褒め合う文化

先日とあるイベントにて、お二人の大御所コピーライターの方によるセミナーを拝聴してきた。テーマは、企業のブランディングにもコピーがまだまだ有効ですよ、というもので、それを説明するために、まずはこれまで実際にご自身が手がけられたコピーを例として挙げ、もう一人の方がそのコピーのどこが優れているかを解説する、ということを交互に行う形で進行されていた。その際、それぞれの方が「なんかごめんなさいね、お互いに褒め合ってるみたいで」というようなことを、少なくとも5、6回はおっしゃられていて、ああ、これってコピーライターという職種の中で割りとよくあることだな、と感じた。

広告業界の末端ですみっコぐらししている自分のような人間にも、これはなんとなく身に覚えがある。以前在籍していた制作会社では、比較的年齢が近いコピーライター同士で時間を合わせて集まり、仕事とは関係のない共通のテーマでそれぞれが書いたコピーを持ち寄って互いに批評し合う活動を、「勉強会」と称して行なっていた。事前に書いた10本程度のコピーをメールで送り合い、他の人が書いた中からいいと思うものを順位づけして、集まった時に一人ずつ発表し合うというものだ。「今回、こうこうこういう理由で、〇〇さんの〜〜〜というコピーを1位にしました」といった具合に。

冒頭の大ベテランの方もわざわざ観客に断りを入れるくらいだから、こういう光景が端から見ると「身内、内輪で褒め合って気持ち悪い」と映るかもしれないな、ということは想像がつくし、自分もやっている時に、居心地の悪さを感じたり、勤務時間外に一体何をやっているんだろう?と疑問を抱いたりした時もあった。

だけど、これはやはり必要なことなのだ。というのも、コピーライターは書いたコピーについて社内外で頻繁に説明を求められる。なぜそのコピーにしたのか。なぜ他の表現ではなく、その言い方がふさわしいのか。まだ経験が浅い頃は、言葉って理屈じゃなくて感性で伝わるものなんじゃないの、などと思っていた時期もあったけど(正直今でも心のどこかでそう思ってるところもあるけど)、クライアントに「なぜそのコピーがいいんですか」と訊かれて、「え、なんとなくカッコいいかなと思って」などと言ったら、よくて半殺し。全殺しもあり得る。というのは大げさだけど、まあおそらく信頼を失うだろうし、相手がお金を払う理由や価値を見出せなくなるだろう。そのためにも、日頃からコピーを批評する訓練をしておいて損はないのだ。

ってここまで書いてきたのは、もちろん全部あくまで個人の見解です。コピーライター全体の総意ではないですけど、まあでも、他人のコピーを分析することで、自分のコピーが上達することもあると思いますけどね。自分自身の実感として。

ちなみに、誰かのコピーを褒める際には、ある種独特の言い回しがあり、例えば、
・視点/表現がチャーミングだよね
・佇まいがいいよね
・潔さを感じるよね
・気づきがあるよね
・この「・・・」という部分が効いてるよね、あるとないとじゃ大違い
といった言葉をよく見たり聞いたりすることが多い。気がする。って、いろんな人に怒られるわ!たぶん、この業界の最前線にいらっしゃる方々が使い始めたものをどこかで聞いて憧れたんだと思うけど、あえて自分もこういった言葉を使うことで、いっぱしのコピーライターになったような気分に浸っていたりもしましたね。まぼろし〜。意味もよくわからず闇雲に使っていると、恥をかくかもしれないのでどうぞご注意くださいね。

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