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読書はじめ:タール・ベイビーと嫉妬

2022年が幕を閉じ、2023年が目覚めようとする頃、わたしの脳内書庫は混乱していた、トニ・モリソンのせいで。

下書きのまま整理されず3週間も放置されていたnoteを、思い出しつつ書きます。(1/27追記)

タール・ベイビー
 トニ・モリソン

カリブ離島の屋敷に住む裕福な初老夫婦、執事と料理人の夫婦は有色系のひとたち、そして料理人の親戚でありながら夫婦の援助で暮らすモデルの娘。
夫婦は離れて暮らす息子が会いに来るのを、怠惰な毎日を過ごしつつ、待っている。


おかしい…カリブ海なのになぜか灰色。
誰もが何かを隠し、闇を抱えているような不穏な空気が漂っている。


そこへ、南部の黒人社会で育った男が突如現れ、白でも黒でもない娘と惹かれ合う。生活様式が異なるのだから、二人の恋愛はうまくいくはずがない。誰もが、本人たちでさえ、そうわかっている。

なんか変だ!

時代や背景が違い過ぎるからなのか。
どの人物も自分勝手で可愛げがなく、共感どころかリスペクトできないのだ。

そして、「奥さま」の過去を料理人が暴き、とんでもなくディナーが荒れた夜。
若い男は女にこう語り、ふたりは結ばれる。

「その暗闇にいると想像してみるんだ、夜の空にたったひとりで。そばには誰もいない。たったひとりで、光ってるだけ。星がどうきらきらするかは知っているだろ?そう見えるから、人間はきらめく、というが、星自身からいえば、きらめいているわけじゃない、むしろぴくぴくと震えているんだ。星は震える。繰り返し、繰り返し。こういうふうに。星は震え震え震えて、もうこれ以上震えることはできない。もう我慢できないとなると、空から落ちてしまうんだよ」
恐くて眠れない女に、男が語る

夜空と星のエピソードはこの小説の中で、最も美しい。この頁は繰り返し読んだ。

美しい…しかし未知の世界ゆえ、展開先が読めない。

しかしながら、この物語は結末がわからないまま幕が閉じる。
若い男は改めて過去を学びなおすのか、それとも彼女を取り戻そうと先取に舵をとるのか。

読者しだいで、どちらにも読みとれる。
わたしにはわからない。
『タール・ベイビー』の逸話は訳者解説でわかるのだが、迷い道から抜け出せず、もやもやが残る。

ただ、わかったのは、
どんな金持ちもどんな美女もどんな働き者も、
自分の人生は自分で責任をもつしかない。


この命題はもうひとつのノーベル賞作家の主人公にもいえることだ。

嫉妬/事件
 アニー・エルノー

 堀 茂樹・菊池よしみ 訳


事件 望まぬ妊娠をした女子学生が、法律で禁ぜられている闇の堕胎(民間医療療法)を受けるが、現実には失敗し、胎児を....

辛くて書けない

読むのが痛すぎて、痛すぎて、握った手が震えた。終盤は行間をとばして読むほどだった。

ところで、文中に登場する男どもはみな最低だが,中でも既婚者の元BFの言動がひどい。

男によって、女の子は二種類に分類される。
 ”寝るのに応じるかどうかわからない娘か、
 間違いなく寝たことのある娘か“

元BFは妻のいない間に主人公を誘い、さらにすでに妊娠しているから孕ませることもない、と。

(アンタに)吐いてもいいですか


嫉妬 

こちらも痛い、ヒリヒリする。
彼女は尖った刃物で刺され、いま血を流している。そして、刺し違えようと相手に襲いかかろうとしている。

よくも自分自身のこんなつらい出来事を書き残したものだ。読んでるこちらまで、返り血を浴びそうな、壮絶な恋愛小説だ。


ノーベル文学賞を授与されたおかげで、アニー・エルノーは、いま各方面から注目されているだろうが、男性方は「事件」を読みどう感じるのか聞いてみたいものだ。このヒリヒリした痛みは女性特有の性だろうか。


最後に、GQJapan:渡辺由佳里さんのWEB記事を紹介します…これを読んでわたしの脳内トニ・モリソンが整いました。ありがとうございます。

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