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天井が高い。

ドイツに着いて二週間が経とうとしている。

明日は大切な人に3通目の手紙を出す予定だ。

映画などで傍観者でいるとき、例えば戦争で離れ離れになった恋人に手紙を書くとか、夏休みに田舎に帰省した子どもが母親に手紙を書くとか、そういうのはやり過ぎだと感じていた。いちいち手紙を送るなんて、鬱陶しいなと。一言でいうと、重い。

自分がそんな状況になった今、鶏がフクロウに変身したようだ。書かずにはいられない。それが自然にそうなっている。気づいたら3通目。放っておいたら出来上がっている。

いい絵が描けたら、送ろう。
そう思っていたら、なんだかいい絵が描けてしまった。気がする。ちょっと自画自賛した後、冷静になって下手くそさにショックを受ける前に、住所を書いて郵便局へ持って行く。
"nach Japan"(日本へ)

封筒や便箋は、その都度選ぶ。カラフルな画用紙を、気分とそのときの絵に合わせて。

手紙らしい手紙は書かない。お元気ですか。好き。会いたい。
それらしい言葉は書いてあげない。

「サボテンが友だち。
まだ一度も水をあげていない。
放置する愛。」

またよくわからないものを可愛がって、よくわからない言葉を並べて。日本とお変わりなく。

聞きたいことはいっぱいある。
伝えたい雑談も告白もあふれている。
こぼれ落ちたそれらは、拾ってあげなくても蒸発して、空気になって、その甘さ苦さを吸って、私も君も生きているんだろう。

好きだよ。舞台はもう終わった?お疲れ様。次に向けて頑張ってね。履修組むの忘れないで。

こっちは寒いよ。人肌恋しい。たまらなく会いたい触れたい。今日も君と夢で会った。

お気に入りの映画をリピートしてる。ちょっとエロい。もちろんドイツ語。君が部屋まで来たら、一緒にベッドの上で見たい。簡単な日本語訳ならするからさ。

触れたい。君の呼吸を感じてる。

授業が始まったよ。日本人とも知り合ったので、とりあえず日本語は忘れずに済みそう。生活感のない部屋だって、驚かれた。日本でもそうだったな。生存することを考えていたら、生活ってものを忘れる。

なんとなく気になる人もいます。ブラジル人とスペイン人。バスの中で目が合うと嬉しい。嫉妬してほしいわけじゃないです、

君に恋人がいるという事実を受け止めるのも、心の一部を殺して納得させなきゃならなかった。

ただ世界は意外と美しいから、一対一を永続的に望む習性が狂っているのだと思うよ。

そう言いつつ、私は君のこと忘れず好きでいると思うけど。

なんてね。一言も書いてあげない。

お互い寂しくなろう。そしてまた会おう。そのときはもっと強く抱きしめたい。

書いて、描いて、寂しくなるだけの部屋。

#エッセイ

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