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FUJIFILM X-Pro3をUI視点で考える

10月26日に上野の東京国立博物館において、11月下旬から順次発売予定のX-Pro3のイベントがおこなわれました。

9月20日の発表イベントでは、通常時に隠されるの背面モニターや、背面モニターの代わりに情報表示する小さなサブモニターが付いているという佇まいや、現在の撮影スタイル/撮影フローに対する強烈なメッセージが衝撃を与えました。

今回のイベントに参加することで、FUJIFILMが考えているUIとしての「到達点」についていくつかのことが分かりましたのでレポートします。

ストリートフォトグラフィーの撮影スタイル

まずX-Pro3の話を書く前にストリートフォトの撮影スタイルについて簡単に触れておきます。

ストリートフォトはフィルムの時代から他の撮影ジャンルとは少し違うところがあり、作品の前衛的な感じだけでなく、撮影スタイル自体のカッコ良さが憧れの対象となっていました。

その中の一つが「ノーファインダー撮影」です。細かいフレーミングなど気にせずに、広角レンズを絞り込み、ブレなども許容しながら、激しく動き交差する都市の脈動を切り取るスタイルです。

これに対してオーソドックスにファインダーを覗いて撮影するスタイルもありますが、ストリートフォトではファインダーに100%集中するのではなく、空間全体の動きも感じながら撮影する独特なスタイルになっています。

一眼レフよりもレンジファインダーやビューファインダーが好まれているものファインダーへの必要以上の没入感を嫌ってのことだと思います。(一眼で同じことをする人もいます)

さらにデジカメによって登場してきたのが背面モニターを使った「コンデジスタイル」です。コンデジが背面モニターだけになった経緯は色々ありますが、多くのユーザーが、被写体との活動の中で自然に撮影できることからそのスタイルを好んで使うようになったことが最大の理由です。

ストリートフォトでも、それでのノーファインダー撮影とファインダー撮影の中間的スタイルとしてストリートフォトでも積極的に使用するスタイルとなっています。

X-Pro3はこのような撮影スタイルを前提としながらも、撮影中の再生(撮影画像確認)をおこなってしまうことを抑制するため、ファインダーの機能を工夫することで背面モニターを使った撮影をしなくてもよい状態を作り出しています。

背面モニターは邪悪な存在?

一つの撮影スタイルとして完全に定着した背面モニターですが、デジカメではファインダーとしてだけでなく、ポストビュー(撮影画像表示)やプレイバック(再生)にも使われ、全体として「デジカメらしい撮影スタイル」を実現しています。

今回X-Pro3では「撮影中に再生する必要なんてある?」「もっと撮影チャンスに集中しろ!」というメッセージを込めで背面モニターを隠すことにしました。

ストリートフォトやモデルさんを前にした撮影で、常に変化し状況で一瞬のチャンスを逃すことは悪であり、画像を再生して撮影中に確認してしまうことでそのリスクを増してしまう背面モニターは邪悪な存在として隠してしまおうと考えたわけです。

その上で背面モニターが持っていた再生以外の役割はきちんと他のデバイスでこれまで以上の完成度で実現しようとしており、現時点でのデジカメUIとして最高なものになっています。

背面サブモニター

デジカメの背面モニターには多くの撮影情報が表示されていますが、それが無くなることでファインダーを覗くまで設定が分からないという問題が発生します。X-Pro3ではこれを補うために背面モニターの代わりに小さなサブモニターを背面に配置しました。

このデバイスは反射型のメモリー型液晶を採用し、電源OFFでも情報を確認することができるようになっており、フィルムシミュレーションに応じたフィルムパッケージのグラフィック表示できるだけでなく、ISO感度やホワイトバランス、撮影可能枚数なども表示させることができす。

カメラの状態を常に把握しておくことは一瞬のチャンスをとらえるストリートフォトでは重要性なものですが、デジカメ時代に失ったものをフィルム時代以上のレベルに引き上げています。

サブモニターは、昔のフィルムカメラのメモポケットとい意味の「クラッシック」表示(写真上)と「標準」表示(写真下)があります。クラッシック表示はフィルムシミュレーションのパッケージ表示、標準表示の方は撮影設定の情報表示となり、カスタマイズによって表示する情報の種類やレイアウトを好みの状態にしておくことができます。

