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#3 精巣腫瘍 手術当日

6月15日(手術当日)

6時

僕はとても疲れていた。
つけていたはずの耳栓がベッドの横に落ちている。

まったく眠れなかった。

実際には3時間ほど力尽きて失神するように寝ていたと思われるが、寝たという実感がない。

手術前という緊張もあったと思う。
でも、1番の理由は同室の患者さんのいびきだ。

ガチでエグかった。


6時30分

バイタルチェックの時間。

「眠れましたか?」の問いに、
僕は「全くです」と即答した。

看護師さんも僕の顔を見て察していたのであろう。
「まだ時間あるので少し寝てくださいね」と言ってくれた。


7時

1日絶食が決まっていたので朝ごはんはなし。
水分も7時までしか摂れない。

お腹が減ったのを我慢しつつ、頭の中は手術のことでいっぱい。

一体どうなってしまうのだろうか。

そんな不安に駆られていた。


10時半

手術着に着替え、着圧ソックスも履いて病室で自分の番を待っていた。


もうこうなったら楽しむじゃないけど開き直るしかないと思った。

非日常は苦しいこともあるけど、いいこともある。

未知の体験だからゾクゾクしていた。


そうしていると自分の番がやってきた。

「ふぅ〜っ」と
深く深呼吸をして病室を出る。


次に帰ってくるときは精巣が1つ無くなっている。

27年間付き添った体の一部。無くなっても大した影響はない。
でも、なんだか寂しくなった。


看護師さんに案内されて手術室へ向かう。
自分の足で。


11時

手術室の扉の前にはたくさん人がいた。

僕と同じように今日手術を受ける患者さんのご家族だ。

朝早くから付き添いに来てくれた妻と
手術室の前で会話をした。

「いってきます」
「いってらっしゃい」

なんかもっと話せたらよかったのだろうが、
そんな空気でもなくあっさりとした会話だった。

見送られながら扉を進む。


手術室はたくさん部屋があって
僕が手術を受ける部屋は奥の方にあった。

手前の部屋で手術室看護師との最終確認がある。
・自分の名前
・どこを手術するのか

確認が終わると、手術室に案内された。


ドラマや映画で見る緑の部屋。
目の前に手術台。

そこに横になると動かないように固定される。

着々と手術の準備がはじまる。

左腕に針をさし、麻酔を入れる準備をしていた。

手術室の看護師さんは
その間、ずっと話しかけてくれた。

「緊張するよね?同じ立場だったら俺でも緊張するもん」
「この手術、男ばかりで固めたけんごめんね(笑)」
「麻酔入ると痛いよね。俺で良ければ摩っとくけん」

この看護師さんのおかげで、手術直前の緊張は無くなっていた。


麻酔が入りはじめて身体が熱く重くなっていく感じがした。

同時に呼吸が深くなっていく。


僕が記憶しているのはここまで。

次の瞬間、目を開けると手術は終わっていて病室にいた。
ワープしたような不思議な感覚だった。


vol.4に続く

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