参勤交代 教科書の記述
本日もよろしくお願いいたします。参勤交代について、先日またTwitter上で色々といわれてきました。
僕が参勤交代についてまとめた記事は3年前でしたが、今回は中学社会の検定教科書を使って少し考察していきたいと思います。
最後までお付き合い、よろしくお願いいたします。
■3年前の記事
こちらは3年前に僕が記事としてまとめたものです。
問題の言い回しで解答が変わる、という意図で元々使用していましたが、有識者の方からの指摘を受けて、改めて記事としたものです。基本的な話はこちらに書いています。
もし、この内容で不備などございましたら申していただけると幸いです。
■問題となっている理由
では、この参勤交代がどういうことで問題となっているのか、ですが、先日のこのツイートを見てください。
そう。以前僕が指摘を受けた個所そのものなのです。僕も数年前まではそれを信じて疑わなかったのですが、「目的=結果」ではないのです。
そのような指導を中学社会でやっている先生が多い、ということも耳にしました。では、その原因はどこにあるのでしょうか。
そこから僕は日本史の教科書、中学社会の教科書などを一通り目を通しました。前回の記事では新課程の教科書が手元になかったので、用語集や辞書型参考書などで確認をしましたが、今回は中学社会の検定教科書を中心にどう記述されているか、まとめていきたいと思います。今回は中学社会8つの検定教科書全てを考察したいと思います。
■中学社会歴史 検定教科書の記述
➀東京書籍
シェアが多い歴史教科書の御三家の一つ、東京書籍です。そこではどう記述されているでしょうか。
参勤交代の内容、重要な意味に絞って解説をしています。
②教育出版
次にシェアの多い教育出版です。
東京書籍との違いは、費用がかさむだけでなく、江戸城の修築や河川の修復などについても触れています(お手伝普請)。が、主従関係についてはここでは触れていませんでした。
③帝国書院
中学社会歴史のシェアの御三家の最後は帝国書院です。
教育出版と記述が似通っている感じがしました。教育出版との違いは、鳥取藩の参勤交代の費用についてのコラムがまとめられていました。
④山川出版社
続いて、この新課程から新たに参入した山川出版社です。
上記3教科書との違いは、➀3教科書の両方について触れていること、そして②史料の記述です。
武家諸法度の史料では「毎年夏の四月中に江戸へ参勤せよ」というのはどの教科書でも触れていますが、山川はその続きも記載しています。「従者の人数が最近大変多いようである。これは一つには、領国の支配の上での無駄であり、また一方で、領民の負担となる。以後は、身分に応じて人数を減少せよ」とあります。
つまり、参勤交代の従者を減らしなさい、といっているのです。従者を減らすことは人件費の削減にもつながるので、参勤交代の費用を抑えなさい、と幕府がいっているのです。
参勤交代で藩の財政が苦しくなったのは、幕府が意図した目的ではない、ということがはっきりとわかります。藩の財政が圧迫された、と記述がありますが、これを目的とは一言も言っていません。おそらく影響・結果で記述したのだと思います。
⑤日本文教出版
所々でシェアがある日本文教出版ではこう記述されています。
どちらかというと教育出版、帝国書院に近い記述ですが、御手伝普請についての記述がないところが相違点です。
⑥育鵬社
一時期、大都市でも採択があった育鵬社の記述です。
大きなポイントは、「大名は幕府に反抗する力を失っていきました」です。それ以外は教育出版、帝国書院とほぼ似通った内容となっています。
⑦自由社
私立では採択がされている自由社です。
記述自体は教育出版、帝国書院、育鵬社に近いものがあります。財政力を削ぐ、という記述があります。
⑧学び舎
こちらも私立で採択されているところがある学び舎の教科書です。
別のところにお手伝普請の内容が触れています。また、大名行列の道のりと総費用についても触れています。
中学社会の検定教科書の記述については以上となります。
■令和書籍の記述は?
