好みの違いもいずれは…

友人からもらった日本酒を飲みながら、本を読んでいる。
時折雨戸を叩く風の音が聞こえる意外は静かな夜だ。

まさか自分が日本酒を飲めるようになるとは思わなかった。
10代の頃、いたずらにビールを飲んで気持ち悪くなり、それ以来自分は酒が弱いのだと思っていた。

それから酒の席でも、飲んでいるふりをしてごまかしていた。
それが、好みの違いだと知ったのは、たまたま隣に日本酒好きの友人が座ったときだった。
気分が良かったのだろう、勧められるままにお猪口に口をつけた。
うまかった。
それから何杯か飲んだが、気分が良くなることはあっても、頭痛をおこしたり、足元が怪しくなることもなかった。

好みもあるし、体に合う合わないというのもあるのだろう。
あれ以来、酒の席では日本酒を口にすることが多くなった。
父は酒飲みだったが、もっぱらビール党だった。
「息子と酒を飲むというのが、オレの夢だったのに、お前はそれを壊した」
ビールを飲めない息子に、父は寂しそうにつぶやいた。
酒の弱さを10代の息子は、申し訳ないと思った。

また雨戸を風が叩いた。
小さなグラスに酒を注ぎ、仏壇の前に置いた。
父は日本酒が苦手だったが、それはこの世のものだろう。

グラスを合わせると、これまでと違うやさしい音を雨戸が鳴らした。

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