身体との対話を大切にして受けいれる

先日、外来にPOTSの症状が落ち着いて、少しずつ仕事を再開しているEさんが来てくれました。

Eさんは外科医としてとても忙しい毎日を送っていましたが、じつは学生のときからときどき立ちくらみと動悸を感じていました。そのころから、自分はPOTSではないかと感じていたそうです。

当直や緊急手術が続き、疲労が蓄積していても、同僚の先生方に迷惑をかけてはいけないと無理を重ねてしまい、ついに朝まったく起き上がれなくなってしまったのです。

職場の環境と自分の体調が折り合わず、最初の病院は退職せざるを得なくなりました。

その後、専門を変えていくつかの病院や診療所で働いたのち、いまは非常勤医として自分のペースで働いています。

Eさんによると、発症して3年目でようやく、自分はこういう身体だと受けいれることができてからは、ずいぶん楽になったということでした。

ここまで、現時点までわかっているPOTSの原因や治療法、そして生活するうえで工夫を、できる限り幅広く お伝えしてきました。

しかし、思うように症状が改善しない場合や、いったんは回復に向かっても、また具合が悪くなってしまったという相談を受けることがあります。

少しは動けるようになっても、あなたが期待するほどよくならないと感じるかもしれません。

ある程度は日常の生活が送れるようにはなったけど、やはりこれ以上は無理と体力の限界を自覚している方もいるでしょう。

私たちができることや、能力は一人ひとり違います。ある人にとってはあたりまえにできることでも、あなたにとっては至難の業かもしれません。

私は以前、アマチュアのサイクリングチームに所属していました。でも私には瞬発力はあっても、長時間の運動を続ける持久力がありません。長距離の走行会では、私だけほかのメンバーの2倍くらいの時間をかけてゴールしていたのです。

サイクリングチームの中での私は、明らかに落ちこぼれです。どんなにサイクリングが好きでも、競技選手としての人生を選ぶとしたら、間違いなく残念な結果に終わるでしょう。

この社会のしくみは、大多数の人の習慣やペースに合わせて作られています。しかし、それが誰にとっても快適なものとは限りません。学校の同級生や、職場の同僚にとっては問題のない環境であっても、あなたには合っていないかもしれないのです。

一般の仕事に携わっていれば、ときにはいつもより早く起きなくてはならないことがあるでしょう。月に1、2回くらいなら、何とかなるかもしれません。そのようなときはがんばりましょう。ただし、あとで十分に休養の時間を取ってください。

それ以外にも、あなたにできることはたくさんあるのではないでしょうか?もしかしたら、午前よりも深夜のほうが集中して作業ができるかもしれません。リモートワークが普及したいま、時差のある海外の人たちと働くという選択もあるでしょう。

会社や組織に所属して働くほかに、独立して、あなたの得意なことを仕事にすることも考えてみてください。そのように視野を広げることで、思ってもみなかったあなたの役割が見つかるかもしれないのです。

ひとには、何があっても変わらない価値があります。あらためて生まれてきた意味や、目標を探す必要はありません。

あなたの人生を幸せに生きるために、この本が何らかの役に立てればと願っています。


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