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Underground Rap 中級編

皆さんこんにちは。シェイディです。
今回は前作の続編ということで、Underground Rap 中級編をお送りいたします。
前回はUndergroundシーンにおける名盤をご紹介しましたが、中級編では少し掘り下げた内容になっております。
聴きやすいといえばそうではないし、難しいかと言われても首を縦には振りづらいような、絶妙なバランスを持つアルバムを今回は取り上げます。
上級編は更に深く、まるでダンジョンの最下層を巡るような回ですのでそれ相応の覚悟が必要ですが、今回は中階層。一癖ある作品達が蠢く回になりますが、油断大敵。気を弛めることなく最後まで足を運んでいただけると嬉しいです。

それでは中級編!どうぞごゆっくりお楽しみください。
(↑↓名前順|アルバムのジャケットをタップすればリンク先に自動で飛びます)


1 . Race Music - Armand Hammer


難解度 : ★★★★★  認知度 : ★★★☆☆

Underground Rapを語る上で外せない存在であるbilly woods。彼とタッグを組むのは異彩及び鬼才であるELUCIDだ。ノイズがかかった複雑なビートの上に彼ら2人は現アメリカ社会の思想・理想について、様々な視点から棘を刺していく。
様々な情報が交差する現代社会において、彼らの存在はある種のセキュリティ、もしくは非常ブレーキだ。独自の視点から繰り出される様々なパンチラインとストーリーテリングは唯一無二であり、彼らが絶対的王者である所以。阿吽の呼吸の更に上、これ程語彙力を削がれるデュオはこの先誕生しないだろうと私は感じる。


2 . Maps - billy woods & Kenny Segal


難解度 : ★★★★☆  認知度 : ★★★★☆

彼の新アルバムが2023年5月5日にリリースされた。
タッグを組んだのは2019年に傑作を共に作り上げたプロデューサーのKenny Segalだ。Hiding Placesの時の霧がかった暗然とした空気も纏わせながら、どこかゆったりと落ち着いた空気感の中で圧巻のストーリーテリングをお見舞いしてくるbilly woodsに毎曲スタンディングオベーション。細かくジャンル分けするのなら"フリージャズラップ"という造語だろう。1曲1曲が独立しているようにも感じるが、アルバムを通しで聴いた時の満足感は計り知れない。時折ジャズアーティストが見せるスキルフルなアドリブを生ライブで味わった時のような感覚だ。2019年から4年の歳月を経たKenny Segalは正真正銘の傑物としてbilly woodsと共に、HIPHOPの歴史の中に新しい額縁を飾る大名盤を誕生させた。


3 . Caleb Giles - Under the Shade


難解度 : ★★★☆☆  認知度 : ★★☆☆☆

Gio Escobar率いるポストジャンルバンド・Standing On The CornerのメンバーであるCaleb Giles。彼らの音楽性はジャズ・ネオソウル・ヒップホップだけに留まらず様々な要素をコラージュさせたクロスオーバー的音楽。今作にもその面々が裏方として参加しており、特にSlauson Malone 1が創り出す幽玄なビートには目を見張るものがある。影に隠れた天才集団、アングラシーンにおけるOdd Futureである彼らの全てがこのCaleb Gilesの作品に詰め込まれていると言っても過言ではない。枠に囚われないという近年の若者的思想を存分なまでに表現する彼らには同じ若者としてどこか親近感のようなものも感じられる。


4 . Crown City Rockers - Earthtones


難解度 : ★☆☆☆☆  認知度 : ★★☆☆☆

カリフォルニアはオークランドの5人組。ジャズやファンク、ラテンなどの要素を西海岸の陽気な空気で取り囲んだ清涼感満載なWest Coast Hiphop。
M6 / B-Boyはサンプリングを活かしたBoom Bapで、聴いただけで体が乗ってしまうようなキラーチューン。2000年初期はJurassic 5People Under the StairsBluなどもいたが、当時この曲があまり話題に上がっていなかったのがどこか残念ではある。私としては2000年代のベストソングに選ぶであろう大名曲だ。ヒップホップファンは勿論、ジャズ好きやソウル・ファンク好きにもおすすめしたい1枚。


