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変成男子/転女成仏

古い家に住みながら1年かけてあちこち直した話を、以前少しだけした。元ペンキ職人に弟子入りして、外壁まで塗った。夫は私を「DIY妻」という。夫はその手の作業が苦手なのである。だからDIY作業のほとんどを私ひとりでやっていた。

昔は「日曜大工」という言葉があって、お父さんが休みの日に棚を作ったり、家の中をちょっと直したりしていた。大工仕事は男の仕事と決まっていたのである。最近はそうでもないみたいで、DIYで家を直したり家具を作ったりする女の人も多い。今は工具が改良されていて、小ぶりで使い勝手のよい物が売っている。電動で動くものもあるから、力のない人や手の小さい人でもDIYはじゅうぶん可能だ。かつての「大工仕事」は男女問わずにできる時代なのである。DIYリフォームどころか家1軒建ててしまう人もいて、その中にはもちろん女性も含まれる。

技術の進歩によって、それまで男の世界だった分野に女性が入っていけるようになった。大型トラックの運転手なんかもそうだ。以前は運転に腕力や体力が必要だったのが、メーカーの製造技術が上がって操作性が改善され、 男性でなければ運転できない、という制約がなくなった。テクノロジーが追い風になって性差の壁が乗り越えられ、女性のできることが増えている。技術の進歩バンザイである。

ところが、そういう変化がいまいち実感できない人もいるらしい。

のこぎりやトンカチを振り回して「大工仕事」をやっていると、呆れたような感心したような目でみられることが多いのだけれど、「男に生まれればよかったね」と言われたときには、仰天して自分の手をトンカチでぶっ叩きそうになった。あぶない。

「男に生まれればよかった」という発想は、ずいぶん昔のものになっている。女の人にとって職業や学問の選択肢がきわめて少なかった時代のものだ。「男に生まれれば~」という物言いは今ではほとんど聞かなくなった。だからびっくりした。過去から亡霊がよみがえってきたみたいだった。

「大工仕事」をはじめ男のすることを女がすると、「男まさり」といわれて揶揄されたり、「嫁にいけなくなる」とたしなめられたりする時代があった。私が子どもの頃、昭和40~50年代には、”おばあちゃんたち” はそういう言葉で孫をしつけていたのである。当時からすでに古めかしい物言いだったから、いま面と向かって言われるとタイムスリップ感が半端ない。

男に生まれなくてもDIYはできますよ、便利な道具がありますからね、と説明してもその人は、「男みたいだ」「男に生まれればよかったね」と繰り返すばかり。技術が進歩したここ数十年の年月は、その人の意識の中に存在していないかのようだった。私は口をつぐみ、にっこりして立ち去った。

女性のあり方がアップデートされず、古風な女性像を持ったままの人は少なからずいる。そういう古めかしい女性観の持ち主が、権力をもっている場合はやっかいだ。政治家が差別発言で世間を騒がせたり、女性が活躍するための法整備が遅れたりするのは、過去からの亡霊が現代の権力と結び付いて起こる困った事態である。亡霊が消えるまでは、まだ時間がかかりそうだ。

わざわざ男に生まれ変わらなくても、女のままで好きなように生きていける社会であってほしい。その逆もまたしかり。男だろうが女だろうが、DIYだって何だってできるんだよ!と胸を張って生きていきたいし、若い人たちや子どもたちにも伝えていきたいと思う。


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