D進率の低さから考える一億総活躍

こんにちは。今回は
1、なぜ人々はD進(=博士課程への進学)をしないのか
2、D進する人が少ないとどうなるのか
3、D進する人を増やすにはどうすればいいのか、
  そこから考える一億総活躍
について話していきたいと思います。

1、なぜ人々はD進(=博士課程への進学)をしないのか。
日本の博士課程進学率は同世代の0.7%と言われています。
その理由は大きく3つあると思います
ア、研究適性がないと感じたから
イ、博士課程在学中の金銭面の負担
ウ、博士号取得後の金銭の負担・職業の不安定性

ア、研究適性がないと感じたから
これに関しては仕方ないことだと思います。
人には向き不向きがあるわけで、修士課程2年間の間で
「俺は研究に向いてないな」と思う人が一定数いるのは事実。
そういった人がでてくるのは欧米であろうと同じことです

イ、博士課程在学中の金銭面の負担

実家暮らしならまだましですが地方からきて東大や京大に通ってる場合、
生活費がかかります。さらに日本の博士課程の場合は国立であろうと年間55万の学費がとられます。
なお博士課程というのは1日中研究に従事するので(分野によりますが実験系はそう。土日もつぶれることは多々。それでも無給。欧米だと給与がもらえますが・・・)、決まった時間にバイトをするというのが難しい状況があります。
その為、後述する学振をとったり、その他ごくごくかぎられた民間の給付奨学金を貰うことが一般的です。
なお、貰えるのは博士課程の学生のうち一握りです。
(学部・修士同様学生支援機構の貸与型の奨学金がありますがこれを借りたら借金がえらいことになります)
ゆえによっぽど業績に自信があるか、実家が裕福か、ないしは謎の根拠に満ち溢れている人しかD進しないといわれるのはそこです

最近は文科省が重い腰をあげて学振(優秀な一部の博士課程の学生に対して給付するもの。しかしせいぜい月20万程度で副業禁止。さらにここから保険料とかをはらう)での副業禁止規定を緩和したり、他にも支援の門戸を多少広げようとしています。
が、焼石に水でしょう。
まして後述する、ウ、の面を考えると特に。

ウ、博士号取得後の金銭の負担・職業の不安定性
博士課程在学の3年(医薬系だと4年)の間、給与は貰えません
(医師免許もってる医学博士課程の人は外来バイトで社会人並みに貰えますがこれは博士課程全体のごく一部なので除外)
そしてイ、のような博士課程在学中の金銭面の負担を学振や給付型奨学金で乗り切れても、次に出てくるのは「就職」という問題です。

博士号をとった人間の就職は大きく2つに分かれます
A、アカデミア(大学や国立研究所といった研究機関)
B、民間

それぞれ特徴があります。

A、アカデミア(大学や国立研究所といった研究機関)

大学で研究している人で一番えらいのが教授、というのは皆さん分かると思いますがいきなりこれにはなれません。
ポスドク→任期つき助教→任期なし助教→任期なし准教→教授
といった塩梅です。
※ほんとは講師とか特任助教とかもあるんですが説明めんどくさいのでこうさせてください
さて、ここで用語の解説をしますと助教・准教・教授というのはわかると思いますが、それの手前にあるポスドクというのは「博士号をとったもので研究に専念する役割(助教以上と違って学生への指導等や研究室運営には殆ど関与しない)で数年任期。その間に成果を上げて助教などになる。なれなければ別のところでまたポスドクをする」といったポジションになります。
そして助教(場所によっては准教でも)任期つきがあるので、成果を出して任期なしの教員になるように頑張らないといけません。

さて、普通の就活と違い、アカデミアでの就職というのは非常に狭き門です
というのは普通の就活は
・一度に何十人もとる
・じぶんの専門ぴったりでなくてもよい
・Aという企業がだめならBで・・と複数応募できる
わけですが、
アカデミアにおける就活(?)では、ポスドクはそれほどでもありませんが助教以上になると確実に「定数1。専門分野αについて。なお今年度この分野αで空きが出るのは日本国内では2か所のみ」という塩梅です。
たとえ求人先が地方の駅弁大学や偏差値55くらいの私立でも応募が殺到します。
ということは専門分野αに関してピカイチの業績をもってないと厳しい、いやピカイチの業績同士で争う感じです。
それゆえ本当にアカデミアで食べていきたい人は日本国内のみならず、専門分野αの空きがあるなら世界中のどこでも探すことが多いです

