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通訳コンテストにかける情熱を3000字で書いてみた

11月26日。大学で通訳を教えている方々にとっての一大イベントである、学生通訳コンテストが開催されました。そこで母校の神戸外大も出場し、見事優勝を勝ち取ることができました!

僕は通訳勉強会というサークルを2019年に立ち上げて、大学院を修了した後は顧問として、神戸外大の学生の通訳指導をしています。コンテスト準備からどのようなことを思って当日を迎えたのか、その辺りをここに書いていけたらと思います。

全国学生通訳コンテストの概要については、こちらの動画をご参照ください。

出場学生は毎年、一つの大きなテーマに沿って話される日英語の話を逐次通訳します。テーマの下に約10のトピックがあり、それぞれに日本語・英語のキーワードが主催側から共有されます。学生はキーワードを調べていく中で、トピックに関する知識をつけ、通訳練習をします。

学生はどのトピックに当たるかは、当日のくじ引きまで分かりません。なので単語調べは満遍なくやっていないと、通訳がボロボロになってしまうことがあります。その単語量は数百個と膨大です!

ですが主催側のテーマとトピックの選択、そして発話スクリプトは知的刺激に富んでおり、プロが訳そうとしても周到な準備なしには簡単にはいきません。そして何よりも大事なのは、通訳準備をすること自体が非常に深い教養教育になっているということです。これは当日、同時通訳デモンストレーションをされた神田外語大学の柴原智幸先生もよく仰ることで、全くその通りだなと思います。

このことは以下のYouTubeの過去大会の動画で先生のお言葉を直接聞くことができます(48: 53-)。こちらも是非ご覧ください。またそれ以前のパートではコンテストで入賞した学生のパフォーマンスがダイジェストで収録されています。どれだけ緊張しているかが伝わってきますよね。

私が教えている大学でも学生を推薦し、出場してもらいました。残念ながら受賞は逃してしまいましたが、私は本当に最後まで諦めず頑張ってくれたと思っています。出場後、非常に嬉しいメッセージをくれました(要約しています)。

「結果は残念でしたが、通訳コンテストが純粋に楽しかったし、良い経験になりました!通訳コンテストに出ると決めてから、いろんな方と練習して刺激を受けたり、そういう過程ひとつひとつがすごく楽しかったです!大学生活、辛いことの方が多かったんですけど、通訳の授業受け始めてから、すごく充実してるなと思ってました。コンテスト後に先生からいただいたメッセージで、自分がコンテストに向けてやってきたことが報われたなって、感じました!これからも通訳の勉強、頑張ります。」

通訳コンテストではたくさんの言葉を調べないといけないし、通訳の練習はしんどいわで、出場すること自体が本当に苦しい体験なのです。その苦しさがキーワードが出てから本番まで約2ヶ月、続くのです。そしてコンテストでは人前でパフォーマンスしなければいけないので、緊張感も半端ではありません。その重圧に押し潰されずに、当日まで頑張ってくれた教え子には感謝しかありません。

こうして一つの目標に向かって勉強していく姿は、とても美しく、僕は通訳コンテストの季節になると、学生よりも燃えています高校球児は白球を追いかけますが、大学生は言葉を追いかけます。常々学生に言っていますが、通訳コンテストは通訳甲子園だと思います。通訳甲子園に出場することは、語学系(特に通訳に関心のある)学生にとって青春そのものではないでしょうか。

今回の指導で、母校の後輩も勤務校の教え子も、通訳について大事なことに色々気づくことができました。そのうち3つを備忘録も含めて、ご紹介します。

1) 通訳はコミュニケーションだ。
当たり前のように聞こえる一文ですが、実はこれがなかなかできません。出場学生の中にはキーワードを訳すことに拘泥しすぎて、通訳を聞いている人がスクリーンの向こうにいるということを忘れてしまいます。通訳は聞かせるもので、伝えるもので、伝わらないといけない。それはつまり、通訳メモをずっと見ながら訳すのではなく、スクリーンの先にいる聞き手をしっかりと見て、堂々と訳すという姿勢が非常に重要です。

この為には、単語や内容についてはほぼ暗記・理解していなければ顔を上げられません。通訳がただ単に、機械翻訳のように言葉を右から左に流すだけではないことを教えてくれます。

2) 結果と同様、過程が大事。
コンテストという以上、どの大学が入賞したのかというところに気が行きがちですし、実際入賞を目指して通訳指導をするわけですが、そのコンテスト当日に向かうまでの日々をどのように過ごすかも、教員としてはしっかりと考えたいと私は考えています。大学受験後の燃え尽き症候群のようなコンテストは残念なものです。

顧客体験(CX)と言いますが、学生体験(SX?)も大切にしたいところです。教え子のメッセージに表れているように、結果よりも通訳と真剣に向き合って、先生や仲間と切磋琢磨して一つのものを作り上げていく。その体験をより有意義なものにするのは、教員の腕の見せ所ではないでしょうか。後で振り返ってみて「あの頃一生懸命やっていた経験が今の自分に活かされている」と思ってもらえるような経験を積んでほしいですし、そのような成長の機会として、僕は通訳コンテストを捉えたいです。

3) 一人じゃない。
通訳コンテストは一人で全て準備も練習もすると、パンクしてしまいます。調べる単語の数も膨大だし、本番はどれが出るか分からない。他校の学生はどんなレベルなのかも分からない。当日は自分だけにスポットライトが当たり、通訳できなければ気まずい静寂が流れる・・・。想像するだけでも恐ろしいものです。

そういう時に通訳勉強会では、メンバーの力を大いに活用しています。出場しないメンバーも一緒にトピックの単語について調べ、「こんな話になるだろう」とスピーチを作り、録音し、出場学生はそれを使って通訳練習する。最近はYouTubeで限定公開することで、スマホがあればいつでも音源を聴けて練習できます。ITとメンバーのサポートをフル活用して、出場学生を訓練していきます。

これらを全て自分でやろうとすると、まず時間が足りませんし、やる気も維持できないのではないでしょうか。今回のコンテストを通じて、改めて通訳勉強会を設立して良かったなと思います。歴代の出場者がOBOGでいるし、アドバイスを求めればすぐ返ってくる。このようなコミュニティとしての通訳勉強会の力は、大学で築き上げた財産だと思います。

ちなみに通訳勉強会はこんなコミュニティです、ちょっとだけ宣伝を・・・。このページには活動目標を3つ書いていて、そのうちの一つが「学生通訳コンテストで優勝する!」と豪語しているのを思い出しました。それを今回達成することができて、本当に嬉しく思います。

こういうコミュニティの力があるので、逆に言うと入賞はチームみんなで勝ち取ったものだと思います。ミーティングに参加できない学生もいながらも、それぞれに本当に忙しい毎日の中で、ちょっとづつできる限りのサポートをしています。それが出場学生に力を与えていると思うし、そのように見返りを求めない協力関係は純粋に美しい。出場学生にはメンバーの支援を是非とも忘れないで欲しいし、感謝できる人間に育ってほしい。これからも通訳勉強会で神戸外大での連覇、そして勤務校での初受賞を目指して通訳指導をしていきたいと思います。



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