ヒゲコガネについての思い出

ヒゲコガネという昆虫をご存知だろうか。髭のように毛羽だった立派な触覚と独特の模様を持つ大型の日本のコガネムシの一種である。

私はそれを初めて見たのは小学校一年生のときであった。おそらく夏休みのときだ。なぜそれを覚えているのかというと、その夏、自由研究の一環で「夏に出会った虫」というテーマで絵日記のようなものを書いたからである。虫の絵を描き、そこにエピソードや説明を付け足すというだけの至極簡単なものであったが、今となってはとても良いものだった。スケッチブックを利用して作ったが、表と裏には父親が切り絵でカブトムシとクワガタムシを模った画用紙を貼ってくれたのを覚えている。今思えば毎年やってもいいくらいの素晴らしい取り組みだった。そのときは親の提案でやったような気がする。

この中でヒゲコガネが登場する。私がヒゲコガネに出会ったのは神奈川県の厚木に行ったときだそうだ。当時埼玉県の富士見市に住んでいた私はおそらく、電車で厚木に行ったのだろう。東武東上線で池袋へ。そして山手線で新宿へ。そして小田急線で厚木へ。という結構な長旅である。母の友達の家に遊びに行ったということは聞かされていた。しかし不思議なことにその道程は全く覚えていない。乗り物酔いがあった私にとっては決して簡単な道のりではなかったはずなのに。母の友人宅で何をしたかも全く覚えていない。覚えているのはヒゲコガネの姿とその周りのぼんやりとした風景である。多分団地のような場所だった。

実はというとヒゲコガネは生きた姿ではなかった。死骸であった。しかしその姿がとても珍しいと感じた当時の私はその姿を自由研究の1ページに収めることにしたのだ。

ヒゲコガネの死骸は持ち帰ったのかもしれない。それは定かではないが。死骸そのものか、図鑑を見ながらその特徴的な前翅の模様を描いたことも覚えている。多分死骸だったのかもしれない。だからこそじっくりと見ながら描けたのかもしれない。

実は今でもヒゲコガネには再会できていない。そのときの30年前の出会いが私のヒゲコガネの出会いの最初のままなのだ。厚木という地名、そしてスケッチブックに丁寧に描いた模様が今でもひどく記憶に残っている。子供の頃の記憶は何が残るかわからないものだが、好きなもの、夢中になったものというものだけは一生色褪せないものなのだと、この歳になって強く思う。


投げ銭をしていだけると生活の足しになります!!バクシーシ!!