検定教科書に申請している令和書籍の記述はどうか、ということが気になったので、こちらについても少し触れていきます。
ここでの一番のポイントは、「街道の経済は潤いました」の部分です。これは参勤交代の部分ではどの検定教科書でも触れていませんでした。今回のものは令和2年に申請して不合格となったものです。
すべての教科書に共通していることですが、「大名の財政負担を削いで……」ということが目的とは書かれていません。
■では、何が原因なのか?
中学社会の教科書を見た限り、前述のツイートの内容を書いていませんでした。補助輪参考書や辞書型参考書でも触れていなかったのです。
野島先生の「野島の日本史B最速要点チェック」(東進ブックス・現在は廃刊)では東京大学での出題例を題材に「大名の財政負担を……」という目的で制度化されていないことをはっきりと書かれています。現在だと「共通テスト日本史Bが1冊でしっかりわかる本[近世~現代編]」(かんき出版)や「読んで深める日本史実力強化書」(駿台文庫)などを参照するのがいいでしょう。
3年前の記事で指摘を受けて様々な教科書などを見て、何が原因か、というのを考えましたが、教科書を見る限りでは十分なものが見つかりませんでした。
実際、入試問題でも一問一答形式の問題、短文記述問題でも多数出題しています。
考えられることは、指導者がどこかで内容の曲解をしている可能性があると思います。加えて、今まで教えてもらった誤った内容をそのまま鵜呑みにして指導しているのでは、と思いました。
そして、そのような授業は個別指導を中心に起こっているのでは、と思います。また、社会を専門にしていない先生が上記のような内容を曲解して指導しているのでは、と思います。
それは、映像授業でも影響が出ているのです。そう、7~8年前にあるトライイットの映像動画です。
大体、3~4分ごろに参勤交代についての説明があるのですが、ここでは「大名にお金を使わせることを目的とする」という情報を話しています。つまり、これが7・8年前のことだとすると、2016年ごろのものだと思います(実際は2016年2月とありました)。入試問題をもとに説明しているとは思いますが、おそらく、そういう情報を誤って理解している可能性があるのでは、と思います。
ちなみに、自分がやっていた映像授業についても少し確認しましたが、やや誤解を招く恐れがある文言だったので、修正が必要と判断しています(ご指摘を受ける前の情報のため)。これについては、次に映像撮影を行う際に修正できれば、と思っています。自分のテキストについては、上記の指摘を受けて、その部分をしっかりと修正しています。
影像授業が分かりやすい、という人も一定数いるのは事実ですが、一つ誤った情報を流すと大変なことになります。そのため、近年の入試問題をしっかりと見直し、解析していかないといけません。僕も自戒を込めて指導の際にしっかりと教科書などを見ていきたいと思います。
■中学内容だからといっても……
中学内容だからといっても、高校内容や大学入試もある程度は目を通しておいた方がいいと僕は思います。おそらく、僕が中学内容だけでそのまま指導していたら、上記のような誤りの情報を流し続けていたのでは、と思います。そう考えると、指摘をいただいたことは一つのきっかけになった、と僕は思います。
中学内容だけで指導ができる、というのは限界が来ていると思います。そして、その内容が高校の地理総合・歴史総合・公共の土台になり、それから地理・日本史・世界史・倫理・政治経済といった専門的な科目につながっているのでは、と思います。
学校の先生は、新課程学習になってから授業構成など授業準備が非常に大変だと思いますが、それだけの準備をしっかりできる所には感服します。
僕も可能な範囲でしっかりと文献などを見ていけたら、と思っています(実際は購入しても読む時間があまりないのが難点……そこは少し反省しないと!)。あとは、自分の地域で採択されている教科書だけでなく、様々な教科書の文言も見ておくといいでしょう。その違いをどう授業に組み込むか、どう説明に織り込むか、を意識していけばいいと思います。
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