見出し画像

自分の好きなものを広める難しさ

「自分にとって価値のあるもの」を広く人々に知ってほしい時にはどうすればいいのか?マイナーな趣味に共感がほしい、自分の作品をもっと人に見てもらいたい、自社の商品を売り込みたい...あるいは、自分が正しいと信じるやり方に共感を集め、世の中を変えていきたいといった大きな話でもいい。
 誰かに認知してもらうことは難しい。自分にとってはとても魅力的に思えるものが、他者からすればどうでもいい・理解できないといったケースは多い。何かを周りに伝えたいと行動を起こしてみると、想像以上に人々の反応は薄いものだと気づく。

個人的な例で言うと、僕はずっと新しいゲームシステム(遊びの仕組み)を考える重要性を訴えてきた。個人開発者として色々なゲームのアイディアを提案しつつ、表面的な豪華さに頼らないゲーム作りのあり方を模索し続けている。
 だが実際に色々と意見やアイディアを発してみると、新しい考えであればあるほど理解されにくいと思い知る。本当に伝えたいことを優先するとかえって無視されるものだ。

自分が好きなものは、実は大して価値がないのではないか?それとも伝え方をずっと間違えていて、何か自分は的外れなアピールを繰り返しているのか?誰にも相手にされていないような焦りを感じたりもする。

振り返って冷静に考えてみると、自分が好きなもの=自分が詳しいものであり、世の中の大半の人々はそれに対して素人であるとも言える。例えば僕は自作のゲームのことを隅から隅まで知っている訳だが、初めて見る周囲の人からすれば当然それは未知の作品だ。
 自身が当たり前に理解している前提を言い忘れたり、認識のずれによって説明に失敗するのはしょっちゅうだ。自分が詳しいものほどこのずれは大きくなる。

日常的に社会を観察してみても、プロの仕事の大半は素人への説明に終始していることが分かる。プロがプロを相手にする(詳しい人に対してだけ仕事を行う)ケースは言うほど多くないだろう。
 世の中には膨大な数の商品や情報がある訳で、人間はほとんどの事柄に対して素人と言える。つまり何を広めるにしても相手の多数派は初心者であり、多くの場合、素人に喜ばれないものはろくに認知されないことになる。

そうなるとつい、誰でも分かりやすい簡単なものを広める方に偏りがちだ。自分の信念を折ってでも手軽で受けのいいものを作ったり、表面的で中身の薄い説明に終始したり。だんだん流行りもの(皆が既に知っているもの)にすり寄ってしまい、自分が本当に伝えたかった価値を見失ったり。

だが初心者の方ばかり見て価値を広めても、結局廃れるものだと僕は思う。表面的な話題性に終始してすぐ飽きられたり、その分野に詳しい人には評価されなかったり、一時的に注目を集めるだけで後に続かない。
 誰にでもすぐ分かりやすく、しかし長く付き合っても飽きないような、幅の広い価値を生み出すのが難しい。初心者に優しくて馴染みやすい説明・紹介を徹底しつつ、中身としてはしっかり奥深いものを提供できるかどうか。

特に、自分しか知らない独自の価値を追求するほど、こういった説明の難易度は跳ね上がる。前例がない独特の作品・商品を売り込むとか、現在の常識とは異なる新しい考え方を広めるとか、誰の真似でもない活動は得てして孤立しがちだ。
 だが、誰も知らない独自の観点ほど高い価値を秘めているものだと思う。地道に共感を集め、自分が好きなものが多数派になるような輪を自力で作っていくしかない。

広く伝わる任天堂ブランドの価値

僕は一人のゲーム開発者として任天堂をしばしば参考にしている。自分に近い分野の一流から学ぶのが重要だと考えているからだ。
 昨今の任天堂ブランドの勢いは凄まじい。マリオ、ゼルダ、どうぶつの森など、世界での販売数が一千万本を超えるような人気シリーズをいくつも抱えている。

近年はゲーム以外へのブランド展開も増え、キャラクターグッズやテーマパークなど幅が広くなってきた。最近はマリオの映画も話題になったところだ。
 人気のキャラクターを様々な商品として広め、人々が任天堂ブランドに触れる機会を可能な限り増やす、というのが今の任天堂の戦略らしい。最終的には核となる商品(ゲーム)にお客を引き込むことを目的としつつ、一般人にもアピールしやすい魅力的なキャラクターを表向きの顔として活用している。

単にキャラクター商売で利益を拡大するのではなく、ゲーム中の楽しい体験を思い出させるような商品作りが上手いと感じる。マリオの映画などを見てゲームが懐かしくなり、久しぶりにマリオの新作を遊びたくなる...そんな人も多いのではないか。
 表面的な話題性に終始するのではなく、あくまで商品の中身(ゲームを遊ぶ楽しさ)に話題が繋がっていくからこそブランド力は高まる。表面と中身の一体化が、価値を広く届けるための基本条件なのではと。

1つ注目すべきポイントとして、任天堂は伝統的に初心者を大事にする企業だということを強調しておきたい。「誰でも」「安心して」楽しめるゲーム作りを重視し、品質と分かりやすさへのこだわりが徹底してブレない。そういった長年の積み重ねが高い知名度の基礎となっている。
 任天堂レベルの成果を出すのは容易ではないし、一見参考にならないかもしれないが、結局のところ重要なのはいかに信用を積み上げるかだと思う。自分が伝えたい価値は短期間では広まらないが、焦らずに自身のブランド力を高めるしかない。最近の任天堂の躍進から個人的に教わったことだ。

今の時代はネットに情報が溢れ、自分が必要とする価値を見つけるのにも一苦労する。本当に自身が求めているものが何なのかは意外と分からず、流行の中で偶然出会ったものが視野を広げてくれるケースも多い。
 自分が信じる価値をしっかり磨き続ければ、それを求めている人にいつか届く...ではなく、それを特に求めていない人にも広く伝わらなければ、本当に価値のある出会いは生まれにくい。

個人的な考えだが、僕は万人向けの分かりやすい価値を追求することに深い意義を感じている。自分が好きなものをあらゆる人に届けるため、これからも伝え方を悩み続けていきたい。


※本文は以上となりますが、有料部分にちょっとしたオマケを付けています。何かを広めるためには自身の人柄も大事?という話を少し考えてみました。
 もし今回の記事が面白いと感じたら、応援としてお支払いをいただけると嬉しいです。サポートや無料部分へのスキも励みになります。

ここから先は

847字

¥ 200

記事の価値を金額で評価していただけたら、と考えています。有料記事は価格を少し低めに設定してありますので、もし気に入った記事があればサポートをお願いします!