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短編【願いが叶うまで】小説

「まだ、胃は痛みますか?」
「少しは良くなりましたけど、まだ少しシクシク痛みます」
「夜は眠れますか?」
「最近はあまり眠れません」
「そうですか」
「先生、この胃の痛みは何なんですか?」
「ストレスですね」
「ストレス?」
「少し、お仕事を休んで、のんびり過ごしてみて下さい」

ストレスぅぅぅ!!冗談じゃない!自慢じゃないけど、俺は今まで一度もストレスを感じた事はない!思った事はズバズバ言うし、ウジウジ悩む事も無い!この医者は藪医者だ!別の医者に診てもらおう!セカンド・オピニオンだ!と槙尾まきお和久かずひさは思った。

セカンド・オピニオンというのは主治医の承諾を経て、他の医者の意見を聞く事であって診断が気に食わないから別の病院へ行く、という事ではないのだが槙尾和久は、そんな事は知らない。

「ストレスですね」
「は?」
「ストレスで少し免疫力が落ちてますね。ま、一応お薬は出しておきますけど、しっかり睡眠とってゆっくり休んでください」


はぁぁぁぁ?ストレスぅぅぅ!ちゃんと調べろよ!ナンでもカンでもストレスで片付けやがって!この医者も藪医者だ!別の医者に診てもらおう!サード・オピニオンだ!と槙尾和久は思った。

サード・オピニオン、フォース・オピニオンと自分が思った通りの診断がでるまで繰り返してしまう。そういう底無し沼のような状態になりつつある事に槙尾和久は気づいていない。


「ストレスですなぁ」
「ストレス、ですか・・・」
「はい。ゆっくり休んで下さい。それが一番」

ホントにストレスなのか・・・。そんな馬鹿な・・・全くストレスを感じないという事が唯一の自慢だったのに・・他の医者に聴いてみよう…ここも藪医者だ・・・ああ、胃が痛い・・・。と槙尾和久は腹部をさする。生まれて初めてストレスを感じている。

この一年間で何度オピニオンをしてきたのか槙尾和久は分からなくなってきている。

「ストレスでは有りませよ」
「え!ストレスじゃない!以前診てもらった医者にはストレスだって言われたんですけど」
「んーー。私は簡単にストレスと診断を下すのは好きじゃないですね。だいたい、ストレスなんて本当は存在しないんですよ」
「え?ストレスって無いんですか?」
「ええ、私はそう思います。肩こりってアメリカには無いって知ってますか?」
「そうなんですか?」
「はい。肩こりは日本にしか無いんです。だいたい、肩こりっていう英語自体がないんですよアメリカには。日本人は肩こりって言う言葉を作ったもんだから、肩こりって言う現象が有るって錯覚してるんです。ストレスも同じ。ストレスっていう言葉が出来たからみんなそれを信じ込んで病気になっちゃうんですよ」
「そうですよね!アハハハハ!それを聞いて安心しました!へこんだ気持ちがパッと明るくなりました!で先生、この胃の痛みは何なんですか?」
「ただの癌です。すい臓癌。早期発見で良かったです」

アメリカ人だって肩こりはあります。と医者の隣で立っていた看護師の蜂須賀はちすか知恵ちえは思った。

⇩⇩別の視点の物語⇩⇩

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