見出し画像

オリンピックで金メダルをもたらしたトヨタ式「カイゼン」とは!?

過去76年間の歴史でたった1個しか金メダルを獲得したことのなかった、イギリスの自転車競技団体ブリティッシュ・サイクリングは、2008年の北京オリンピックで、なんと10競技中8つもの金メダルを獲得しました。

当時のオリンピックチームは、お世辞にも強いチームとは言えませんでした。ではいったい何がチームをここまで変えたのでしょう。そこには「1%の改善」といわれる小さな積み重ねがあったのです。


経営大学院修士(MBA)が持ち込んだ「カイゼン」

イギリス自転車競技団体は、2002年に元プロ自転車選手で経営学修士(MBA)取得者という異色の経歴を持つサー・デイビッド・ブレイルスフォードを、チームの新監督に迎え入れました。彼の指導方針は一見変わってしました。経営大学院時代に学んだ「カイゼン(改善)」をスポーツの世界に持ち込んだのです。

「カイゼン」とは、製造現場で作業効率や安全性を高めるために行われる活動であり、トヨタ自動車が提唱した概念です(ちなみに「カイゼン」は英語でも「Kaizen」と訳されています)。
カイゼンはその言葉のとおり、小さな改良を積み重ね継続していくことを意味します。切削作業でゴミが飛散しない工夫をしたり、作業台の高さを作業しやすい高さに調整したり―そんな小さな取り組みですが、それらが集まることによって大きな変化をもたらすというトヨタの経験則にあります。

小さな積み重ねが大きな変化をもたらす「マージナル・ゲインの法則」

ブレイルスフォードは、オリンピックで金メダルを獲得するという目標に向けて、なにか画期的でイノベーティブな取り組みをしたわけではなりませんでした。彼はこの小さなカイゼンを積み重ねていったのです。

床にたまったほこりのせいで自転車の整備が無駄になっていることに気付くと、床を白く塗り汚れが目立つようにしました。また大会中の体調不良を防ぐため、医師を招いて選手に正しい手の洗い方を指導してもらいました。オリンピックの期間中は、握手も禁止です。その他に、水とスポーツドリンクを取り間違えないようにボトルの色を変えたりと、一見すると些細なことのように思われるかもしれませんが、これらカイゼンを徹底していったのです。それらの取組は「マージナル・ゲイン(1%の改善)」と呼ばれるようになりました。

雨のしずくが石をうがつ

「雨滴石を穿つ(あめだれいしをうがつ)」ということわざがあります。軒先からぽたぽた落ちる雨のしずくのような小さなしずくでも、長い間ずっと同じところに落ち続けると、硬い石に穴をあけてしまうことがあるというたとえです。どんなに小さな力でも、根気よく続けていれば、いつか大きな成果が得られるのです。

そして続くロンドンオリンピックでも、8つの金メダルをチームにもたらしました。彼の偉業はその後のイギリス自転車競技界において伝説となりました。

大きな目標や課題を目の前に怯んでしまうこともあるかもしれません。しかし目標達成のためにできる目の前の小さなステップを、一歩ずつこなしていくことが、ゴールに向かうための最短距離なのです。彼はのちに語っています。

「壮大な戦略を立てても、それだけでは何の意味もないと早いうちに気づきました。もっと小さなレベルで、何が有効で何がそうでないかを見極めることが必要です。たとえそれぞれのステップは小さくても、積み重なれば驚くほど大きくなります。」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?