5 . Five Deez - Koolmotor


難解度 : ★★☆☆☆  認知度 : ★★☆☆☆

ジャズラップの需要というものは計り知れないものがある。90sで誕生して以降、その勢いは衰えることを知らず、現代でもHIPHOPの中で重要な1柱を担っている。このFive Deezもジャズラップの歴史を語る上で欠かせない存在だ。中心人物のMC・Pase RockはNujabesファンにもお馴染みだろう。haruka nakamuraの2013年作 "MELODICA"にもNujabesやShing02Substantial、Cise Starrなどと共に参加している。もう1人の中心人物・Fat Jonはサンプリングの名人であるJ. Rawlsと共に3582というデュオを結成し、2003年にはジャズラップ史にのる名盤を残している。今作にも密かにShing02が参加しているなど日本とも関わりが深く、Nujabes以降のJ-HIPHOPに少なからず影響を与えている。


6 . Panama Plus - Fly Anakin, Koncept Jack$on & Tuamie


難解度 : ★★★☆☆  認知度 : ★★☆☆☆

Fly AnakinとKocept Jack$onはキャリアの歩み方が似ている。2010年代半ばからスタートさせ、様々なアーティストと音楽を交わせながら、自身の土台を磐石なものにしてきた。Tuamieもプロデューサーとして自身のスタイルを確固たるものにし、MC達の信頼を築いてきた。そんな似た者同士の彼らが互いの長所だけを抜粋し完成させたのがこのアルバムなのだ。Lofiでジャジーなビートに囁くような語り口で淡々とラップしていくと思いきや、時折感情を露わにするFly Anakinのやり口は良い意味で人間的。その自由自在なフロウとバラエティ(発声の仕方)は現在のHIPHOPシーンにおいて頭ひとつ抜けている。今月にはRapsodyが在籍していた事で知られるノースカロライナのヒップホップユニット・Kooley HighとTuamieのコラボアルバムが控えているだがそちらも確実に聴いておきたい。


7 . Orpheus vs. the Sirens - Hermit and the Recluse


難解度 : ★★★★☆  認知度 : ★★★☆☆

NYとLAは90年代、東西抗争があった犬猿の地。そこから約25年後、互いの地域から2人が手を取り、最高のデュオを結成するなど誰も予想出来るわけがない。今やアンダーグラウンドシーンにおいて絶対的地位を築いたExperimental Hiphopの代表格・Kaと謎多きプロデューサー・Animosは2018年、この類稀なる大名盤を世に解き放った。プログレッシブなサウンドとNew Age的静寂さ。ドラムレスというサブジャンルを確固たるものにしたアルバムと言っても過言ではない。このアルバムが持つ意味は現在のアンダーグラウンドシーンを見れば一目瞭然だ。もはやカルト的人気を誇り、崇拝され、聴くことも恐れ多いと感じさせてしまうほど神格化されている。それが良いとか悪いとかの話ではない。そういう事なのだ。そういう事にしなければこのアルバムを正確に評価、或いは言語化することが出来ないのだから。


8 . The Infinite Universe - Killah Priest & Vendetta Kingz


難解度 : ★★★☆☆  認知度 : ★★★☆☆

Wu-Tang Clanのサブグループ・Sunz of ManのメンバーであるKillah Priest。彼とタッグを組んだのはアリゾナのヒップホップユニット・Vendetta Kingzだ。Killah Priestはもはや説明不要。スピリチュアルで宗教的なラップをする独創性溢れるMCであるが、Vendetta Kingzも同じく其の部類に当てはまる。政治的な揶揄をハードなラップに乗せるスタイルがKillah Priestに合わないわけがない。全曲ハードなメンタリティがこれでもかと言うほど感じられ、彼らの長いキャリアで培ってきたスキルや経験が100%注ぎ込まれた激アツな1枚だ。


9 . Word O.K. - KOOL A.D.


難解度 : ★★★★☆  認知度 : ★★★☆☆

サンフランシスコはベイエリア出身の異彩、Victor VazquezことKOOL A.Dはそのユニークな言葉遊びと実験的なサウンドを活かしたAbstract Hiphopで高い評価を得ている。HIPHOPというジャンルが持つ多様性を体現していると言ったほうが良いのかもしれないが、このアルバムを聴けば容易に其れが理解出来る。ビート制作の主を担ったのはプロデューサーのAmaze 88。時折Madlibを感じさせる歪み切った音の組み立て方がこのアルバムをより一層、特別なものにしている。M7のToro y Moi参加曲では清涼感溢れるGなメロディで西海岸らしさも垣間見える曲調になっていたのが印象的だ。様々な街が混在するベイエリアという地域色が色濃く現れているのは勿論、KOOL A.Dというアーティストの柔軟性・多彩性も伺える非常に独創的な作品だと感じる。


