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スポーツがゲーム配信をまねて投げ銭を導入してもうまくいかない理由

無観客試合で興行を再開しようとしているプロサッカーリーグが投げ銭を導入しようとしているそうだ。鹿島アントラーズが行ったオンラインイベントで専用アプリを導入したり、浦和レッズの練習試合で行ったりと、サッカー業界が投げ銭システムに熱い視線を送っている。

サッカーだけではなくてスポーツ界が「時代は投げ銭。やっぱり投げ銭。チケット収入にかわる収益の柱は投げ銭だ」とタピオカブームみたいなことになっているらしく、それはちょっと危険なのではと思った。

スポーツの投げ銭については自分がとやかく言うまでもなく、スポーツイベントプロデューサーの佐藤さんが詳しい考察記事を書いている。

一方ゲーム配信やeスポーツといったコンテンツにおける投げ銭についてはあまり知られていないので、説明しておこう。

国内におけるゲーム配信には以下のようなプラットフォームが使用されることが多い。カッコ内運営企業。

YouTube(Google)

Twitch(Amazon)

ニコニコ動画(ドワンゴ)

Mildom(Douyu・三井物産)

ミラティブ(ミラティブ)

OPENREC(サイバーエージェント)

ゲーム配信者と呼ばれる人たちはこれらのプラットフォームにチャンネルを持ち、ゲームをプレイする様を配信する。部屋にカメラを設置して自分自身の映像をゲーム映像とあわせて配信することもある。動画といえばYouTuberというイメージをもたれる人もいるかもしれないが、録画・編集された動画をアップロードするわけではなく、生放送を行うのがゲーム配信である

参考までにケイン・コスギのゲーム配信環境を説明した記事を貼っておこう。

https://srdk.rakuten.jp/entry/2019/03/15/103000

多くの配信者は「ゲーム配信を行う」→「その動画を編集してYouTubeにあげる」という作業を行っていて、配信・アーカイブの二つの手段でファン獲得、収益化を図っている。動画の編集に関しては配信者自身で行う場合もあるし、外部に委託したり、所属しているゲーミングチームが行っていたりもする。

このゲーム配信(つまり生放送)で行われるのが"投げ銭"である。そして、投げ銭は個人のゲーム配信で行われることがほとんどである。配信中に試合に勝つ、良いプレイをする、目標を達成するといった節目節目に、ファンの人が「良くやった」という気持ちをこめて銭を投げる。下は100円から上は何万円まで。VTuberの配信なんかでは、高額スパチャ(YouTubeの投げ銭)を受けたVTuberが友達のVTuberに更にスパチャをする様子が見られる。(そのたびにグーグル先生が手数料をぶっこぬいていくわけだ)

eスポーツにおいては、例えばオンライン大会でプレイヤー視点の動画を配信する際に、その生放送枠で投げ銭が行われることがある。オフライン大会で運営の動画(つまり俯瞰視点でMCや実況が入った動画)にスパチャがばんばん飛び交うことはほとんど無い。

なので、スポーツ興行が行おうとしている個人ではなく試合全体に対する投げ銭というのはゲーム業界人も知らない未踏の領域なのである。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングが行った調査によると、配信者への有料アイテムの提供を行う割合は高年齢者ほど低い傾向にあり40代にいたってはアイテム提供を"よくする"と答えた人は0人である。("することがある"は6.7%) 

https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/policy_coordination/internet_committee/pdf/internet_committee_190117_0002.pdf

いま「スポーツ観戦において投げ銭を」と議論している人はYouTube、ミクチャ、SHOWROOMなどで投げ銭したことがあるだろうか?出会い系アプリでくそたけぇメッセージを書いたことあるぜという人はいるだろうが、そういう直接的な見返りを求めるのではなく、ただ与えるという「無償の愛」にも似たものが投げ銭である。高い金額を払えば配信者がびっくりしてたくさんお礼を言ってくれるかもしれないが、それも30秒にも満たない話だ。推しへの愛とは見返りで語れるものではない。

投げ銭というのはコミュニケーションの一種である。そしてゲーム配信というコンテンツそのものがコミュニケーションである。配信者はゲームをプレイしながら日常のことを話して、時にリスナー(視聴者)のコメントと会話して、だらだらと時間を過ごしていく中で、プレイが盛り上がった際に投げ銭が行われるのだ。そのゆるいコミュニケーションの中でシャンパンみたいな金額が飛び交うのがゲーム配信の投げ銭である

「ゲームやVTuberができているなら、スポーツでもできるはず」と思って投げ銭システムを考えている人たちは注意してほしい。選手とファンがコミュニケーションできないスポーツの試合において投げ銭が飛び交うさまを筆者はあまり想像できていない。

例えば野球のベンチの様子を選手が配信したら、結構投げ銭が行われるかもしれない。ゆるい感じで、選手目線で実況したりして、ファンとコミュニケーションがとれて、投げ銭へのコメ返しもできて、監督がひょっこり現れたりして…理想の場所じゃない?でもなんか、野球ファンに怒られそうなんで、やめときます。

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