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「暴力を受けていい人はひとりもいない」認定NPO法人 エンパワメントかながわ 理事長 阿部真紀さん

暴力のない社会をめざし、すべての子どもとおとなへの人権啓発活動を推進されている阿部真紀さんにお話を伺いました。

プロフィール:
1961年生まれ。鎌倉市に育つ。上智大学文学部卒業、臨床心理学専攻。
夫の転勤に伴い、1989年から香港と米国カリフォルニア州で2児を育てる。
帰国後、1999年よりCAPスペシャリスト。2004年エンパワメントかながわを設立。デートDV予防プログラムの開発と普及に携わり、2011年にはデートDVに特化した電話相談「デートDV110番」を開設した。デートDVを予防することでDVや虐待の連鎖を断ち切ることを目指し、全国の団体や機関がつながることを呼びかけ、デートDV防止全国ネットワークを設立。

人と人とが対等でお互いの違いを認め合える社会を作っていく為に必要なことは、「あなたが大切な人だよ」と伝えること

Q:どのような夢、ビジョンを持って活動されていますか。

阿部真紀さん(以下、阿部 敬称略):「エンパワメントかながわ」は、「暴力をなくしていく」その志を持って立ち上げたNPO団体です。

人と人とが対等でお互いの違いを認め合える社会を作っていきたいそう思っています。デートDVと言う言葉も一つの切り口だと思っていて、10代に人権を伝えていくための一番身近なテーマとしてデートDVだと思っているし、デートDVの予防啓発や相談を受けているのは実は、虐待や、望まない妊娠や、性暴力、LGBTなどにも繋がるキーワードになると思っています。日本の中ではなかなか理解されていないんですが、私は、権利教育、人権の理解を日本の中に広めたいと思っているんです。

人と人とが対等でお互いの違いを認め合うことができる社会を作っていくためには「あなたが大切な人だよ」と伝えることが大事だと思っています。CAPと言うプログラムを長年やっている中で、子どもたちの変化を見ていて確信しました。

記者:そうなんですね。すごく本質的で大事な事を言われていると思います。

あべさん本

人権、ヒューマンライツの大切さをもっと多くの人に理解してほしい。

Q:その夢やビジョンを実現するために、どんな目標や計画を立てていますか?

阿部:それが難しいんですが(笑)。人権、ヒューマンライツの大切さというのが日本の中で理解されることかな。もっともっと多くの人に理解して欲しいなって思っていて。実際には活動回数は減ってきていて、うちの団体がやっているプログラムの回数は10年前から見ると、約1/4に減っているんです。

記者:そうなんですか。

阿部:そうなんです。減っている理由は、本来、行政から支援を貰って広げていきたいけれどそうはならない現実です。CAPは予防教育とも言われていますが、効果測定ができないんです。病気の治療だったら、どうやって治っていったかエビデンスが取りやすいけれど、横浜市の子どもたちのいじめがどれだけ減ったかとか、その人が人生の中でどれだけ変わったかなどは、なかなか示すのが難しい。だから、私の今1番の目標は、実はこの事業を次世代に引き継ぐことです。どうやったらこの活動をサスティナブル(持続可能)にできるか。そのために「これだ!」と誰にでも一目瞭然でわかるようにしたいんです。

社会を変えるというひとつの目標に対して、色々な違いを超えて、力を出し合っていけるようにしていくこと

Q:その目標や計画に対して、どのような活動指針を持って、どのような基本活動をしていますか?

CAPの三つの理念が、人権、エンパワメント、コミュニティなんですが、この目標を掲げた時に、一人でできないことばかりなので、私は人に助けてもらうとか、力を借りる事にすごく注力をしています。
社会を変えるというひとつの目標に対して、色々な違いを超えて、力を出し合っていけるようにしていくこと。だから、誰に対してでも、信念をお伝えして、力を貸してくださいという事を伝えていく。
エンパワメントかながわを持続させていくために、既に様々な団体を立ち上げて活動されている有名な方や、学生の力も借りたいと思っています。

それもそんな簡単な事じゃなくて。みんなそれぞれやってきてることもバラバラで、主義主張もともすればぶつかりあってしまう中で、でも同じ目標に向かって協調しながら一つに纏めて行こうとしています。

記者:意見の異なる薩摩藩と長州藩を日本の未来のために一つに纏めた明治維新の坂本龍馬みたいですね。

「暴力はだめだよ」ではなく「あなたは大切だよ」と伝える

Q:その夢やビジョンを持ったきっかけは何ですか?そこにはどのような発見がありましたか?

