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とくお組第2回公演 たのしいサルバドール先生(2004年7月24日)

たのしいサルバドール先生

■出演

岡野勇 グレイシー
徳尾浩司 スパイシー
北川仁 右脳ダリ
永塚俊太郎 左脳ダリ
鈴木規史 白生物
堀田尋史 近衛博士/シナプス

■ 舞台設定

最初の舞台は研究所。舞台奥はスクリーンになっている。
装置が動いたときに、スクリーンには、記憶の固執が投影される。
観音開きになっているので、それを閉じれば、脳の世界の舞台になる。

■ 研究所
□明転 舞台上下手側に台がある(固定)
舞台上は誰もいない。近衛、グレイシーとスパイシーが入ってくる。

近衛 あまり気が進みませんね。
いや、全然気が進まないな。やめておいた方がいい。
グレ そこをなんとか。
スパ 私たちも、先生に一縷の望みをかけるしかなくてですね。

近衛 ちょっと、見せてもらえます。 あ。かけてください。

グレイシー、手に持っている「記憶の固執」を近衛に渡す。

近衛 新聞でみましたよ。またエライもん盗みましたね。
グレ ま、プロなんで。
近衛 ひどいね。確かに。これじゃ名画もぶちこわしだ。
・・・・・・なんでよりによって。(シミを見せる)
スパ 分け前でちょっともめまちゃいまして。
おれが実際、体張ったんだから取り分80パーセント。
グレ おれがプランを考えたんだから80パーセント。
スパ なんでやねーん・・・
グレ おれのもんやー・・・・
スパ やめろやー・・・・
グレ 手に持ってたコーヒー、ばっしゃーー・・・・・。
スパ うわああ・・・・。みたいな。

近衛 (絵をみて) いや、やっぱ無理ですよ。絶対。
スパ なんで。ですか。
近衛 これ、抽象画でしょう。いいですか。僕の装置は風景画専用なんですよ。
グレ 風景画専用。

近衛、用意していた試験用の絵画を装置に載せて、リモコンのボタンを押す。
□ フェードアウトで暗転する。
△ 風景画のスライド ルノワールの「シャトゥーの橋」が映し出される。

近衛 ま、これはルノワールの風景画ですけどね。
風景画ってのは、過去にこの場所が実在してますよね。
スパ はい。
近衛 だから、絵の中に入れるんです。
描かれた時代の、この場所に、まあ、トリップできるわけですよ。
グレ それが抽象画じゃ、無理だと?
近衛 いや、だって、

△近衛、装置の絵を「記憶の固執」に変える。

近衛 これ、どこですか。
スパ ああ・・・・・。
近衛 こんなとこ入っても保証しないですよ。実在してないんだから。
めっちゃくちゃ寒いかもしれないし、これ、生き物ですか?
うわーーって襲ってくるかもしれないし。
グレ はい。でも、コーヒーのシミ、取らないことには。

近衛、リモコンのボタンを押す。
□明転する。

近衛 シミぐらい、濡れぞうきんとかで取れないんですかね?
スパ やってみたんですけどね。こすったら違うとこの絵の具がぼろー取れて
もう、怖くて怖くて。
グレ ま、そんな折、先生のウワサを聞いたもんで、絵の中に入れるなら
いっそのこと中でゴシゴシ取った方がいいじゃないですか。
近衛 それはどうでしょう。ん~~・・・・・・。ちょっと待ってくださいよ。
物理世界が無い絵に入り込むとそこは・・・・・。イメージ世界か。
イメージ世界になるのかな・・・・・。
スパ イメージ世界とは。
近衛 頭の中ですよ。
グレ 画家の頭の中ってことですか。
近衛 うん。そうじゃないかな。と。
スパ お願いできないですか。
近衛 いやぁ・・・・・・・・・・。
グレ 報酬は弾みますが。
近衛 いやあ。イメージ世界だもんな・・・・。そういう風に作ってないからなぁ・・・・。
スパ これ、売ったらスゴイ値段になるんですが。城が建ちますよ。

