状のストレスが俺を雁字搦めにし始めた。そのストレスの鎖の締め付けは年々きつくなり、勉強にも支障を来たし始めた。

強盗に襲われたのは、そんな時だった。真夜中、勉強に疲れて気分転換に洗面所で顔を洗っている時に強盗は俺の部屋に進入してきた。俺は護身用の金属バットで強盗を殴って警察に突き出した。始めて人を凶器で殴った。その時感じた何とも言えない爽快感。その日を堺に一気に勉強が捗った。あれ以来、俺はストレスがたまると強盗を襲って憂さを晴らしている。窓際に女物の下着をぶら下げているだけで獲物は簡単につれるのだ。今夜は紫色のこのイヤラシイ下着で釣ろう。


2


俺の名前は野比太郎。今夜も勉強が捗らない。ストレスのせいだ。出来杉のヤツはストレス解消にカラオケやボーリングに行っていると言っていたが、俺にはそんな時間も金も無い。そんな時は深夜の散歩に限る。そして…下着を盗んで逃げるんだ。その時のスリルが堪らない。ちょうど向こうに紫色したイヤラシイ下着がひらひら揺れている。闇夜にただよう蝶のように。今夜は、あの下着を頂こう。

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