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作品批評まとめ

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ゲーム・映画・本・アニメ・漫画などの批評記事
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記事一覧

【秒速5センチメートル批評】幸せの所以を何に求めよう?【11450文字】

「3年付き合っていた恋人に振られた」 あぁ、悲しいね。 「心の摩耗と限界を悟り、仕事を辞めた」 そうか、つらいね。 「部屋で鳴った携帯を取ろうとして、ビールの空き缶を蹴飛ばした」 どうにも、苦しいね。 「それでも」 どうしようも無く幸福だ。  『秒速5センチメートル』では、上記のような一見すると幸福から遠ざかる悲しい出来事やつらい事は実際の所幸福とは関係が無いし、幸福とは何かによって失われたり偶然だけで突如拾えたりするようなものではない、という事が主人公遠野貴樹の人生を通

【アニメぼっち・ざ・ろっく!批評】Who is the music for?【1981文字】

表現は孤独だ。 表現をしたい衝動そのものは誰にも伝わらないし、何かが伝わったかなと思ったら自分の意図とは全く違うものだったりする。 表現をすればするほど断絶を感じたり自分が何か大きくズレてるんじゃないかと思う事なんて日常茶飯事。 でも、それでいいんだ。 表現に限らなくたって人間の意識は孤独だし、意図が伝わってなくてもその人なりの解釈で勝手に成長したりする。 気づいたら各々の目的を持って仲間が集まっていたり、その仲間の音に合わせてみたくなったり、合わさった音でいつの間にか誰かの

【天気の子批評】大人には何が出来るんだろう?子供には何が出来ないんだろう?【7484文字】

 本作を簡単に表すなら「大人である事の制約、子供である事の制約。その中で僕達はどうすればいいんだろう?そもそも大人と子供の定義ってなんなんだろう?」だと思います。 なんだか思春期の悩みあるあるに聞こえますが、作中でそうであったようにある程度大人になった人達にも重要な問いかけでした。 大人になり過ぎてもダメだし、子供過ぎても勿論ダメで、バランスよくそのどちらでもある事が大事なんだというメッセージを受け取った気がします。 大人と子供って何だと思いますか? そんな事を少しだけ頭の

【すずめの戸締まり批評】いつか失うあなたへ、私へ。【5144文字】

 『すずめの戸締まり』視聴しました。 今作はとても強い特定の方向へのメッセージ性を孕んでおり、何の前情報無く視聴したとしても成人した日本人ならば恐らくすべての人が「あぁ、アレについての話か……」となる事でしょう(私はそうでした)。 そして私はその"特定の方向"に向けられた拡声器の外側に居た人間、わかりやすく言えば当事者では無いしその他大きな被災の経験もありません。 そんな私が「これは当事者達にはどう映るんだろう、どう思うんだろう」のような想像を働かせ、現地と被災者へのお気持ち

【ドラクエ5-天空の花嫁テーマ考察】運命を変えられない僕達に、それじゃあ何が出来るんだろう?【11818文字】

まえがき 以前からドラクエ4・5・6、所謂天空シリーズを通してのテーマに関する記事を書きたいと思っていたので、それならそれぞれについても書いてみようという試みの第一弾天空の花嫁編です。 この試みの為に再プレイをしていたのですが、プレイする自分の年齢が上がっていく毎に「ここが素敵!!!」となるポイントが変わったり増えたりしていく気がしますね。 結婚イベントや子供が生まれた時、その後の石化イベントなどは今までプレイした中で一番自分の感情の起伏を感じましたし、もっと年齢が上がってい

【もののけ姫感想&批評】これは人と自然の物語ではなく、命によって意志と向き合う物語【11092文字】

序文少し前の話になりますが、劇場で再上映していた『もののけ姫』を観てきました。自分の年齢的に劇場でやっていた頃は楽しむのが難しかったのでこういうspecialな催しは嬉しいですね。 元々好きだった作品で、最後に観た時と比べて色んな視点を獲得する事が出来ると思ったので備忘録兼批評・レビューとして記事にする事にしました。 公開から時間が経っている上にジブリ作品という事で作品外の様々な情報や言及が存在しているとは思いますが、本記事では"作品内で提示される情報のみ"を元に批評を行いま

【MOTHER2批評①】ギーグの考察とMOTHER2で遂行された事

全記事へのリンク MOTHER2のはじまりは、ネスの敵意の芽生え MOTHER2は近所に落ちた隕石を見に行く所から始まります。 この時フィールドに敵は一切出ません。 しかしその日の夜中に隣人であるポーキーのノックによって起こされ、自分勝手な理由で仲間になり再度隕石が落ちた地点へと一緒に行く時に初めて敵が出現するようになります。 そしてこの時出てくる敵はヘビ・イヌ・カラスと言った、まぁ山道や田舎ならその辺に居てもおかしくないよなという動物達です。 が、名前がちょっと変わっ

【MOTHER2批評&考察②】何故ネスはギーグを倒せたんだろう?

前回の記事ではギーグの正体と役割について書きました。 今回の記事は「じゃあどうしてネスがそのギーグを倒せたの?」というお話です。 パワースポットから得られた力  ギーグを倒す為に必要な事として提示されたのは「パワースポット」と呼ばれる8つの場所に行く事でしたね。 ここに行くとネスのパワーを強めてくれるから行って来いというのがブンブーンの遺言でした。 しかしいざ最初のパワースポットに行ってみるとどうでしょう?別に力は貰えず、メロディの一部を入手すると共にネスの幼い時の記

【MOTHER2批評&考察③】おとながこどもになる空間で知り得る事とポーキーについて

これまでの記事で物語の大枠とも言える内容を綴りました。 そしてその内容というのはキャッチコピーで言う「こどもはおとなに」の部分だという事も。 この記事では、同キャッチコピーにある「おとなはこどもに」の部分の解説と、何故それがMOTHER2に必要なのかという点を綴りたいと思います。 誰の心の中にもあるマジカント  8つのパワースポットを巡ると強制的に訪れる事になる国「マジカント」。 ここはネスの心の中に存在する国です。 ネスの感情や思い出、心象などが形を得ているちょっと

【MOTHER2批評&考察④】テーマの統括|誰かがあなたを愛している事を、どうか思い出して欲しい

前回の記事 MOTHER2という物語 両親に愛された少年が大冒険を通してようやく自分は愛されていたんだと知り、その心を以て誰かを憎む気持ちを克服する。 要約するとそんなお話だったのかなと思います。 そしてそんな少年をロールプレイする事で、プレイヤーである私達も「自分も誰かに愛されているのかな」と感じ、あるいは「誰かに愛を伝えてみようか」と思える優しいゲームでした。 多くの人が感じている通り、社会に、身近に、もうどこにでもポーキーみたいな人はいます。確かにいます。 「もう

【MOTHER2感想&批評⓪】ただただ愛されている少年

 少し前にSwitchオンラインの特典としてMOTHER2が最新機器でも遊べるようになったのを切っ掛けに、いつかやろういつかやろうと思っていたMOTHER2をようやくプレイしました。 一応初見ではなくGBA版のリメイクをプレイした事があるのですが、プレイ当時は小学校低学年だったのもあって物語を味わう事までは出来ておらず、同じゲームなのに今回は全く違って見える~~~!!となりながらプレイしていました。 折角なので以下のような批評も行ったのですが すごくシンプルなシンボルやゲ