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小説嫌いの私が小説を読むようになった理由~綿矢りさ「勝手にふるえてろ」

昔から小説が嫌いだ。嫌いというより、苦手に近い。登場人物が誰が誰だかわからなくなる。外国の小説なんて本当に苦手だ。

そんな私が最近、小説を読むようになった。というより、読むことができるようになった。

きっかけは、アマゾンオーディブル。小説は嫌いだったものの、小学生の頃から、ラジオドラマは大好きだった。きっと私は聴覚刺激が優位なんだろう。

洗濯物を干しながら、庭の草を抜きながら、お風呂に入りながらオーディブルで読書する。最初は、エッセイとか実用書の類いが多かったが、試しに小説を聞いてみたら、すんなりと頭に入っていく。

これまで、小説に縁遠かった私だが、聞き放題ということもあり、気軽に聞くようになった。

綿矢りささんの「勝手にふるえてろ」

オーディブルで聞いて面白かったので、プライムビデオで映画版を観て、最後元祖の単行本で読書した。オーディブルであらすじを理解して読書というのは、私のような読書が苦手な人には向いていると思う。

本編について……

主人公のOLヨシカは初恋の「一(イチ)」を忘れられずにいる。誰でも初恋の相手を思い出して感傷に浸ることはあるだろうが、ヨシカは違う。中学時代からずっと思い出を脳内で招喚して思いを繋いでいるストーカー的粘着気質。そのため誰とも付き合ったこともなく、イチ以外を好きになったこともない。
そんなヨシカに告白するのは、同僚の「二(ニ)」。

ライフワーク化していた永遠に続きそうな片思い賞味期限がきた

そんなヨシカは、二の告白の返事も出来ずにいた。

 こう聞いたら、自分が好きな人と自分のことを好きでいてくれる人、どっちを選ぶのが幸せなのかという話っぽいが、そうではない。

私はいままでと違う愛のかたちを受けとめることはできるのだろうか

これは、自分の価値観、考え方の変化を受け入れられるか。変化への恐れを越えて、成長できるのかという話なのだ。

ヨシカのキャラクター

みんながかまっているイチが好きすぎて、みんなと同じようにちょっかいをかけられず、視野の端でイチを観る「視野見」を体得。OLになって小火を起こし、いつ死ぬか分からないと一念発起し、他人のアカウントを作って同窓会を開く。友達に裏切られたとショックを受け会社を休むために、妊娠したと嘘をつき産休を取ろうとする……ぶっ飛んでいる。それでも、ヨシカを応援したくなるのは、ヨシカが普通なら言葉にならない負の感情を、心の中で言語化して、それが妙に納得できるから。

先生、イチのその文はあなたに向けての茶目っけじゃないんです。彼は私の言った一言を一年経ったいまでも覚えていてくれてるんです。だから自分の手がらにしないで。

フッ通り過ぎていく負の感情を、いちいち言語化しているヨシカ。とても冷静に自分を見ていると思う。

マジョリティーへの抵抗

視野見にも現れているように、ヨシカはマジョリティーにささやかに、しかし、キッパリと抵抗している。

トイレでどいつもこいつも音姫を使っているのをいいことに、自分だけボタンを押さず彼女たちの音姫の音にまぎれて思いきり無修正で致すのを昼休みのささやかな楽しみにしていた

こういう抵抗、すごく好き。ヨシカのこの行為に共感できる人は楽しめる本だ。

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