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「一帯一路」はオワコンか?

第3回「一帯一路」国際協力サミットフォーラムが10月17日、18日に開催されます。
特設サイト
https://www.beltandroadforum.org/
「一帯一路」オフィシャルページ(常設)
https://www.yidaiyilu.gov.cn/

 一帯一路は、ご存知の方も多いと思いますが、チャイナの経済的対外拡張構想です。彼らはオフィシャルには語らないものの、経済権益をベースにした覇権主義的な構想であり、2049年までに米国を凌駕する超大国化を目指すチャイナの具体的手段であります。経済的権益の拡大と表裏一体である軍事的な影響力拡張も当然に含まれます。北極海ルートもチャイナの対露バーゲニングパワー増大で抑えられるようになてきましたし、中南米という「(もはやシルクロードという地理概念を超越した)飛び地」でも20ヵ国以上が支持・参画の表明をしています。今は日本が中核的関与するCPTPPや、米国が主導するブルードットネットワーク、IPEF、先日のインドが提唱したIMEC(インド・中東・欧州経済回廊)等々のフレームは、一帯一路のカウンターとして登場してきた側面もあります。

※参考1(データ:プロパガンダメディアで掲出された10年の成果データ(もちろんウソやフェイクではないが、隠されたプロパガンダ要素は常にあり)

※参考2(イデオロギー:「人類運命共同体」が最上位級(対外)イデオロギーで、「一帯一路」がそのイデオロギーの最上位級実践手段、という位置づけ


 えーさて、今回一帯一路サミットが開催されるにあたり、日本国内のメディア上では、度が過ぎた妄想ともいえる「反中論」を繰り返している感情保守言論人ではなく、一般的な(ニュートラルな)コメンテーターと呼ばれる方々でさえ「G7唯一の参画国であるイタリアでさえ抜けることが既定路線になっている一帯一路はオワコンである(すでに失敗した外交フレームである)」と繰り返しています。この数日間、こうした言論を頻繁に耳にしました/読みました。僕はその対中認識に関しては懐疑的です。一帯一路オワコン論は、対中脅威認識として侮り論であると考えます。

最初に強く強く主張しておきますが、僕の語る一帯一路 非 オワコン論は一帯一路が成功するということではありません。あくまでも「終わっていない」という話です。また、同時に僕は自由と民主を尊重する日本人の立場として、決してチャイナが主導する一帯一路フレームが極度に肥大・拡張することは、喜ばしいこととは思っていません。

その上で、どうして僕が一帯一路がオワコンではない、と考えるかということを簡単にnoteにまとめておきます。僕の著書やTwitterで語っていることと重複しますが、フォーラムにあわせてアウトプットしておきます。

ひとつは、現時点でも実際に一帯一路を支持する国家が少なくない(多い)ことです。イタリアを筆頭にして、次から次へと「抜ける」状況には至っていません。むしろ中南米など新しく参画した国もあります。もちろん、一帯一路に関する「一度結んだ協定・覚書を単に破棄していない・実際的な投資は未実施である」ということと「積極的に一帯一路参画していたりプロジェクトを履行中」というスタンスには大きな隔たりがありますが、支持・参画国数からいえば、一帯一路は失敗している、とは言えない数になっています。今回のフォーラムにも世界各地130カ国以上の参加が公式に発表されています。
http://japanese.china.org.cn/politics/txt/2023-09/27/content_116716234.htm
 一帯一路は、コンテンツは弱まっているかもしれないけれども、構造体(ストラクチャー)として維持されているということです。またAIIBの融資もコロナ禍で計画通りではまったくないものの、生で動いているわけです。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM173IQ0X10C23A5000000/

 二つ目は、我々西側・米欧・G7を中心とした先進国が、それ以外の国々(グローバルサウスなど)にアウトリーチすることに手段を欠いている中で、「南南協力」「途上国の連携」というロジックを背景に、一帯一路のネーミングを冠したハイリスク投融資・インフラ技術輸出・貿易支援・現地雇用創出・米ドル以外の現地通貨決済手段提供といった統合的な経済協力パッケージになっていることです。
 一帯一路は、CPTTP、IPEFなどの単領域ではなく上述の複合領域パッケージであり、また米欧主導のフレームが「人権・民主的価値」を強く求めるもの(教条主義的なもの)であるのと対照的にカネの繋がり以外は求めないという基本姿勢があります。汚職が多く統治システムが不安定な途上国(小国)にとっては一帯一路フレームは選択しやすいものであります。一帯一路に参画していても、米欧主導のフレームに同時参画することは任意ですので、とりあえず一帯一路に参画という選択になっていたりします。