阿部:出会ってきた子どもたちに教えてもらいました。子どもが変わるなら大人も世界も変わると確信が来たのが大きいです。

これまで、CAPという小学校のクラス単位のプログラムを約3000回以上実施してきて、10万人以上の子どもたちと出会ったのですが、プログラムではたった60分間「あなたは安心して、自信を持って、自由に生きていく権利があるとても重要な人だよ」ということを伝えるんです。「いじめちゃだめ」ではなく、「あれもできるね、これもできるね、すごいね!」と認める。そうすると、終わってから私の所に飛んでくる子どもたちが何人もいて、「友達をいじめてるんだけどやめたいの。どうすればいい?」って聞かれることが何度もあったんです。

加害に気づいてやめることって暴力防止の一番大事なこと。そのために「あなたは大切な人だよ。暴力を受けていい人は一人もいない。」ということを一生懸命伝えると、子どもって「あ、自分って大切なんだ。嫌なことには嫌って言っていいんだ。」って気づくんです。そうすると、隣にいる人を大切にしたくなって、自分がやっていたことはいじめかもしれないって。それが子どもたちが教えてくれたことです。

だから、「暴力はだめだよ」ではなく「あなたは大切だよ」って伝えることで暴力がなくせる。デートDVの中でもデートDVがダメだって伝えるんじゃなくて、自分が自分を大切にしていいんだよ。自分が大切に思えたら誰かも大切に思えるでしょ。恋人同士でもお互いに大切にする関係が対等な関係だし、どんなに好きでも上と下はないんだよと言うことを伝えて行きたいんです。

記者:本当に教育の大切さを痛感しました。自分と他人はイコールだっていうことが、子どもだったらすぐわかっちゃうんですね。

阿部さん素敵

個人の問題は社会の問題(personal is political)

Q:その発見や出会いの背景には何があったのですか? 

阿部:結婚を機に退職して子どもを生んで、夫の転勤で香港、アメリカに住んだのですが、その間ずっと専業主婦で正直、自分というものが全く見えず、居場所を探して悶々としていたんです。
そして日本に帰ってきた時に、子ども向けの暴力防止のプログラムがあるのを聞いて、受けてたのがきっかけです。実際にやっていくうちに子どもたちの変化に出会ったし、NPOも「やれば変わる!」と社会に影響力を与えていると言う手応えは感じています。

記者:阿部さんのお話を伺っていると、すごく精力的に活動されていると感じますが、そのエネルギーはどこから来るんですか?

阿部:よく「なんでそんなにNPOの活動にのめり込めるの?」と言われることはあります。フェミニズム運動のスローガンで、「個人の問題は社会の問題(personal is political)」と言う言葉があるんですが、その言葉との出会いも大きかったかもしれません。自分の中でもやもやしていたことが、自分のせいとか、夫のせいとか、個人的な事でしかないのかなって思っていましたが、社会の問題だというところに非常に納得ができたんです。だとしたら、社会全体から変えていくのがいいなって思って

今起きている様々な事件の犯人にも、「あなたは大切な人なんだ」「あなたも誰かに助けてもらっていいんだ」と誰かに言ってもらえたら、その事件は起こらなかったかもしれない。だとすると、様々な事件も社会システムの問題だから、変えていけたらいいなと思っているんです。

「暴力を受けていい人はひとりもいない」事がわかっていたら、被害を受けた人が「助けて」と声を上げられる

Q:最後に読者の方にメッセージをお願いします。

阿部:日本の中には、暴力を受けた人が責められる風潮があるんです。痴漢やレイプ、いじめ等、被害を受けた側にも落ち度があると。
「暴力を受けていい人はひとりもいない」事がわかっていたら、被害を受けた人が「助けて」と声を上げることができるんです。だから、被害を受けた人は決して悪くないことが共有できたら美しい時代になるかな。

記者:今の日本は自分を大切にしている人が少ないから、そうなってしまうのかなと、全体を通して感じました。阿部さん、本日は本当に貴重なお話をありがとうございました。

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エンパワメントかながわの詳細情報はこちら↓↓↓
◆エンパワメントかながわのホームページ

阿部さん全員

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編集後記

今回インタビューの記者を担当した平野、若林、口野です。
阿部さんのお話を伺って、記者一同、日本の現状に愕然とする場面もあり、権利教育も含めた教育の変化の必要性を痛感しました。共に美しい時代を作っていきたいです。
阿部さん、本当にありがとうございました。

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この記事は、リライズ・ニュースマガジン”美しい時代を創る人達”にも掲載されています。


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