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劇団イエローヘルメッツ『ヴェニスの商人』観劇記(2022年8月 東神奈川・かなっくホール)

神奈川大学外国語学部英語英文学科です。シェイクスピアが専門の郷ゼミナールのゼミ生による「劇団イエローヘルメッツ『ヴェニスの商人』観劇記(22年8月東神奈川・かなっくホール)」が、神奈川大学人文学会学生部会の「PLUSi」No.19(2023.3.25)に掲載されました。


私達のゼミナールでは外国語学部英語英文学科教授の郷健治先生指導のもと、シェイクスピア劇(今年度は『ロミオとジュリエット』)について学んでいる。実際にイギリスの高校と大学で使用されている英文テキストと日本語訳のテキストの両方を使用し、一年かけて一つの作品を研究していく。毎週予習として指定された範囲の劇のテキストを読み、五つの事柄「①疑問点 ②日本との文化の違い ③劇中使用されているユーモア・アイロニー ④好きなセリフ ⑤面白いと思った点」について自分なりに考え、意見交換し、考察を深めていく。「誰でも気づくような平凡で当たり前のことではなく、独創的で個性的な発想や発見すること」が求められるため、正直大変で悩まされることも多い。しかし、その分物事を注意深く観察し、考え、自分の言葉で表現する力が鍛えられていると実感している。

郷ゼミでは他にも食事会や美術館訪問、ゼミ合宿、観劇などの授業外活動も充実しており、普段の授業以外でゼミの仲間と交流したり、専門以外のことを学ぶ場があるというのも魅力の一つである。シェイクスピア劇を学ぶ私達にとって観劇は非常に刺激的な体験であった。今年は八月に劇団イエローヘルメッツの『ヴェニスの商人』、十一月には明治大学シェイクスピアプロジェクトの『夏の夜の夢』と国立劇場の歌舞伎『仮名手本忠臣蔵』を鑑賞した。

私の中で特に印象に残っているのは八月の『ヴェニスの商人』の観劇だ。

「かなっくホール」は東神奈川駅に隣接する神奈川区民文化センターです。
「かなっくホール」の素晴らしいホールとステージ
2022年8月20日に『ヴェニスの商人』を観劇!

普段はロンドン・グローブ座での公演のDVD映像しか観ていなかった私にとって、イエローヘルメッツの生の舞台演出は一種の固定概念を打ち壊すものであった。オリジナル版の劇であれば、出演者は台本に書かれている人のみで、かつナレーションを除き、役者は指定されたセリフしか読まないはずだ。しかし、イエローヘルメッツ版では台本に記載されている人以外に複数の黒子が登場し、彼らがセリフの一部を読んでいたのだ。最初は違和感があったが、物語が進むにつれ、この黒子には観客を飽きさせない効果があるということに気づいた。シェイクスピアの劇では、ある人物が何かに悩んでいたり、夢中になっていたりするとセリフが長くなる傾向がある。しかし、私はそのような場面は長すぎて飽きてしまったり、集中力が途切れてセリフが頭に入ってこなかったことが何度かあった。だが、黒子がいることにより、観客側の意識が常に移動し、飽きさせないような工夫がされていると思った。また、シェイクスピア劇の特徴の一つとしてユーモアやアイロニーがある。これはイギリスの国民に非常に好まれ、シェイクスピアの作品に限らずイギリスでは日常的に使用される。しかし、彼らはそれらの言葉やセリフが持つ意味や効果をすぐに理解できるが、そのような文化を持っていない日本人の私達には理解しがたい点が多々ある。それを回避するために日本的な笑い(視覚的)が所々用いられていたのは演出面としてよく工夫されているなと感じた。

郷ゼミ4年生10名+3年生14名が『ヴェニスの商人』を観劇

そして嬉しいことに、八月の観劇の二ヶ月後に、イエローヘルメッツ代表であり、(シャイロックの娘)ジェシカ役の鷹野梨惠子さんによる人文学会主催の講演会+ワークショップ(「演劇界目線で語るシェイクスピア+みんなで語るシェイクスピア」)が神大で開催された。講演会では演劇界目線から見たシェイクスピア作品の魅力や解釈、日々の稽古の様子や演じる上での苦労、またイエローヘルメッツ以外の他の劇団の紹介などが行われた。そして後半のワークショップでは、私達が授業で使用している『ロミオとジュリエット』の訳本を実際に声に出して演じた。

この講演会で、私は鷹野さんの役者としての実力や努力を肌で感じ、凄い以外の言葉が見つからなかった。大きなメガホンがこちらに向けられているような、思わず後ろに反り返ってしまうような太く、力強く、はっきりとした声。しかし、そのダイナミックさの中に登場人物の心情の移り変わりやバックグラウンドが見えてくるようであった。さらにキャラクターやストーリーに関する理解も私たち以上で、一年かけて研究していても、まだまだ足りない部分があるなと痛感させられた。講演とワークショップ全体を終えて、作品を声に出して読むことの重要さに気づかされた。はっきり言って、文字のみの情報からシェイクスピアがどのような意図を持っていたのかなどを汲み取ることは難しいと思う。なぜなら、元々芝居でやるはずのテキストを“読む”だけ理解しようとするのには限界があるからだ。しかし、実際に声に出して台本を読むことで、さらに深い考察や新しい視点を得ることが出来るのではないかと今回のワークショップ体験を通じて感じた。

記:山口結夢


元記事はこちら!
「劇団イエローヘルメッツ『ヴェニスの商人』観劇記(22年8月 東神奈川・かなっくホール)」
http://human.kanagawa-u.ac.jp/gakkai/student/pdf/i19/1912.pdf

神奈川大学人文学会学生部会の活動についてはこちら!

郷ゼミナールの紹介はこちら!
「シェイクスピア劇と異文化理解研究」

郷健治教授をもっと知りたい方はこちら!


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