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東京日記11 階段

 東京へ何しに来ているのか、といえば、仕事しに来ているのであり、決して地方紙を買うためではないのだが、本来の目的を忘れかけているのに気づき、驚く。十四時に笹塚にいればよいのだが、間に合わなさそうな時間になっていることに気づき、さらに驚く。こんな時に限って腹が痛くなり、トイレへ駆け込む。間違いなく西船橋と武蔵浦和で立て続けに冷たい蕎麦を食ったのが原因である。ほら見たことか、ざる蕎麦大盛り食べたすぐあとにセイロの大盛りなんか食べるからです!と先生に叱られた気がする。先生のおっしゃることは間違いなくセイロではなく正論です。
 なんとかお腹の中の容量を減らして、長い階段の上にあるホームへ駆け上がる。息切れするうえに日頃の運動不足がたたり、ふくらはぎが悲鳴をあげている。もう少しでブチっといってしまいそうなごろごろした感じをおわかりいただけるだろうか。これ以上は酷使してはならないと、ふくらはぎ本人がおっしゃっているあの感じ。しかし、私はこのあと、最後の一踏ん張りをふくらはぎに強いることになるのである。
 なんのことはない、上るホームを間違えたのだ。私が上ってきたホームの反対側のホームのアナウンスが、「間もなく十一時五十分発、新宿駅の列車が到着します」と告げており、この列車に乗っておかないと、余裕をもって笹塚へ行けない。猛然と階段を駆け下り、反対側のホームへ続く階段を今度は猛然と駆け上がりたいところなのだが、意志に足が追いついてこない。「これは夢だ」とわかった瞬間、大好きな女の子のところに走って行こうとするけど、全く足が動かなくて断念する夢を見たことのある人はいないだろうか。私は何度もある。あのやるせなさを思い出しながら、なんとか一段飛ばしで駆け上がる。
 階段があと十五段あったらおそらく出発には間に合わなかったし、そのうえ私のふくらはぎは、やられていたと思う。危ないところであった。

続く
※続かないかもしれない

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