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「このやさしき大地」この冒険譚に頁を繰る手がとまらなかった。

四人のさすらいびと


黒い魔女から、竜巻にまぎれて脱走する彼らは「オズの魔法使い」さながら、人びとの愛や裏切りや勇気に出会うたび、少しづつ成長し大人に近づいてゆく。

小鬼ことオディによると、4人の主人公の性格はこうなる。

魔法使い:どんな機械もたちどころに修理してしまう魔法の手をもつリーダー、要領よく大人とも渡り合い、弟を守らなきゃと使命感に燃えている。
巨人:幼いころの事故で口がきけないが、ネイティブ・アメリカンの血を引き継ぎ、働き者でこころはアツイ奴。
小鬼:物語の語り手。トラブルメイカー。ハーモニカをこよなく愛する。
お姫様:いまは幼すぎて何もできないが、とてつもないパワーを秘めている。

あらゆる可能性に心を解き放て


虐待や孤児院や民族差別、最初の章は重すぎて先を読むのがつらかった。
第二章にすすむと、虚勢をはる大人たちにもそれぞれ瑕があり光と影がある、と明らかになる。凶作や洪水、家族との別離、戦争で身体の一部を失った兵士、痛ましい現実から目をそらすために市井の人びとは弱者からの搾取やアルコール依存などに犯され、さらに悪い夢を見ることになる。

一方、オディのハーモニカは、寂しく孤独な時にも、失意の夜にも、大地をやさしく包んでくれる。のちに、「ハーモニカで俺を救ってくれた」と感謝されるほどに。音楽のチカラは、さすらいびと達の心を解き放ち、その音色は希望を与えてくれる。

フーヴァ大統領と禁酒法時代

舞台は世界的に大恐慌だった1930年代、当時のフーヴァ大統領は経済政策に失敗してしまった。農民は農地を銀行に取り上げられ、負傷した軍人への恩賞は受け取れず、貧しさのため学校に通えない子供も多かった。密造酒造りや闇酒場は犯罪だが、生活のために手を染める大人たちと児童労働は仕方ない…そういう時代だった。

さすらいびと1人は、ネイティブ・アメリカンでありながら、”自分の種族の言葉や風習を盗まれ“同一化教育に改善させられる。

自分は何者なのか。

巨人ことモーズのアイデンティティ探しは、やがて本書の命題となるのだが。
刊行前だから、詳しく書けないのが惜しいわ。


はぁぁ面白かった。中盤から物語に惹き込まれ、ハヤる気持ちが頁を繰る手をどんどんすすませる。8/29-9/6まで海外だったが、乗継便を待つ間や飛行機内,アパートメントのベッドの上で読み耽っていた。
著者は稀代のストーリーテラー。アメリカ文学,旅もの好きな方に超おすすめ!

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