とまぁ、優秀な人も任期なしにつけるかどうかわからず、極端な話、安定的な就職先につけるかどうかは不明。かといって年収も高いわけではない
(そりゃ任期なしの教授につけば1000万とかいくかもしれませんが)

研究の分野というのは細かいためどうしても各自に用意される椅子というのは少ない。それゆえこれは仕方ない。
問題が次の民間になります。

B、民間
民間と言っても研究職か非研究職かの別があります。
たとえば僕は医学博士取得後→某研究所勤務→某製薬会社研究職という塩梅で、一応今はこっちのくくりです。
製薬会社や電機・機械・化学メーカーでは理工医薬の専門職をとっていますし、優秀な人が欲しいということで博士号歓迎だったりします。

が、ここで問題が2つ
・「製薬会社や電機・機械・化学メーカーでは」といった通り、企業全体でみると限られた業種でしか博士を積極的に採用しない。
・採用してもごくごく一部のケースを除いて初任給27万程度でしかない
(修士博士の5年過ごしてきて、学部卒就職5年目の人にすでに5年分の給与負けてるし、なんなら人によっては学部卒就職5年目で27万より多くもらっている)

つまり
・博士号まで無給で土日深夜まで必死に研究しても、アカデミアは椅子取り競争が激しく、民間では取ってくれるのは分野次第
・仮にとってもらえてもごく一部を除いて年収が大したことない
わけです。

2、D進する人が少ないとどうなるのか

これは単純な話で
・本来博士課程に入って研究やビジネスにおいて主導する人がいなくなる
・仮に博士号をとった人も厚遇される海外に流出する「頭脳流出」が起き、ますます科学技術の分野で他国と差が開く
・博士課程に進む人がますます少なくなることで企業側は「博士課程はレアケース」として博士を採用する機運がさらに落ちるという悪循環
がおきるでしょう。

3、D進する人を増やすにはどうしたらいいか、
   そこから考える一億総活躍

さて、1、の話を踏まえると、わざわざ博士課程までいっても職にありつけるかどうかの不安が大きくあるわけですし、つけても「こんな苦労してこれだけかよ」という塩梅です。

さきほどからちょくちょくこれは諸外国でも同じですという旨を挟んでますが、博士号の民間就職のしやすさ、年収に関しては諸外国では圧倒的に違います。
欧米では博士号をとってることが民間就職では不利になりませんし、
年収に関してもGAFAがよく引き合いに出されますが初年度年俸1000万も良くある話です。

日本という国は悪い意味で学部卒がスタンダートになっており、
「その仕事、高卒・専門でもできるじゃん?」という職種でも頑なに学部卒を要件とし、
「こんなに高度な技能をもってるのに」という博士持ちの人も年齢を理由に雇わない、雇っても大した金を出さないで年功序列制度が基調とされています。

ここ数年、AIがー、ディープラーニングがー、とか叫ばれてますけど、
じゃあこれまでそれのプロフェッショナルである理工系の博士に対して厚遇してきたでしょうか?
自分の価値を分かっていた理工系の博士は好待遇の欧米に流れていたわけでしょう。
そして、いまのままでは第二のAI、ディープラーニングがきたとき、
つまりは「専門技能をもっていない人でもその技能がカネになるとわかる状況」がなにかしらの分野でおきたときに、その人材に対して二の舞を演じるのではないでしょうか?

一億総活躍とかいう言葉が叫ばれていてその担当大臣いますが、
真の意味での一億総活躍とは、
「学部卒を無理にスタンダートとせず、高卒や専門でもいろいろな企業に就職でき能力次第では高給取りになれる。
また専門技能を磨いた院生はその技能を重宝される」ということではないでしょうか?

また院卒の技能とはなにも自身の専門分野に関する技能のみを指しません。
修論・博論を書くまでの過程で培った、
・論理的妥当性のある文章を書く能力(論文なのでそれはそう)
・大量の論文を捌き、要約する能力(先行文献をたくさん読まないといけないので)
・新規性を発見する課題発見力(新規性がないと論文ではないので)
・必要に応じて知識・技能を身に着ける能力(たとえば医学でも物理・プログラミング、化学が必要になります。そして最初からこれとこれとこれが必要でなんてわかりません。わかってたら新規発見にはなりませんから)
などがあります。
そのため特定の分野のみの院生を優遇し、それ以外は役に立つの?とするのは愚策です。

それゆえ、真の意味での一億総活躍をするには、
雀の涙ほどの博士課程在学中の奨学金の拡充とかではなく、博士課程修了後に企業に好待遇でつけるようにすること、高卒や専門卒への門戸を広げることなのではないでしょうか?

ねぇ?




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