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今、海外ドラマのリメイクをする意味って何???

近年、日本でも海外ドラマのリメイク作が数多く作られるようになってきました。今シーズンでは何といっても2019年日本でも大変なヒットとなった韓国ドラマ『梨泰院クラス』のリメイク作『六本木クラス』が話題です。

にしても、何故わざわざNetflixでいつでも見れる『梨泰院クラス』を日本でもリメイクしなくてはいけなかったんでしょうか。

『梨泰院クラス』は”ハイコンセプト”な作品だったか?

私自身ありとあらゆる海外ドラマのリメイクが意味がないとは思ってはいません。海外ドラマのリメイクに意味がある場合があります。それはリメイク元の作品が非常に”ハイコンセプト”な場合です。

ここでいう”ハイコンセプト”というのは、ウォルト・ディズニーの重役を務めていたジェフリー・カッツェンヴァーグという人物が広めた映画用語
意味は一言で言うと、「映画の内容をひと言で表現できる分かりやすい企画」のことです。

たとえば『ジュラシック・パーク』であれば「恐竜が現代社会に復活したら?」ですし、『トイ・ストーリー』は「おもちゃが実は生きていたら?」というもの。最近だと、『イエスタデイ』なんかは「誰もビートルズを知らない世界でビートルズの歌を歌ったら?」とハイコンセプトな作品でした。

日本で成功した海外ドラマのリメイクを思い出すと、まず『グッドドクター』が挙げられると思います。この作品は「自閉症スペクトラム障害とサヴァン症候群を抱えている青年が小児科医になったら?」というもの。

この手のハイコンセプトな作品のいいところは、作品の面白い部分(つまりコンセプト)はそのままに日本ならではの視点や要素、あるいはテーマを盛り込むことでまた新しい作品として命を吹き込むことができるということです。

ほかに日本で成功した海外作品のリメイクといえば『マイ・ボス・マイ・ヒーロー』がありますが、こちらも「裏社会の人間が高校生になったら?」という非常にハイコンセプトな作品。設定を日本のヤクザに置き換え見事な学園ラブコメになっていました。

さて、今回の『梨泰院クラス』はハイコンセプトな作品だと言えるでしょうか? 私はそうは思いません。

ストーリーは親を殺された主人公が復讐するといういたってありふれたものですし、設定も梨泰院という国際色溢れる街で居酒屋を成功させるというもの。その設定だけで心惹かれるようなものではありませんでした。決してハイコンセプトとは言えないでしょう。

もっといれば『梨泰院クラス』という作品は決してストーリーや設定が魅力という作品ではないと思います。前半からツッコミどころは満載ですし、後半なんかはかなり大味のストーリー展開で正直完成度が高いとは言えません。(刺激的で面白いのは間違いありませんが)

なので、そもそも『梨泰院クラス』はリメイク向きの作品ではないんですね。

『梨泰院クラス』の魅力って?

では、『梨泰院クラス』の魅力はどこにあるのでしょうか? それは何といっても登場人物のキャラクターでしょう。

特に強烈なのが中盤からの活躍が著しいチョ・イソという人物。基本的には自己中心的で自由闊達、決して性格が良いとはいえない彼女。しかしどことなく可愛さがあふれ、非常に魅力的に描かれています。そのうえ涼宮ハルヒほど戯画的ではなく、リアリティというか人間味もあり本当にこの登場人物の魅力はすごい。

彼女に限らず『梨泰院クラス』は魅力的な登場人物ばかり。そんな登場人物が丁々発止の会話劇で見事に描かれます。『梨泰院クラス』の面白さはここですよ。

そもそも『梨泰院クラス』って設定がフランク・キャプラの人情喜劇的なんですよね。どこまでも純真で正義感の強いがどこか抜けたところがある主人公パク・セロイと、彼をパワフルに引っ張る冗舌で快活な少女チョ・イソ。これは、まさに『スミス都へ行く』のジェームズ・スチュアートとジーン・アーサーのようじゃありませんか。

だから、当然この『梨泰院クラス』の良さは会話劇の素晴らしさになります。台詞ややり取りからにじみ出る登場人物のキャラクターそれが『梨泰院クラス』の魅力なのです。

ところが、リメイク作はどうでしょう。ただでさえ長いストーリーを処理すべくストーリーの多くがモノローグで処理されるようになってしまっています。登場人物の説明すらもモノローグで説明されることなってしまえば正直登場人物の魅力は激減です。

さらに、キャスティング。たとえば、チョ・イソの配役ですが元欅坂46のてちというのは、天才のイメージからするとベストな配役に思えます。しかし、彼女のキャラクターの本質は先ほども申し上げた通り人情喜劇のジーン・アーサーあるいはバーバラ・スタンウィックです。

いくらパブリックイメージがぴったりでも、本当に彼女を演じる人に求められるのは丁々発止のやり取りを主人公と行うようなそんなコメディエンヌ的な才能。具体例を挙げると『まともじゃないのは君も一緒』の清原果耶さんのような女優じゃないと演じられないのじゃないかと思います。

とにかく言いたいのはキャラクターが魅力の海外作品をトレースするのは難しいということ。会話劇を書く脚本センスとそれを演じるキャストのセンスが求められるのでそりゃ大変なわけです。

さいごに

さて、『梨泰院クラス』を『六本木クラス』として絶賛リメイク中なわけですが改めて思うのはなんでそんなことをしたのか?というところ。

ストーリーは正直日本には近い作品で『半沢直樹』もありますし、それこそあの作品はそれこそ原作を踏襲しつつも、TBSドラマとして伝えたいメッセージというものが非常に明確にありました。そういうところが強く支持された一つの要因なのは間違いないでしょう。

『梨泰院クラス』という非常にリメイクの難しそうな作品を、今テレビ朝日がリメイクをしたのにはさぞ大変な理由が、あるいはテレビマンの強い何かしらの思いがあるのではないか?と私は思います。

さて、『六本木クラス』はどんなメッセージを届けてくれるのでしょうか。楽しみにしたいところです。

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