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自分の頭で考える

そこへ、律法学者たちやファリサイ派の人々が、姦通の現場で捕らえられた女を連れて来て、真ん中に立たせ、イエスに言った。「先生、この女は姦通をしているときに捕まりました。こういう女は石で打ち殺せと、モーセは律法の中で命じています。ところで、あなたはどうお考えになりますか。」イエスを試して、訴える口実を得るために、こう言ったのである。イエスはかがみ込み、指で地面に何か書き始められた。しかし、彼らがしつこく問い続けるので、イエスは身を起こして言われた。「あなたたちの中で罪を犯したことのない者が、まず、この女に石を投げなさい。」そしてまた、身をかがめて地面に書き続けられた。これを聞いた者は、年長者から始まって、一人また一人と、立ち去ってしまい、イエスひとりと、真ん中にいた女が残った。新約聖書 ヨハネによる福音書 8章3-9節 (新共同訳)

こんにちは、くどちんです。キリスト教主義学校で聖書科教員をしている、牧師です。

私は昔から「真面目」と言われるタイプです。学生の頃はそのことが褒め言葉とは捉えられず、何だか揶揄されているようで苦々しく感じてしまうこともあったけれど、今は「まあ相対的にはそうなんかもなー」と思う程度になりました。「真面目」と言われるからって100%真面目な人もいないし、「真面目でない」と思っている人だってどこかしら「これは譲れん」という部分を持っていたりするだろうし、人間って複雑なもんだよな、と思えたからかもしれません。

ともあれ、割と「真面目」で通っている私は、いわゆるルールとか規範とかを忠実に守るタイプでした。それは「正しい」し、疑う余地の無いことだと思っていたんですね。

ところがある時、「全く車が通ってもいない道で馬鹿正直に赤信号を守るなんて、自分の頭で考えてないやつのやることだ」という文章を読んだんです。
「がびーーーん」となりました。(古臭過ぎる衝撃の受け方)
もう、どこで誰が書いたものを読んだのかさえ思い出せないのですが、その時の衝撃だけはしっかり覚えています。

どちらが正しいかという話であれば、そりゃ圧倒的に「信号を守る」方が正しいに決まっています。でも、「何のために信号があるのか」という本質的な理由を考えれば、先の文章の言いたいことが分からないわけではない。つまりここで言っているのは、「決まり事」に寄りかかって、自分で考えることをやめるな、という話なんだと思います。(とはいえくどいようですが、そりゃ歩行者もドライバーも互いに見落としはあり得るんで、信号はやっぱり守った方がいいです)

このことから思うのは、「自分の頭で考える」ということを、「堂々とサボれてしまう場合がある」ということです。「正しいこと」に依り頼んでいると、内省とか批判的思考とかいうものから遠ざかっていても、「自分は正しいんだから!」と安直に威張っていられることがあるんです、きっと。

葛藤しない、考えないというのは、省エネで楽なことでもあるから、私たちはともすればそちらに流れて、「だってこれが正しいって言われてるんだし」とあぐらをかいてしまうんだろうなぁ、と思います。
戦争とか差別とか搾取とか、そういうものも多くの場合、この「だってそういうことになってるんだし」という思考停止の土壌の上で行われるものなのでしょう。

冒頭に引用したのは「姦淫の女」の話として知られる一場面です。
律法に反する行いをしたその女性はもちろん罪を犯したことになるのでしょう。けれども、ここで本当に必要になるのは「なぜそれがいけないのか」ということを、本人が深く問い直す姿勢でしょう。そして、「罪を知り、悔い改める」ということに導かれることが一番大切なはずです。
でも、「罪を犯したその人を裁く」ために「石を投げること」だけに心を向けてしまう「正しい人たち」がそこにいる。

「何がいけないのか」「私たちは本来どうあるべきなのか」を知ることが律法の本質であるのに、表面的な「裁き」にのみ捉われて「自分は正しい」と居直ってしまうのは、筋違いというものでしょう。

私は学校で働く牧師ですが、最近「校則」というものが世間的に問い直されているのは大事なことだと感じています。時代錯誤な、生徒・学生を一人格として尊重しようとしない体質が古い校則の中に巣食っていて、でもそれを「決まりだから」と押し通してしまう圧力が、きっとまだまだ学校現場の中には残っています。自戒を込めて言えば、「真面目」な人ほどそういうものを疑うことなく受け入れてしまいがちな気がします。

「そう決まっているから」ではなく、「そう決められたのは何を目指してのことだったのか」「本当に大切にすべきことは何なのか」をきちんと自分たちの頭で考える。「真面目」だからこそ、決まりごとをそのまま飲み込むのでなく、きちんと疑ってかかったり問い直したりする。そういう者でありたいと思います。



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