10 . The Catalysts Files - Lone Catalysts


難解度 : ★☆☆☆☆  認知度 : ★★☆☆☆

シンシナティで結成されたJ. RawlsとJ. Sandsによる伝説デュオ・Lone Catalysts。Black Starやその他数多くのレジェンド達の楽曲に携わってきた彼ら。ジャズラップというサブジャンルの功労者であるプロデューサー及びDJのJ. Rawlsは、『HIPHOPはサンプリングから生まれた音楽だ。だから今の奴らが作っているものは俺からすればHIPHOPじゃない。』と述べている。稀代のビートメーカーである彼が作る音はまさにそのサンプリングという技術をフル活用したもの。様々な音をコラージュさせながら複雑さを感じさせず、1つのビートとして成り立たせるスキルには脱帽せざるを得ない。この作品以外でも2000年の"Hip Hop"、2006年の"Good Music"などクラシックが山のようにあるが、今回は完全なる私情でThe Catalysts Filesを選出した次第。もう何回聴いたかを思い出すことすら困難だが、ジャズラップ好きには勿論、普段HIPHOPに馴染みのない人にもおすすめしたい1枚だ。


11 . Gems from the Equinox - Meyhem Lauren - DJ Muggs


難解度 : ★★★☆☆  認知度 : ★★★★☆

Cypless Hill時代から人並外れたビートを作ってきた彼が今のアンダーグラウンドシーンに与えた影響は計り知れない。毎年コンスタントに様々なMCとコラボを果たし、自身の地盤を確固たるものしている。そんな彼と今回タッグを組んだのはクイーンズの地下界を牽引する巨漢MC・Meyhem Laurenだ。90's仕込みのハードコアラップは時折Double XX Posseを彷彿とさせる荒々しさのようなものを感じる。Roc MarcianoやAction Bronson, Conway, Sean PriceにBenny The Butcherなど現行アンダーグラウンドのレジェンドたちを招き、自身の立ち位置と功績を称える傑作に更なる色味を持たせる。2010年代のベストアルバムを作るのであれば、間違いなく選出するだろう。Muggsの暗然とした重々しいビートとMeyhemの粗いハードなラップの相性はまさに弁慶に薙刀だ。


12 . Decadent Apocalypse - nahhphet


難解度 : ★★★☆☆  認知度 : ★★☆☆☆

目白押しいほど数々の傑作が産声をあげた2023年。その中に誰も話題に挙げなかった名盤があることをご存知だろうか。まるで友の輪を嫌い、教室の隅で静かに読書に励む秀才のような佇まい。ロサンゼルスの陽気で煌びやかな表像とは対極に位置する、不気味さを覗かせた嵐の前の静けさと唐突にくる暗然な音響が他の作品を寄せ付けない別格の空気を纏わせる。Pink SiifuVRITRAlojiiRhys Langstonなどまさに異彩達が類に呼ばれ集結した怪作。ロスでのパーティが終わり、疲労で満ちた身体に深々と染み渡る静寂。その静寂は現実から目を逸らしてきた自己投影からくる悲観的な感情そのものか、或いは達成感や満足感からくる楽観的な余裕なのか。"内省的"や"没入感"といった言葉はこのアルバムを元に創られたのではないかと自己暗示をかけてしまいそうになる。


13 . Hope - Non Prophets


難解度 : ★★★☆☆  認知度 : ★★☆☆☆

アメリカ最古の都市、ロードアイランドはプロビデンス。気品に満ちた大人の遊び場で地下界のダークヒーローは声をあげる。プロデューサーのJoe Beatsとタッグを組んだSage Francisはある種の批評家だ。皮肉まじりに檄を飛ばし、自身の思いを赤裸々に語る。単純明快、彼はヒップホップを心の底から愛している男だ。それさえ分かればこのアルバムが持つ意味を容易に理解することが出来る。これは音楽と云うより彼からヒップホップ界へのメッセージであり、警告でもある。過去・現在・未来、この3つそれぞれに焦点を当て、憧れ・危惧・愛情を力強く語る彼の後ろ姿は誰よりも広く逞しい。まさに名盤と呼ばれるに相応しい作品であり、ヒップホップの歴史の中で重要な役割を担う作品だ。