近衛 絵の中のもの、絶対動かしちゃだめですよ。
シミを取ったらすぐに戻ってくること。
グレ あ、もちろんです。
スパ すぐ戻ってきます。
近衛 絵を変えたら歴史が変わりますから。時間規制法で
タイムパトロールとか、やってきますよ。
グレ わかっています。
近衛 ・・・・・・・・・・・で、こっち(お金)は具体的に。
スパ じゃあ、売値10パーセントを。
近衛 15パーセント。
スパ 15パーセントを。
近衛 20パーセント。
グレ あ。じゃあ、20パーセントで。
近衛 健闘を祈ります。(握手)  じゃあ、こっちに立って。

近衛、ベビーパウダーを取り出す。

近衛 飛び込む前に、このマジカルパウダーを塗っていただきます。
スパ はい。

近衛、ベビーパウダーをパタパタやる。

グレ これ、ベビーパウダーですよね。
近衛 失礼な。全然違うよ。
スパ いや、ベビーパウダーですよね。
近衛 やめるよ?!
グレ あ、すいません。
スパ ・・・・・・マジカルパウダー、お願いします。

近衛、ベビーパウダーをパタパタやる。

近衛 こんなもんだ。じゃあ、助走の準備。

グレイシー、スパイシー、定位置につく。

近衛 ミュージックスタート。

○オープニング曲がかかる。
□ フェードアウトで暗転する。△スクリーンに記憶の固執が投影される。

スパ まだですか?
近衛 まだ。サビまで、体をほぐして!!

音楽のキリのいいところで。

近衛 はい!!!!!GO!!!!!
グレ え?
スパ え、ここ? こっちでいいんですか?
近衛 GO!!!GO!!!
グレ じゃ、いってきます。

グレイシー、スパイシー、絵の中に飛び込む。

□暗転

■ 右脳ダリと左脳ダリ

舞台上には何も無い状態。舞台奥のパネルは、イメージになっている。
舞台奥に、白くて柔らかい生き物が寝ている。
右脳ダリと左脳ダリが左右から登場する。

右脳 ああああ。うるさいうるさい。
左脳 聞いてくれ、右脳。
右脳 うるさい。左脳。 黙れ!
左脳 また描けなくて悩んでるんだろう。
お前にはもともと絵の才能なんてなかったんだよ。な。
まじめに働いたらどうだ。現実を見るんだよ!!
右脳 君の言っていることは常識の範疇を越えない。
私の心には全く響かないよ。ああ。君はつまらないやつだ!
左脳 何を言っているんだ。今どきこんなことでメシが食っていけると
思うか。 社会に早く貢献するんだ。 ほら、スーツだ。ビジネスカバンだ。
就活しろ!!
右脳 おれの話も聞いてくれ!
左脳 おお。聞こうじゃないか。言いたまえよ。
右脳 この間、パブロさんに絵を見てもらったんだ。
左脳 パブロ。だれだ。
右脳 画家でいるんだよ。今、赤丸急上昇中の。
なんか、俺よりもエキセントリックな絵描いて、世の中席巻してんの!
左脳 それで。
右脳 そんなお方に、「君の絵、もう少しみてみたい」って言われたんだよ。
これ、チャンスだと思わないか?
左脳 思わないね。 深みにはまる前にここで足を洗っておくのが
得策だと思うけど。
右脳 なんでそんなに君は慎重派なんだ。
なんでそんなに俺の感性を否定するんだ!
左脳 君は私の論理を否定するじゃないか。
あとさき考えない君のやり方にはほとほと疑問を感じるよ。
感性だけじゃ生きていけないことぐらい、君もわかってるだろ?
右脳 分かってるよ。頼むから、あと一枚だけ、描かせてもらえないか。
それがダメだったら、俺には絵の才能がなかったんだってあきらめる。
ちゃんと、コレを着て、就活する!約束する!

右脳 頼む!
左脳 ・・・・・・・。分かった。これで本当に最後のチャンスだぞ。
ダメだったら、ここにあるリストの会社を片っ端から受けるからな。

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