アドバンスド・ハイブリッドビューファインダー

OVFとEVFを瞬時に切り替えることができるハイブリッドビューファインダーがさらに進化してアドバンスドになっています。

EVFでは撮影後に撮影画像を自動で表示するポストビューができることは当然ですが、OVFとEVFがハイブリッドで切り替わるX-Pro3ではOVFモードにおいてもポストビューをおこなうことができるようになっており、さらに全画面ではなくOVFの右下の一部に表示(フジの人は「小窓」と呼んでいました)することも可能です。

またこのOVF内の右下EVF表示は、ライブビュー状態ではフォーカス部分の拡大表示に切り替わりOVFでありながらピントの状態が分かりやすくなっています。

さらにXPro3 のOVFは常に広角の世界を見せる仕様に変更されたため、全体+フレーム+小窓EVFによってスナップ撮影に必要な全てがファインダー内で確認でき、背面モニターを使った撮影スタイルの必然性が低くなるようにデザインされているのです。

この画像は製品ホームページから引用しました。(画像クリックでリンク)

ファインダーと隠しモニターの動作を簡単にまとめてみました。

フロントのレバーをグリップ側に引くとEVFに変わり、レンズ側に押すとOVFに切り替わります。右下の小窓表示のON/OFFはOVF表示でレンズ側に押すことで切り替わります。

X-Pro3はスナップシューター兼アーティスト

OVFの中にフォトグラファーが必要とする情報を入れ込んで「瞬間」を狙えるカメラであることがX-Pro3のアイデンティティですが、もう一方でTシリーズに先駆けて「クラッシックネガ」という新しいフィルムシミュレーションを投入してきました。

開発者トークの説明によると、これまでのPROネガではライティングに対してリニアに反応していた特性を、クラッシックネガではライティングを調整したりできないスナップや風景写真において、あえて色の明るさに応じて出力される色が、緑であれば黄色から青方向に変わるような特性になっているそうです。

この特性は、露出補正をおこなうと黄色方向の領域と青方向の領域の境界線を撮影者がコントロールできるということです。

OVFで偶然による結果を狙う使い方でもよいのですが、デジカメらしくEVFで画像の仕上がりを確認しながら積極的に表現をコントロールする方が表現者として自然です。

クラッシックネガの特性を表現したグラフ。プロネガに対して色が黄色や青色に変化していることが分かります。

さらにX-Pro3では「モノクローム」の表現幅が広がり、多重露光の回数も増えたりしており、カメラ内で凝った「作り込み」ができるようになっています。

そういったアーティストとしての表現のためには、EVFの性能が重要ですので、X-Pro3ではEVFのデバイスが液晶から有機ELに変更することで従来よりも色域を広げてきています。

隠しモニターはファインダーの延長として動作

全てのパターンを確認できた訳ではありませんが、メニュー表示などファインダー内で表示しているものが隠しモニターを開いたときに表示されているようになっています。

つまり、先にMENUボタンや再生ボタンを押してから開いても、開いてから押しても良いようにしてあります。

また、点灯する位置はモニター部を少し開いたら直ぐにONになる仕様となっており、上から覗いた状態で開いていってもスムーズに使える印象を与えてくれます。

ただあくまでも動作は事務的であり、一連の撮影を終え、再生ボタンを押してから背面モニターを開くと、ふわっと光が漏れてきて写真とご対面できるような特別な演出はされていません。撮影中の再生をそこまでして排除するのであれば、それが開放されたときの演出はもっとあっても良いと思いました。

人とカメラの関係をより近くする

X-Pro3のUIは、これらの撮影体験を分解し、背面のサブモニターとハイブリッドビューファインダーにそれぞれ役割を持たせることで、より撮影行為が人間に近いシンプルなものになっています。

今回イベントに参加して実際に操作したり、トークショーの話を聞いたことで、単に背面モニターを隠して不便なカメラにしたのではなく、贅沢なUIを組み合わせることで、撮影という行為を高い次元に引き上げようとしようとしていることが分かりました。

強烈なメッセージや変態と言われるプロダクトによって隠されているが、極めて真っ当にUIを構築しており、撮影体験のためのUIアーキテクチャに破綻がありません。プロモーションにおいてこの辺りのロジックの説明はなく、異端感を全面に出したものになっていますが、いつか真相を聞いてみたいと思います。

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