14 . Brick Body Kids Still Daydream - Open Mike Eagle


難解度 : ★★★★☆  認知度 : ★★★★☆

恐らくこのアルバムは彼の最高傑作であると私は感じる。アルバムのジャケットに写るのはロバート・テイラー・ホームズ団地と一体化する彼と仲間達。シカゴ最悪の地域と呼ばれたこの団地で懸命に生きなければならなかった人達の叫び、過剰なまでに監視され自由とは程遠い歪みきった現代社会への叫び。一言で言ってしまえばディストピアなのだが、イーグルは自身が歩んできた道のりや抽象的な現代社会に対する自身の意見をこれでもかと言うほど叙情的に書き記す。彼の作品を聴いているとまるで一流の文豪が綴った詩を読み解くような感覚に陥ることが多い。彼は自身の表像を言語化する能力が非常に長けているのだ。天才的な韻踏みとユニークなラインで彼の右に出る者はいないだろうとも思わせてくれる。私達が想像するアメリカ社会と彼らが実際に体験しているアメリカ社会とでは比べ物にならないほどの差があるだろう。痛々しくも見える歴史にそっと花と手紙を添える彼の底知れぬ優しさと強さには心から尊敬の念を送りたい。


15 . Eastern Medicine, Western Illness - Preservation


難解度 : ★★★★☆  認知度 : ★☆☆☆☆

一言で表すならこのアルバムは風水だ。良い意味で雑駁に配置されている音の数々は、欧米文化と中国文化が融合された香港という国の異質なエネルギーの流れを完璧に調和している。水や風などの様々な自然と飃色(ピウ・シク)で舞う活気に満ち溢れた空気感が東洋の神秘的表像を具現化していく。それだけでなく、アジアの日常に溶け込む民謡や伝統文化などを感じさせるサンプリングは格別だ。ミニマルで精緻な音像を通して、自身の内に秘める静けさと真理を追求するさまは禅定と等しい。香港出身のYoungQueenzを始めとし、Navy Blue, billy woods, Quelle Chris, KA, Roc Marcianoなど現行アンダーグラウンドの鬼才達を集結させた今作は間違いなく歴史に残る大名盤であり、私があらゆるジャンルのあらゆるアルバムの中で最も愛を捧げる作品だ。


16 . 5 to the Eye with Stars - R.A.P. Ferreira


難解度 : ★★★★☆  認知度 : ★★★☆☆

異世界のような混沌とした場所に駐車された1つのビンテージ車。サイケデリックな描写は情報過多により疲労した現代社会のようにも視える。そんな場所で停車している車は、長い旅の休息をしているのではない。ヘッドライトが照らす先こそFerreiraが目指す到達点であり、この車はこれから始まる長い旅に向けてエンジンを温めているところなのだ。彼の音楽は難読であることが多いのだが、それは彼が自分自身のことを"退屈なやつ"と評し、周りから自分を遠ざけていることに対しての葛藤があるからだ。叙情的なリリックもあれば、散文のような雑駁なリリックもある。だがこれらの相互作用により、アルバムとしての一体感が更に増しているように感じられる。彼がアンダーグラウンドにおいて異質な存在感を放っている理由はまさにこの叙情と叙事の関係性である。内にある真理を解くこともあれば、社会や政治の事跡に対してストレートに打撃を加えることもある。相反するようにも思える関係性だがこれらを完璧に融合させ、怪作と呼ばれるものを作りづつけるメンタリティこそR.A.P. Ferreiraの最大の魅力なのだ。


17 . Alice in Thunderdome - Rob Sonic


難解度 : ★★★★☆  認知度 : ★☆☆☆☆

彼の最大の魅力はその切れ味だろう。Sonic SumのフロントマンとしてNYのヒップホップ市場を牽引してきた彼がソロとして約7年ぶりのリリースとなる今作で自身の可能性をさらに押し上げた。この”7年”の間、ツアーを中心に行いながらAesop RockHail Mary Mallonを結成し、2つのアルバムをリリースした。そのどちらもが傑作であり、彼らの地位を確固たるものにしている。待ちに待ちすぎた新アルバムへの期待はその容量を優に超えるほど肥大したわけだが、それでも甘く見積もっていたといってもよい完成度。アブストラクト全開の切れ味鋭いビートとラップ。ロック要素が強く、NYの淀み切った曇天の空を切り裂いていく様な彼の力強い意志を感じる。”自分に才能があるとは思わない。だからこそ自分ができることを理解し実行することが長年にわたって進歩することができた一番大きな要因だよ”とGrown Up Rapのインタビューで語っているように、彼自身の実直な生き方と音楽に対する愛情が垣間見える快作であり、2010年代のヒップホップシーンにおいて重要作品であることに間違いはない。


