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俺たちの箱根駅伝

400kmほどの距離を一人で運転する機会が増え、今までは好きな音楽をかけ眠くならないよう歌っていたのですが、様々な事件の時にドライブレコーダーを提出、などと見聞きすると歌っているのも恥ずかしいな、と思い音声本を聴くようになりました。

とはいえ、静かに深い小説よりはミステリーやストーリー展開に引き込まれるような作品の方が眠くならないので、昨年、奈良へ行ったときは池井戸潤さんの「ハヤブサ消防団」を聴きました。
二転三転するストーリー展開に、次はどうなるのかと眠気など起こるはずもなく、安全に帰宅できました。

今回、京都へ行く時に、同じ池井戸潤さんの「俺たちの箱根駅伝」を聴きました。

レベルは全く違うけれど、今年もホノルルマラソンにエントリーした私は「走る」ということに関連するものを聴いて、モチベーションを上げられたらいいな、と思っていました。
本物の箱根駅伝実況を聴いているような作品でした。

物語は、主人公たちが箱根駅伝の予選敗退したところから始まります。
4年生の彼らにはもう箱根駅伝の本戦に参加する可能性は途絶えたと思ったところ、学生選抜チームという、いわばオマケのようなチームに参加できることが決まります。

そして、その監督は、引退をした監督の後任となった甲斐真人。
名ランナーでありながらも卒業後、陸上界から離れていた彼への批判が盛り上がる中、それに動じず、選手たちと心を合わせて進む彼の言葉は、陸上選手とか指導者とか関係なく心を鼓舞され、指導者として、また親として、一人の人間として選手、他人、子供、にどう声をかけたらいいかと教えてくれました。

様々な中傷にも心を乱さず

言いたい奴には言わせておけ
いちいち反論しても意味がない
どのみち本戦で答えは出る

の言葉に、そうだ、と頷きます。
人を貶めるような輩に反論すれば逆効果。
ますます中傷してくるに決まっています。

反論しないのは、負けではなく結果を示して勝つ。
ここを目指したいです。

9区の走者は苦しい場面で、こう自分に言い聞かせます。

世の中には実を結ばない努力もあるだろう。
だが、何も生まない努力なんかない

何も生まない努力なんかない
一生懸命やったことは、消えてなくなるわけではない。
それは、私も競技人生や教員として人を育てた経験から学んだことでもあります。
漠然と思っていたことが、まとまりのある言葉として目の前に現れることも、本を読む(今回は耳読)の醍醐味だと思います。
逆を言えば、何もしないことで手に入れられるものはないのです。

また、「俺たち」は陸上競技者だけでなく、並行して箱根駅伝を中継する放送局の覚悟と努力も胸に迫ります。

運転しながら、何度も涙ぐみ、ガッツポーズをした京都旅は微塵の疲れもなく、終わり、無事帰宅しました。

市井の一個人が、これほど胸を高鳴らせ、自分の足元の小さな一歩を進めていこう、と思わせてくれる作品に久しぶりに出会いました。


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