いつのことか忘れた。天然石がすきだっていう男の人に出会った。年齢は多分私と近かったと思う。その青年と何度か天然石のお店で会って、お互いの石を見せっこしたりした。ある時彼がカットされ磨かれたクリアクオーツを持ってきた。

「この水晶を気に入って、買う時に割れや傷がないかお店の人と確認して梱包材で包んで、ショップの紙袋に入れてくれて、すぐポーチに入れて持ち帰った。帰るまでに開けていないしぶつけてもいない、なのに帰ってきて開けたら傷ができていたんだ」

と彼はいう。不思議だと。見たところ、食い込むような傷がたしかにある。そんなことがあるのかと手にとってみると「ああこの傷は消える」と何故かそんな思いが突然浮かんで、思わず「この傷は消えるかもしれない」といった。そうしてその水晶を撫でてやると、気のせいかなんとなく傷が薄くなったような気がして、そのまま借りて持ち帰った。

そして時間のあるときに撫でていたら、だんだん薄くなって、わずかな痕跡があるかないかまで薄くなり、そこで止まった。石にできた傷がほとんど消えてしまうなんて!私にはありえないことに思えたし、理解を超えた不思議な出来事だった。だいたい物理的にそんなことが起こるのだろうか?夢でも見てるのでは?とにかく持ち主の彼にその出来事を伝えて、現物を確認してもらうことにした。

たしかに傷はほとんど消えていた。彼と二人でそれを確認した。彼はその石を私にあげるといったが、お返しした。彼はもう一つ、かつては紫色だったという石を見せてくれた。それは灰色だったが、変色したんだという。それは戻らない気がした。

そして彼と水晶を見送って、何日かして彼から連絡があった。あの日、傷が分からないほどほとんど消えていた水晶は、持ち帰って包みを開けると、また同じ場所に同じ傷がもどっていたという。

なんとも不思議な出来事だった。


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