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1人目の客になれた話 葛野大路八条編

令和5年12月19日

 趣味はオープンしたお店の1人目の客になることです。近頃、これまでのこの趣味の軌跡を辿ってみたのですが、コロナ禍は外出を憚られる雰囲気があったため、こんなハートフルでピースフルな趣味なのに、ちょっと人目が気になるといいますか、「え?このご時世にそんなことやっちゃっていいの?」という暗黙の非難があったような気がします。空気というのは雄弁でしかも嘘を吐きません。空気のくせに空気は読みません。当時の文章を読み返してみると、そういう空気が伝わってくるので、なかなか上手いこと書けとるやないか、とその点に関しては自分で自分を褒めてやりたくなります。もうちょっと上手いこと書けたやろ〜、という点は多々あれど、それもまた「記録」なのだ。

 職場のおもろいおっちゃんが、今年の夏頃まで洛西口で営業していた「キラボシ」という居酒屋が、事情はよく知らないのですが閉店することになり、閉店前に飲みにいったのですが、ああ、やっぱり閉店間際に行くよりもオープンしたてに行くほうが昂揚感があるものだな、としみじみ飲めばしみじみとしてしまいました。
 
 いずれまたどこかでお店はやりたいとおっしゃっていたそのおっちゃんが、思ったより早く「キラボシ」を再開するとInstagramで知ったのが二週間ほど前のこと。
 そのおっちゃん、というのは京都大阪で活躍するラジオDJしもぐち☆雅充さん。ありがたくも私はこのおっちゃんと仕事で付き合いがあり、毎週土曜の朝はおっちゃんが生放送で喋っている間に同じ局で作業をしているわけなんですが、先週の土曜日、番組終わりに「キラボシ、火曜日オープンなんですよね」と聞くと、「そやで。11時オープン、リスナーさんでオープン時間をやたら気にしてる人がおったから気ぃつけなあかんで」と教えてくれた。ちゃんと私が1人目の客になることを趣味にしているのを知っていて、それを面白がってくれているのだ。
 しもぐちさんに限った話ではないですが、私には日頃お世話になっている人がいて、そういう人ほど私のことを気にかけてくれたりする。嬉しくて泣きそうになる。泣かなかったですけど。

 私を泣きそうにさせているとは知るはずもないしもぐちさんですが、せっかく気にかけてくれたのだから、必ず1人目の客にならなければなりません。
 新店の場所は葛野大路八条、JR西大路駅から歩くか、あるいは阪急西京極駅のほうが近いか。出発点の四条烏丸からなら、西京極のほうが行きやすい。早く行けば行くほど1人目の客になれる確率は高くなりますが、かといって2時間も前に行ったらさすがのしもぐちさんも迷惑だろう。しかし、オープン10分前ではもう例のリスナーの方が来られているかもしれません。開店何分前くらいがいちばん喜んでもらえるかしら。いろいろ考えた末、お店に10時15分頃に到着できるよう、逆算し、9時50分に四条烏丸を出発、阪急電車で西京極へ向かいました。

 西京極駅で降りるのはまだ西京極総合運動公園で京都サンガ F.C.の試合をしていた頃、試合観戦のために訪れて以来。試合観戦以外の目的で西京極に降りたことはありません。スタジアムが駅の西にあるため、葛野大路八条方面、つまり南へ向かって歩いたことはなかったのですが、ええ感じに錆びれた商店街には、どのくらい老舗かはわからないけど老舗っぽい和菓子のお店、カラオケ喫茶、夜は賑わいそうな赤提灯など、やたらツボを突いてくる店が軒を並べるというほどでもなく、社会的距離を空けながら点在している。もうコロナは五類になったからもっと密になってくれてもいいのにね。ひょっとしたらコロナ禍を乗り越えられずに閉まってしまった店舗もあるのかもしれない。錆びれた様子を「ええ感じに」などと形容してはいけないと反省する。

 京都市内でも一二を争う大通り、葛野大路通りに出るとそんなレトロな雰囲気は消え去ります。この通りはかつてゴミの収集のアルバイトをしていた頃によく通りました。まだ二十代の頃、水分を含んだ生ごみの汁を全身に浴びたあの頃。生ごみの袋に細かく分解した扇風機や椅子、本棚、自転車などの大型ゴミを混ぜ込んでいるクソみたいな市民の悪知恵が懐かしい。

 予定通り10時15分、葛野大路八条に到着。
お店は交差点の北西角。まだ開店準備が追いついておらず、看板は「カラオケ喫茶野ばら」のままになっていますが、気にせずそのままお入りくださいと、Instagramに書いてあった通り、音符まじりの「カラオケ喫茶野ばら」の看板を見つけ、階段を二階へ上がるとまだ開かない自動扉の向こうで開店準備をされているスタッフさんと目が合いまして、それはしもぐちさんの奥様だったわけですが、(こうした場合に最近は奥様という表現がよくないと言われたりしますが、どういう呼び方にすればフラットになりますかね)私を確認すると満面に笑みを浮かべ、自動扉を開け、「寒いでしょう、中に入って待っててください」と店内へ案内してくださいました。

 お店に入るとしもぐちさんも奥から出てきて、「リスナーさんに勝てたやん」とニヤリと笑う。「ちょっと待っててや」と言って奥へ戻ると昭和歌謡だったBGMが私の大好きなサザンに変わりました。こういう粋なことをさらっとやってのけるおっちゃんなんです。カフェオレまで出してくれた。

 11時ジャスト、例のリスナーさんが来られました。椅子に座り開店待ちしている私を通り過ぎ、レジの前で待機します。リスナーさんと知らなければ、「こら、おっさん、わしがここに並んどるやろがえ」とでも言いたくなるところですが、同じ店の開店を待ち侘びた仲です。それに仮にこの方が最初に注文をしようものなら、きっとしもぐちさんが1人目は私であることを伝えてくれるでしょう、と思っていたら予想通り、そうなりまして、私はリスナーの方より先に「キラボシ☆唐揚げ弁当」を注文することができました。

 しばらくは唐揚げ弁当のテイクアウト専門店として営業するみたいです。遠くからでもわざわざ来たいあたたかいお店。せっかくなのでリスナーの方とも一緒に写真を撮りました。
 
 令和5年12月19日、葛野大路八条にオープンした「キラボシ」の1人目の客は私です。

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