ヤギさんPRイラスト

日本で一番すてきな会社を辞めて、ぼくがやりたいこと

株式会社メルカリのPRグループを退職しました。いえ、退職してしまった、といった方が相応しいかもしれません。約1年半の在籍でしたが奇跡的なほど人にも仕事にも恵まれた、すてきな職場でした。

状況を整理するのにすっかり時間を要してしまいました。これを機に、自分の仕事の振り返りと今後やっていきたいことをお話したいと思います。

モテなくて、でも楽しかったエージェンシー時代

紆余曲折あった大学生活を経て、新卒で株式会社オズマピーアールというPRエージェンシーに入社しました。当時としては珍しく狂気じみた“PR愛”を持った新人だったと思います。「新しい概念を世に流布するPRが最もセクシーな仕事だ」と鼻息荒いものの実務が十分にできない自分を、先輩たちには厳しくも優しく指導していただきました。 

かつてのPRエージェンシーの仕事は、クライアントの情報をメディアに提案し、より大きく取り上げてもらうようにするのが主でした。いわゆるパブリシティ業務というものです。しかしエージェンシーというのは、とにかく“モテ”ない。というのも、取材や入稿作業に追われているメディアの皆さんには、情報の売り込みをしてくるエージェンシーは、よほど魅力的なネタでないと相手にしてもらえません。

そんなモテない存在としてメディアの皆さんと少しずつ関係構築するプロセスは骨が折れましたが、困難に向き合ったときこそやりがいを感じる自分にとっては、楽しい時間でした。少しずつPRの基本が掴めてきた実感もあり、メインで担当したプロジェクトでいくつか栄誉ある賞もいただいたりと、充実した日々を送っていました。

メルカリでの日々は「精神と時の部屋」

このように、PRエージェンシーでの仕事は非常に刺激的なものばかり。ただ、PRの概念を探究する上で、事業会社の広報担当としてあらゆるステークホルダーと対峙する「中の人」になりたいという思いが徐々に膨らんできました。そんな折、博報堂ケトル・嶋浩一郎さん主催の勉強会でメルカリのPRメンバーに出会いました。非常にスマートな彼女の人となりに惹かれたこともあり、メルカリのPRトークイベントに参加。

そこで現メルカリ社長・小泉文明さんによるPRについての考えを聴き、感銘を受けました。コーポレートコミュニーケーションとマーケティングコミュニケーションに分け、メディア露出の量ではなく、いかにビジネス貢献したかを重視する本質的なPR観。後にも先にも、小泉さんほどPRへの理解が深いリーダーを、ぼくは知りません。この人のもとでPRの本質に迫りたいと、すぐにメルカリの門を叩き、幸運にも採用していただきました。

ぼくが入社した頃、PRグループは自分を含め3名。ニュースに事欠かず多数のプレスリリースなどに追われる日々でしたが、思い返すと大変ながらも楽しい時間でした。チームで相談しながら手探りで一つずつプランを構築した上で実践・検証していくのは、まさに求めていた「中の人」の仕事。社内の他部署メンバーとのやりとりが多かったことも新鮮で、一つの事業に想像以上に多くの人びとの想いが詰まっていることを実感できたのは忘れられない体験です。

毎日が新しい発見に満ちていて、1週間で1ヶ月分を過ごしたような体感密度の「精神と時の部屋」でした。多数のメディアリレーションズをはじめ、リスク対応などコーポレートコミュニケーションを中心に稀有な経験を積むことができました。

でも、みんながモテるわけじゃない

一方でメルカリでの経験によって、自分の中にぼんやりとした違和感も芽生えてきました。もしPRの成果が多数のメディア露出だとしたら、全ての企業がそれを実現することは不可能ではないか?と。

様々な文脈でメルカリのメディア露出が大幅に増えてきたことで他社の広報担当の方から相談を受けることが多くなりました。それは、どうしたらもっと注目を集められるか?という切実な悩み。多くの広報担当が自信喪失している現実を目の当たりにしました。

メディア露出は、そもそもBtoC/BtoB区分・業種など企業の性質や、提供している商品・サービスの需要の寿命(プロダクトライフサイクル)に大きく左右されてしまいます。この企業・団体間に存在するPRのしやすさの格差—名づけるなら“関係格差”を乗り越えるために、正しい概念としてのPRとそれに伴うスキルを広く普及させたいという思いが深まってきました。

本来、大切なステークホルダーとコミュニケーションをとるPRのあり方は多岐に及びます。採用候補者と直接会うイベントを開催することも、社員コミュニケーションを活性化する制度をつくることも、すべてPRです。

ていねいにステークホルダーの心の奥底にある欲望(インサイト)を見つめて、それを最も刺激するスイッチを押してあげること。知的体力を必要としますが、メディア露出以外にもコミュニケーションを取る方法はきっと見つかるはずです。

ひとりで悩まなくても、大丈夫

思いきってメルカリを退職してから自分がやるべきことをずっと考える日々で、大きく分けると下記の3つに集約されていきました。

(1) 事業会社の「ひとり広報」のパートナー
(2) コミュニケーション企画のプランナー
(3) PRのコミュニティマネージャー

とくに注力したいのは、(1)の事業会社で「ひとり広報」として悩む方々のパートナーです。多くの企業ではたった一人の広報担当があまりに多くの業務を抱えています。中には人事・総務・秘書などと兼務している方も。そんな方々にとって、外部のブレーンというより、一緒に考えながら並走する内部のパートナーとしてサポートしていきたいと考えています。今でも十分にがんばっていらっしゃる多くの「ひとり広報」の皆さんが、正しく自己肯定できるように寄り添いたい。悩んでいる方はお気軽に声をかけてくださいね。たとえお金がなくても、できることを一緒に模索していきましょう。

それに並行して、自分の得意領域である(2)の企画の仕事も、主に広告代理店の外部プランナーとして携わります。PRの考えを応用することでコミュニケーション全体が社会と接続しやすくなるので、企画の初期段階から自分のようなPRパーソンをチームに入れることを強くオススメします。

また、これは自分なりのPRへの恩返しとして(3)のPRをテーマにしたコミュニティも運営したいと考えています。全国の「ひとり広報」の受け皿としてのコミュニティと、初心者にPRの概念を伝えるコミュ二ティ。これについては強力なパートナーをコミュニティマネージャーとして迎えて運営していく予定です。

本業こそが最高の社会貢献だから

コミュニケーションデザインの師匠である佐藤尚之(さとなお)さんは「本業こそが最高の社会貢献」と語っています。あらゆる企業・団体が提供するプロダクト・サービス自体は本来、世の中をもっと良くするために存在しているはず。でも、それがコミュニケーションの問題で社会と接続できていないとしたら…これは企業・団体にとっても社会にとっても、大変不幸なことです。ステークホルダーとのコミュニケーションにより関係構築するPRで、間接的に企業・団体の本業による社会貢献をサポートできると信じています。そのために、持てるスキル・ノウハウを惜しむことなく注いでいくのが自分のミッションです。

ちなみに、冒頭のイラストは企画メシ同期のヤギワタルさんにぼくが考える「PR」の概念を描いてもらったものです。企業・団体が自ら握手をするようにステークホルダーと関係構築し、仲間を増やしていけるように。自分も少しずつ動き出していきます。

皆さま、これからどうぞよろしくお願いします。
今後もTwitterを中心に発信してまいりますので、ぜひご覧ください。
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Twitter:@ktpr_PR

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