見出し画像

涙ぐましい母の努力と追い討ちをかける現代社会。

若い頃、ブンブン駆け回るやんちゃな男たちの集団に惹かれ、その中の一人と結ばれてから、随分と経った。

男はもういない。子種を残してすぐにどこかへ行ってしまった。

お腹の中の子を思うと、今までとは比べ物にならない稼ぎがいる。しかし、それは簡単なことではない。

彼女は決死の覚悟でとある家屋に侵入することにした。

大げさな導入部分で始めましたが、主人公はです。これ以上叙述トリックを使う腕はないので諦めました。蚊はメスだけが血を吸います。ちなみに蚊のオスはたくさん集まって蚊柱というものを作りメスを呼び寄せるらしい。

彼女が挑む侵入とは、こうだ。

密閉性の高い現代家屋。それは何重にも張り巡らされた防御網。大要塞である。これを突破し、人のいる奥深くに侵入しなくてはならない。

何とか侵入できても、蚊取り線香やら何やらの罠が待つ。人の言う夏の風物詩は、子を守る母の命を奪う強烈な毒ガスである。

なんとか呑気に寝ている住人に接近し、その巨大な体内から血液を吸い出す。見つかったら一撃で殺されるだろう。せいぜい時速2キロ程度で飛ぶのが限界だからだ。おまけに吸血だけでも、最速で2~3分はかかる。

もちろん、それで終わりではない。そこからさらに防御網をかいくぐって脱出。子を産むにふさわしい汚い水が溜まっている場所(普通は屋外)に辿り着かねばならない…。

我が子のために命を張る母は

蚊はメスもオスも、普段は花の蜜や植物の汁を吸って暮らしています。

ところが、産卵の時期のメスだけは違う。

卵の栄養分として、大量のタンパク質を必要とするんですね。植物の汁だけでは全然足りなくて、動物の血がどうしても必要になります。

そんなわけで、蚊は、妊婦の体をもって冒頭のようなハリウッド映画顔負けのスパイ作戦を敢行せねばならないのです。

それを私たちは、涼しい顔して(いや、「今日も暑ぃなあ。蚊が多いよ」なんて言いながらかもしれませんが)パチンと殺ってしまうのですね。

と言ったって、蚊を殺さねば人間が殺られますからね。蚊が殺している人間の数は毎年うん十万人いて、これでも近年かなり減ってきた方なんだそうです。

キンチョールのHPにあった、蚊と人間の格闘の歴史が面白かったので紹介)

いやあ、しかし。

母子家庭で育った僕としてはなかなか複雑な気持ちです。

仕方ないなら考えなくてもいい?

蚊の立場に立ってみればかわいそうって言ったって、ねえ。

蚊に感情はないわけで。殺さないと人類が殺されるわけで。仕方ないじゃありませんか。第一に蚊ってぜんぜんかわいくないし。

さ、くよくよしても仕方ないことは考えない!

もっと効率的に仕事を進めることを考えよう。明日のスケジュールを立てよう。ゴール設定しよう・・・。

とまあ、蚊のことでいちいちそんな議論になることはありませんけど。

いろんなところで、こんな思考の転換をアドバイスされることって多いですよね。僕自身、家族のことや彼女のことでくよくよしている時に言われました。家族の人生は家族の人生、彼女の人生は彼女の人生なんだから、と。

もちろんその通りで。

でもね、やっぱりちょっと引っかかるんですよね。

星の王子様で有名なサン=テグジュペリはこんな言葉を残しています。

人間とは、自分と関係のない不幸な出来事に、くよくよすることだ。 『人間の土地』より

私は私?そうなの?

家族の人生は家族の人生、彼女の人生は彼女の人生なんだから。

さっき、ちらっと出てきた言葉ですが、ここから考えます。

これって、ちょっと前にはやったアドラー心理学の「課題の分離」ですよね。

その選択によってもたらされる結末を最終的に引き受けるのは誰か。そいつが課題の責任者で、他者が土足で踏み入るべきではないと(※だから放任で構わないとは言ってない)。

これをちょっと疑ってみましょう。メスの蚊に思いを馳せて(笑)。

課題の分離の前提には、「私は私」「私の人生は私のもの」って考えがあると思います。

でも、ほんとにそうですか?

僕は、以下のような疑問が次々頭の中に浮かんできて、どうしてもモヤモヤしてしまいます。

7年たったら「私」を構成する分子は全部入れ替わってるけど、(脳も全部入れ替わっているけど)10年前・10年後の自分も私か?

もし体の下半分を切ったら、頭のある方と腰から下のどちらが私?

体と脳を切り分けて両方生きていたら、どちらが私?

私の人生は私のもの。なら、私の人生は私が自由に終わらせていいってことになる?それで大切な人が自殺したりして、割り切れるか?

周りの環境も含め、他者がいて始めて「私」が意識されるはず。どこからが私?


くよくよくらいしようよ

考え出すときりがありませんので、「私とは」って話は置いときます。暇なときにくよくよ考えましょう(笑)。

頭の中のごちゃごちゃをそのまま並べ立ててきましたけど、結局僕が言いたいのは、「くよくよくらいしませんか?」ってことです。

どうしようもないなら忘れよう。もっと生産的なことを考えよう。

みたいなのって、すごく主観的で申し訳ないんですけど、なんかゾッとするですよね。何か大事なものが決定的に欠けてしまっているような。

なんでそんな機械的なというかサイコパスっぽいというか、味気ないやり方にみんなを進ませようとするんだろうって思っちゃうんです。なんでだろ。

くよくよしないと切り捨てた側への配慮がなくなるからかな。

蚊を殺す時に何も思わない人より、ごめんねってちょっと思う人の方がなんとなく社会に必要だと感じるというか…。

まあ、日本は遺伝的にくよくよしやすい人が多い、くよくよ先進国だそうですから、適度にくよくよしていきましょうよ。


最後に

蚊の話から始まり、シングルマザーの話に流れるかと思いきや、くよくよしようよって呼びかける内容になりました。我ながらいい加減ですね。

でも、本音として、今くよくよしている方がいたらですね、くよくよすること自体を責めなくてもいいと心から思います。

人間とは、自分と関係のない不幸な出来事に、くよくよすることだ。

って言葉を思い出してみてください。

くよくよ上等です。

予定通りに行かなくても、そんなに誰かの役に立てなくても、稼ぎにつながらないことばっかしてるなって思っても、いいじゃないですか。なんとか生きていられるなら。

”より効率的に、より再現性のあるやり方で、より計画通りに”、なんて人間がいくらがんばっても、行き着く先はできそこないの機械でしかありませんよ。寂しくないですか。

焦らなくても、自然から見れば僕らなんて 蚊の食う程にも思わぬ存在ですよ。

使わなかった蚊についてのトリビア

蚊をテーマに書こうとして随分とネットサーフィンをしました。

使わなかった蚊のトリビアを紹介しておきます。

・最初の蚊取り線香は1890年。まだ棒状で持続時間は数十分だった。

・蚊は3500種類もいる。日本には100種類くらい。中でも血を吸うのは30種程度。

・20℃から30℃で活発らしい。沖縄では年中刺される。

・沖縄では蚊のことをガジャンと言います。

・体温の高い人、活発な人、やや汗かきな人が刺されやすい

・汗をかきすぎる人は汗で体温が下がるのであまり刺されない

・僕はあんまり蚊に刺されない上にさ刺されてもあんまりかゆいと感じない体質。


サポートいただいたお金は、僕自身を作家に育てるため(書籍の購入・新しいことを体験する事など)に使わせていただきます。より良い作品を生み出すことでお返しして参ります。