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銀行の個人営業(リテール)を辞めた話③

関西の地方都市に新卒配属され、一年が経過しようとしていた。

私のように銀行の支店に配属され、金融商品販売に従事する同期は全部で23人いた。
1年目は研修をこなし、支店に戻っても人事部と営業の人材開発部が作成した、カリキュラムや目標を月次で達成していく。

研修は、手厚かった。
2ヶ月の全体研修。
その後、それぞれの部門に分かれ、1週間の社内システムの動作・マニュアル・使用研修、3週間のコールセンター研修、そして、1週間の顧客勧奨架電研修だをこなした。
今思えば、全て「競争」に晒され、「数字」や「生産性」などの下地の地盤を固めるための作業だった。

当然、全てに給与が支給され、住む場所(マンスリーマンションやホテルなど)も都心の不自由無い場所が確保された。

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顧客勧奨架電研修

その中で、私が最も精神的に病み、最も大きな成果を得たのが『顧客勧奨架電研修』だ。

この研修が、「全体研修」と呼ばれる最後の研修であり、私は、それまでの研修で主だった成績を残せておらず(証券外務員テストの点数や、コールセンター業務評点最下位など)、

「このまま銀行員としてやっていけるのか。」

と、焦りや、周囲との比較により精神的に参っていた。

そんな中、九州の一大都市で1週間缶詰で、この『顧客勧奨架電研修』が行われた。
(この場所は銀行のコールセンター部署があった)

私は、事前にテレアポ関連の書籍を3冊ほどアマゾンで検索して、上からの順で購入し、メゾットやナレッジなどをひとまず把握した。そして、抽出して自分でもやり切れることをまとめて実践することにした。

この行動は、今では自然にできているが当時の私は、一念発起だった。
まさに逆境に立たされた結果、行動した。
高校・大学時代から何か新しいことにチャレンジする時にはいつも「読書」から初めていたことを思い出した。

この研修は簡単に言うと、
銀行に預金をされている「お客様」へいきなり電話をして、「運用相談」を行うために支店へ来店を誘う(アポ取り)というもの。
研修から持ち場に戻る期間以降のアポイントをより多く取得できるか、と言うものをいわば「競」っていた。

架電リストは持ち場の支店に帰属するお客様で500-1,000万円を預金に滞留する方を対象としていた。リストの総数は500件ほど。

皆、必死に架けて架けて架けまくる。
聞こえてくる声は、

「作用でございますか、お忙しいところ失礼します。よろしくお願いします」

当然、アポ取得のスキルが急向上するはずも無く、皆1日目はほとんど「失礼しますマシーン」と化し、終了。

当の私はと言うと、アポ0件。
しかも、架電件数も最下位。
その日のフィードバックでは、架電件数最下位の理由について詰められることになる。

2日目、3日目と研修に臨む同期たちは重苦しい社内で、声だけは明るく電話をする最中に、私は、2日目4件、3日目10件のアポを取得した。
4日目7件、5日目6件の合計27件の取得。6日目が研修最終日であったが、風邪気味で喉が潰れたこと、目標達成していること、周りにナレッジを共有する仕事を仰せつかったことで、架電はしなかった。

アポ件数は同期23人中1位となり、精神的な負荷や失いかけた自信が一気に回復した。

流されることを嫌い、自分の頭で考える「理系的な脳」があり、同期の「そつ無くスイスイ効率的にこなしていくスキル」についていけないで悩んでいたが、この成果以降、前者のやり方でも十分についていける、営業スキルは向上する、とポジティブに考えることができた。

私は、研修1日目に架電件数をセーブし、「リスト整理」に時間を費やした。

「リスト整理」は、主にセグメント分けと顧客記録から会話の引き出しをメモして行った。
男女、年齢、職業のセグメントはもちろん、過去に電話が繋がっている時間帯、曜日などを細かく真っ白なリストに記載していった。
何度架けても、会話している経歴が無いお客様はこの際、架けるべきリストから排除することも行った、ムダ撃ちはしたく無かった。(あるあるだし、死んでもやりたくないが、仕事をしているふりをするならムダ撃ちリストは必要だ)

また、数冊のテレアポ本を読んでいた私は、お客様のネガティブワードに対する反論処理を準備していた。有効質問に近いが、これをしておくと良いお客様か来店しても、商品を検討するお客様か理解できる。無駄アポを減らせる。

また、アポイントも「リレーション力」が必要ということもテレアポ本から学んでいた。
1日目の架電の際も、「もう一度ご連絡したいがいつが良いか、今日夕方はどうか」など「電話のアポ取り」をしていた。
人は、初めて話す人よりも2度目の方が心理的なハードルが下がることを実践した。

その結果、2日目以降、電話アポの架電、セグメント分けした時間帯による架電、ネガティブワードの打ち返しなどを実践し、アポ件数を多く獲得した。
最終的に、架電件数は最下位となった。

この時の経験は、後に銀行を辞めたくなる理由に繋がるが、この「効率性」のようなものは営業活動において必ず必要になるスキルだが、銀行のできないマネージャーや上司は、苦境に入ると「架電件数」を重視したがる習性がある。
たくさん活動することを美徳とし、そのプロセスや質に関心が無い方は比較的多い。

また、周りの向上心が無い同期や同僚、想像力が無く自分のスキルに置き換えられない方は、その成果を「個人の素質」と簡単に捉えて学ぼうとしない。
「人当たり良さそう」「押しが強そう」「トークうまそう」と簡単に片付け、その本質を学ぼうとしない。
銀行員には多い。

結果として、私が銀行を辞めるまでの間、何度もこのような「生産性とは何か」「お客様にとって必要な行動は何か」「銀行員に求められていることは何か」に悩み、結果、上司や同僚と何度かぶつかっていくことになるのは、また別のお話だ。

しかし、新人時代のこうした研修での成果は非常にスカッと気持ちよく、営業という仕事のストレスが一瞬で無くなることも知ってしまった。
(達成した後の酒を飲み交わすことも含めて)

この仕事を頑張って続けていこう、もっと成果を上げよう、とまたまた思ってしまった。。
また辞めれなかった。。

写真:山甚道場(ひたちなか市勝田)の「脱皮ガニ唐揚」

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