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ワン・セカンド:文化大革命下の映画愛、主役は砂嵐。

チャン・イーモウ監督の新作、どう?(行かない)?

中国随一の巨匠・北京五輪の開会式閉会式の総監督など肩書が重く、有名人気俳優が出演の超大作かしらと、いぶかいつつ、旧作や欧州系ばかり見てる最近、ちょっと気分転換もいいかな、と誘いにのってみた。英雄(邦題:HERO)や十面埋伏(邦題:LOVERS)の華麗な舞や中国武術、豪華絢爛なセットや衣装はなく、ほぼほぼ茶色い地味な映画だったが、イーモウ監督の原点である「赤いコーリャン」や「菊豆」のように、たくましく生きる市井の人びとを描いた佳作であり、これはこれで良かった。

英雄
LOVERS

以下、ネタバレを含みます。まだ見ていない方はご注意ください。


逃亡者と砂漠

見渡す限りの砂漠をひとりの中年男が歩いてくる。

追っ手を気にするそぶりに、何かから逃げているのが分かる。
主演はまったくイケメンではない、俳優のチャン・イー。
地味すぎる顔立ち、たぶん通行人の役でも大丈夫なくらい、目立たないオッサンだ。が、しかし、怒りに体を震わせるとき、空腹すぎてビャンビャン麺をズルズルすするとき、娘の映像をみて涙するとき、静かな迫力で観るものの心をえぐる。間合いがうまいのだ。
たった一秒だけの娘の映像を見るために脱走してきた男を演じている。

次に、砂嵐がものすごい。
目の前の全部が茶色で染められるみたいな、ざらざらとした砂粒が画面の向こう側から襲ってくる。その砂丘をてくてくと、靴を砂に埋もれさせられながら、ひたすら歩く男。砂嵐のせいか、身に着けている国民服もぼろぼろ、顔もうすら汚れ茶色い砂顔だ。この冒頭のシーンから物語に引き込まれていく。

 以下、メイキング動画をどうぞ。

映画フィルムを狙う子供

盗んだ映画フィルムを中年男に奪われ、追いかけ、また捕まり、ついには観念するくそガキ。なぜフィルムを狙うのか。なぜ、食べ残したビャンビャン麺を弁当箱に入れて持ち帰ろうするのか。そこにはちゃんとした理由があったのだ。ネタバレになるので詳しく書かないがーー。

ところで、新人女優がすばらしい。本作がデビューとなるリウ・ハオツン:劉浩存は、汚れたズタボロ服をまとい熱演。メイキングでは、愛らしい彼女が役のためにばっさりと長髪を切り、監督のダメだしを受け、何度も何度もリテイクする様が紹介されている。最初の登場シーンと数年後のラストシーンとではその美しく成長した姿を見せ、くぎ付けとなる。
チャン・イーモウ監督は、これまでも新人を発掘し、中国のみならずワールドワイドに活躍する大女優に育ててきただけに、今後の活躍に注目だ。

・2010年 サンザシの木の下で のチョウ・ドンユィ:周冬雨
 (薄い顔の女子選んでどうするの?! やがて演技派の美しい蝶に育った。)
・1999年 初恋のきた道 のチャン・ツィイー:章子怡
 (デビュー作でも水餃子鍋をもって走り、「グランド・マスター」では大晦日の水餃子ネタふりながら、決闘する。どんだけ餃子好きやねん(笑))
・1987年 紅いコーリャン のコン・リー:巩俐
 (かつて土くさい役が多かったが、いまや大女優であり大富豪!?)

本題に戻ろう。とにかく、映画にまつわるエピソードが盛り沢山。映画フィルムを村人総出で洗浄したり、白幕に影絵のように映写して遊んだり、フォン電影技師のハメこみの技術も、愛する映画への優しいまなざしのようだ。
公安の逮捕劇やフォン技師の小さな親切も、そう来たかと。ただ、なんとなく先が分かってしまい、感動して涙ぐむまではいかず。時代背景が文化大革命だもの、当時は何が起ころうともアリだよね、とひねくれて観てしまった。

本編内に強烈な印象を残すビャンビャン麺を食堂でかっこむシーン。
豆花さんのnoteに詳しいのでぜひ。

ワン・セカンド 永遠の24フレーム
原題:一秒鐘 、One Second  2020年・中国
★★★▲☆ 3.5/5
監督:張芸謀
出演:張譯/チャン・イー、劉浩存/リウ・ハオツン、范偉/ファン・エイ





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