 三つめは、一帯一路の低調は、政治意図をもって消極投資になっているだけであって、また投資リスクの見極めが現実的なものになってきていることです。
 借金のカタに投資対象をカッパらっていくチャイナの姿勢、いわゆる「債務の罠」が話題になりますが、チャイナ側からみればラッキー!なんてもんではなくて、単に不良債権問題・焦げ付き案件だったりします。これを僕は「債権の罠」と呼んでいます。
チャイナ側も両者合意の経済活動としてやっている以上は、担保をとらなきゃやってられないわけです。仮に軍事的威圧などをもって相手国に無理やり契約を結ばせたのであれば、チャイナの問題であると非難ができるのですが、あくまでも両国(政権)の合意のもとで合法的に契約されたものであります。ですので、決して僕はチャイナを擁護するというわけではなく、「債務の罠」というレッテル張りには懐疑的です。
 もちろん、そんな怖いチャイナみたいな国とリスキーな契約をしないように、たとえば日本などが善意をもって介入して当該途上国に別の提案をして政治的ダンピングして格安で慈善事業をやってあげられるなら良いわけですが、我々日本人の血税は無限にあるわけでもありません。ならば日本勢が商行為として堂々と参画してチャイナ側企業との競争入札にて競り勝てばよいわけなのでありますが、競争入札の総合的判断(コスパや、事業に付帯するオプション)も含めて当該国の判断だった、とも言えますので、「債務の罠」というレッテルについては対チャイナネガキャン以外には僕は意味希薄だと考えます。(逆にネガキャンとして理解しているのであれば、バンバンと「債務の罠」を国際社会に向けて叫んで、チャイナを宣伝戦上貶めるというのは戦術としてアリです。)

そのレッテル問題とは別に、「債権の罠」に苦しんだチャイナ側も投資審査が厳しくなり、徐々に適正なリスク範囲での投資に絞るようになってきています。米国大統領選まっただなかの第十九期五中全会(2020年10月)とその半年ほど前から提示した「双循環」の宣言から、対外経済政策(一帯一路だけではないが)についてイケイケムードではなく、意図的に対外投資を控え適正な範囲に抑える政治的テンションがありました。今から振り返ればこの「双循環」のメインターゲットは、米国民主党グダグダ政権4年を見越して、その期間中に対内的な長年蓄積した膿を出すこと、すなわち不動産業界規制(総量規制発動で、超巨大バブル崩壊ではなく、バブル崩壊程度に抑え込む)であって、これを経て、2030年代の本格的な米中対立に備える準備期間開始宣言だったと僕は分析していますが、対外的にも投資縮小の余波が号令となりました。その意味では、昨今(2020年以降)の一帯一路の羽振りが良くないのは、実は企図された側面もあった(自然に投資熱が冷めたわけではなかった)とも言えます。大手国有銀行等に対外的な投融資案件を控えさせるというものです。

四つ目は、チャイナの政治的闘争意志です。政権が「永遠に続く」と設定されるチャイナでは、「党の完全失敗・領導の完全失敗」というワードは辞書にありません。無謬性ですね。米国や日本もそうですが、IPEFが低調でも、IMECがポシャッても、それは前政権が失敗したこと、として手じまいにします(できます)。これは民主的な政治体制の特徴であって、一貫性が無いとも言えますが、うまくいかないものは軌道修正が効くということでもあります。ところがチャイナはそうはいきません、総書記が「やる。成功させる。」といったものはたとえ前指導部の宣言であっても引き継いでいかねばなりません。それが、中共が普通選挙なく国家を統治する正統性になります。中共は紅い十字架を背負っていますので、その意味では、何が何でも一帯一路を成功させようとしますし、時には国益を毀損しようとも、大損をここうとも、党益・党総書記のために成功させようとするでしょう。我々はこの政治熱量を侮ってはなりません。我々の物差しとは別の物差しで彼らは動いています。だから、一帯一路は、党最上級プロジェクトですので、何が何でも成功するまで何十年かかろうともやり続けようとするわけです。

このように考えれば、一帯一路は、実際にオワコンではない、ないしは中共がオワコンであることを認めず採算度外視で継続するフレームなのです。
つらつらと考えを書き出してみましたが、最近メディアで「普通の(決して反中情緒的ではない)」コメンテーターも主張する一帯一路に関するチャイナ侮り論について、「んん??」と思うところがありましたので、いまいちど考えてみるべく、noteに書き出してみた次第です。我々には侮っている暇などなくリアルな(過大評価でもなく過小評価でもない)対中脅威認識の醸成が必要です。


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