短すぎる近況報告

音楽を流しながら昼寝をしていたら知らぬ間に耳が池と化していて、頬は小川のように滴っていました。そんな放流が始まったのは、さよなら大好きな人がちょうど流れたタイミングだと思います、近頃はSpitz以外のさよなら大好きな人も耳にします、あなたが私の渡した本をキッカケにクラシックに興味を持ってくれたのと同じように私も色々な音楽を聴いているのです。雑多に埋まったマイミュージックの一覧は以前は自身の無知を埋めるために自暴自棄に入れたものですが、文字通りマイミュージックといえるほどどれも愛していけそうです。音楽の趣味は全く被らなかったから、二人で道を歩きながらお互いに全然違う曲の鼻歌を歌ってるんるんと足を跳ねている時間が、どうしようもなく好きでした。クラシックを嗜んで大人びた気になりたいのだとしても、お互いの系統は全然違っていて面白いのかもしれません。

あなたと離れている間に私はたくさん褒められました。こちらが積極的な文化であることや、出会って間もない人間をいきなり貶す人種は滅多にいるものじゃないという常識を抜きにしても、私はそれこそただ生きているだけで褒められているみたいな、ふにゃりと擽ったい気持ちになります。

絵をたくさん褒められます。授業でちょっと絵を描く場面になったら、やったね君の出番だといい感じに煽られます。習ってたのか、芸術家になるのか、売るのか、と疑問文攻めになります。描いたら送ってほしい、君の絵のフォルダを作るから、と仰る人までいます。現物はあなた以外の人に送ることはしていないから、描いた絵をスマホで撮って送るだけなのに、とても喜んでもらえるのは奇妙ですがやはり嬉しいものです。私はただ言えないから、描くだけで。言葉を超える想いをありふれた言葉では伝えられない。すっかり小説が書けなくなってしまった。気づいたら絵を描いていました。そんな失敗談。それでも、好きだから、それしかできないから、ただただ狂ったように伝えたくて。それだけのことに時間を忘れていたら、とんでもなく肯定的な感情に包まれるようになりました。

キャンパスの並木道でひっそり死んでいた落ち葉を拾って帰って、限られた色のペンだけれど、全色使って、描きました。生き返るようでした。落ち葉だってただ茶色だとか灰色だとか、それだけじゃなく多種多様なのです。たまに踏むとくしゃっといい音がする落ち葉がありますね。まるであなたが最後に空港で見せた表情のような愛しさを纏って。そんな落ち葉は確かに生物学者曰く、お前は既に死んでいる。かもしれない、でもあの絵を描いているとき私は死と生のハーモニーが全身を撫でるように感じられて、つまりあなたが間近にいるような快感を禁じ得なかったのです。何もなかった真っ白の紙に永遠が表出された思いがけない感動で、単なる趣味のスケッチのはずだったのにスケッチブックから引きちぎって、余計な恥の概念が復活する前に投函してしまいました。いい絵が描けたら送ろう、と思っていると計らずもいい絵が描けてしまいます。だから厚かましいことを承知で週一ペースで郵便局へ行く羽目になります。その度に幸せです。

料理出来ないんだよねと言って私が何もできずに突っ立っている間にひとりで作ってくれていた友人がどんな革命が起きたのかとびっくりするくらい、料理をする気が起きたので、こちらも目覚ましく上達しているようです。多めに作ったものをルームメイトにあげたら、美味いを連呼してくれます。これであなたが料理出来なくてももう困らないから、ぜひ食べてほしいです。

オナニーしていたら三時間経過なんてことも日常茶飯事です。といって特別エロい妄想をしているのでもなくて、ただ数ヶ月前にあったこと、言われた言葉の数々を回想しているだけで、会いたくて、話したくて、触れたくて、抱きしめたくて、欲しくて、狂いそうになって、全細胞が悲鳴をあげる勢いで欲しているのです。瞳も下部も大洪水です。そんな災害時は大変幸福でありながら、それはあなたに会えないがゆえの突出したエネルギーだから、切なくて声出して泣いて、昼夜朝関係なく魂が勝手にあなたの元へ彷徨い出てもぬけの殻になって、この空白を虚しくも絵や文章や、その他人間生活にぶつけて粉々になって、それでどうにか無気力で堕落した生命維持装置にはならずに日々を超えている次第です。そうですね、ここは笑ってもいいところなんです、けれどもそれが冷笑だとしたら、そんなもの後悔するくらいの熱情で私が潰してしまうと思いますのでお気をつけて。

#エッセイ

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