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ハエの死(cherry)

ハエを飼っていた。


・・・と書いたらギョッとされるだろうか。

私も今、文字を打ちながらギョッとした。


飼ったつもりはないのだが、最終的にはそんな気持ちになった話。

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昨日、飼っていたハエが死んだ。

最初は家の中にいつの間にか入ってきた。

わずらわしくて、すぐに殺虫剤でヒト吹きした。

しかし、とても動きが早く何度かの殺虫剤攻撃をかわして逃げていく。

あまり台所で殺虫剤を吹きたくないので諦めた。

タイミングが合えば、窓を開けて外に出したいし、タオルで捕まえたい。そう思ったがそのタイミングは来なかった。

何日か経った後、「ハエがいて逃げないんよね〜」とため息つく私に、隣の家に住む心優しきヒロコ姉さんが、「うちもよくあるよ。なかなか逃げない時、”あ!死んだ父さんかな?”って思う。」と言った。


私がハエと共存を決めた瞬間だった。


死んだ父さん・・・・・とは思えなかったが、わずらわしさは少し減った。

朝起きた時も「お。今日も”おハエちゃん”はいるね〜」と思った。

そんな”おハエちゃん”が死んだのは、”おハエちゃん”と思わず名前をつけた次の日だった。

別れは突然だった。

溺死だった。

私が毎朝飲む白湯のコップの中で、”おハエちゃん”は死んでいた。

私が朝、お風呂に入っている間のことだった。
残りの白湯をお風呂から上がって飲もうと置いていたコップの中に、”おハエちゃん”は浮かんでいた。

どうして全部飲まなかったのかと後悔をした。”おハエちゃん”はのどが乾いてたのだろうか。とも思った。「バカだよ・・・おハエちゃんは・・・」とつぶやいた。

そして、ハエ1匹死んだくらいで悲しくなる自分にも驚いた。


ゴミ箱に”おハエちゃん”を捨てる気になれず、数ヶ月前に青シソを植えたプランターに葬った。プランターにポトンと”おハエちゃん”を落とし、もう1度最後の姿を見ようとした。
しかし、どう探しても土の上の”おハエちゃん”は見つからなかった。

(cherry)


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