18 . Metal Lung - Shrapknel


難解度 : ★★★★★  認知度 : ★★★☆☆

その威力はまさに榴散弾そのもの。スタイル的に言えば対極に位置するCurly CastroPremRockの音像がここまで完璧に融合するなど誰も予想していなかった。まるで伝説的な錬金術師の術を見せられているような感覚。陰鬱な空気を纏った凄まじいビートがより一層の不気味さを増しているのだが、聴けば聴くほど先に行きたくなるような好奇心が湧き出てくる。自分自身心霊現象は苦手だが、このアルバムを聴いていると心霊愛好家の心情が少しばかり理解できたように感じる。様々な趣で立ち並ぶビル群とその周りに張り巡らされた電力線。それらが不気味に輝きながらディストピアを埋め尽くす構造は見ているだけで何かしらの恐怖症に侵されそうになる。だがそれらは総じて現実的であり、情報過多により危機に瀕している大都市、或いは国そのもののようにも思えてくる。ELUCIDSteel Tipped DoveによるビートがShrapknelのラップに背景を与え、私たちを異世界へといざなうさまに最早快感すら覚えるが、このアバンギャルド~ノイズを行きかう不規則な音景に酔いしれる機会はそうあるものではない。


19 . Still Chldrn - Wiseboy Jeremy


難解度 : ★★★☆☆  認知度 : ★★☆☆☆

様々な国籍の人間が行き交うニュージャージーという都市で若者たちはのびのびと自身の羽を伸ばしていく。美しい海岸線と緑で埋め尽くされた山々が爽やかでウッディな香りを街中に漂わせる中でWiseboy Jeremyは自分自身を客観的に見つめながら肯定していく。20歳らしいフレッシュな感情と20歳らしからぬ生々しいリリックを交差させ、ゆったりと落ち着いた空気間の中に静かなる情熱を注ぎこんだ快作。近年のアンダーグラウンドシーンでは様々な色身を持つ新緑たちが台頭してきており、そのスタイルは多岐に及ぶ。地域の特色を活かす者や古典的なスタイルを貫くもの、新しいサブジャンルを作る者もいる。こうした若者達の新鮮なアイデアや才能がこれからどのように作用していくのか楽しみで仕方がない。


20 . Situational Ethics - 3582


難解度 : ★★★☆☆  認知度 : ★☆☆☆☆

Five DeezのFat JonとLone CatalystsのJ. Rawlsはともにジャズ・ラップを牽引してきたレジェンド。ヒップホップの流れを変えたといっても過言ではない両者がタックを組むとなれば、聴かないという選択肢は自動的に削除される。J. Rawlsの類いまれなるサンプリング技術により生み出された精緻なビートは至高の領域に達し、合間合間で挟むボサノヴァチックなインタールードも相まって肌触りの良い滑らかな質感に仕上がっている。MVRemixのインタビューでロールズは”サンプリングする曲を見てもらえればわかると思うけど、僕はラテン音楽にハマっているんだ。アストラッド・ジルベルトホルヘ・ベンが大好きだね。R&Bはあまり聴かないかな。主にジャズかブラジル音楽が好きだよ”と語っている。その背景には熱心なジャス愛好家である父の影響もあるだろう。様々な音楽に触れ、着実に自身のスタイルを磨いていったロールズには改めて最大級のリスペクトを送りたい。ちなみに3582という名前は、Fat Jonが使っていたポケットベルのコードと学生時代にロールズが入っていたサッカーチームでの背番号を組み合わせたものだそう。


次回予告

如何でしたでしょうか。今回は入門編に比べて一歩踏み込んだ内容になっているため、目新しいものもあったかと思います。
こういった隠れた名盤たちを何の情報もなく発見した時って何とも言えない優越感に浸れますよね。私はこの感覚がたまらなく好きなので日々ディグに勤しんでいるわけですが、今回紹介した作品以外でももちろんそういった類のアルバムはたくさんあります。ですのでご自分の力で是非とも探し当てていただきたいなと思います。
次回はいよいよUnderground Rap上級編に突入します。ほとんど情報がないものばかりでどう文章を書いていくのか練りに練っているところです。アングラよりもさらに深いもはや魔境の地ですので皆さんもそれ相応の覚悟ができてから読んでいただくことをお勧めします。


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