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25年前の本屋を探す旅

私の記憶には、祖父が連れてってくれた本屋の思い出がある。

今から25年くらい前のことである。

当時、祖父母の家で出前を食べてゆったりと過ごしていると、きまってどこからか祖父がやってきて「本屋さんに行くか」と私と妹を連れ出したのである。

当時まだ車の運転ができた祖父は、白の古いセダンに乗っていた。
マニュアル車で、窓の開閉は最近ではもう見かけない、いにしえのハンドル式であった。

車内はいつも独特な匂いがして、元々車酔いをしやすかった姉妹は、目的地に着くまではいつも車内で寝転がって過ごしていた。

本屋に着くと、祖父は自分が好きな時計の雑誌コーナーに行き、私は当時好きだったミニ四駆やたまごっちの本に夢中だった。
妹と一冊ずつ買ってもらい、ほくほくとしながら再び車内で寝転がって帰宅した。
そんな思い出である。

しかし、その思い出の本屋の場所は、寝転がっていたためにどこにあるのかはわからなかった。

大学時代にふと、本屋のことを思い出したが、特に特定しなかった。
そして2021年12月、社会人も10年目になろうとする頃、やっぱり思い出の本屋の場所が知りたくなった。

もう一度あの本屋へ行って、何か本を買いたい。
そして、隣にあったファミレスでご飯を食べて思い出に浸りたい。

そんなことを考えた。
それがこの旅のはじまりだ。

Googleマップで思い出の本屋を探そう

とりあえず、それっぽい本屋はないか?手当たり次第Googleマップで探してみた。
当時、窓から見えた浅間神社という静岡市の有名な神社の鳥居を覚えているので、だいたいの方角はわかっていた。

しかし、それらしい本屋は見当たらなかった。

今度は本屋の隣にあったファミレスを探すことにした。
ファミレスは店が変わっていても、居抜きで使われている可能性があるかもしれないからだ。
私はもしかしての可能性にかけて、Googleマップでファミレスを探すことにした

私の記憶では、

道路側から店舗を見て、右手に本屋、左手にファミレスがあった。

まず、怪しいと思ったのはガスト静岡安西店。

しかし、Googleマップを見ても現在は右手には本屋はなく、土地的にも昔本屋があったようには思えなかった。

次に候補に上がったのは、ブロンコビリー静岡安倍街道店。

駐車場は当時の記憶と同じくらいに広く、右手にある家も新しいので、過去に本屋だった可能性もありえる…。

ここで、私は新たな記憶を思い出した。

本屋さんの近くには山があった。
駐車場から道路側を見上げた時にその山が見えたのだ。
山の名前はわからないが、その景色も有力な情報となりそうだ。

正直、お店の雰囲気は静岡安西店の方がしっくりきた。
でも、こちらには山がなかった。
なにせ、約25年前の記憶だ…記憶違いだろうか?

妹のぬくんにも相談したが、ぬくんは私よりも小さい頃だ。覚えてるわけがない。

ぬくんの記憶から描いた絵はこれだ。

ぬくんの記憶

国道27号線付近、浅間神社の近くのファミレスはこの2件。
少し離れたところにデニーズ二番町店もあったが、ここは記憶にあった道とは違う。

この時点では、ファミレスを壊さない限り、居ぬきで使っていると考えて、ガスト静岡安西店が1番有力ではないかという話になった。

しかし、肝心の本屋が見当たらない…。
本当にここだろうか?

更に、山からお墓が並んでいるのが見えたことを思い出した。

私の記憶

そこで今度は、お寺がないか調べてみることにした。
すると、ブロンコビリー静岡安倍街道店の裏には瑞龍寺というお寺があることがわかった。

山も寺もある!きっとここだ!
ぬくんもきっとそうだ!ここだ!と言った。
やったやった!と喜ぶ姉妹。

これで、すっきりした。そう思った。

ストリートビューで過去の景色にタイムスリップ

ぬくんは「Googleマップで過去の画像が見れるから見てみて!」といった。

なんでもGoogleマップのストリートビューは過去の画像を記録しており、数年先まで遡れるらしい。
姉妹が見たかった景色にタイムスリップできるかもしれない。

しかし、期待も虚しく2012年までの映像までしか遡る事はできなかった。
それはそうだろう。私が幼かった頃はGoogleストリートビューなんてものはなかったのだから…。

おそらく、姉妹がこの本屋に通ったのは1996年〜1999年くらいではないかと思う。

とりあえず、一番古い2012年の画像を確認してみる。
ブロンコビリー静岡安倍街道店だとしたら、本屋であろう場所にはガソリンスタンドが建っていた。
県道27号 - Google マップ

念の為、ガスト静岡安西店を確認するが、ガストもその横の家もそのままの形であった。
県道354号 - Google マップ

あれ…ここではないじゃないか。

正確なデータを求め、国土地理院のデータで探す

そこで、ぬくんは正確なデータから割り出そうと、国土地理院のデータから探すことを提案してくれた。
なんていったって国土地理院!さぞかし信用できるデータがつまっているに違いない。
地理院地図 / GSI Maps|国土地理院

しかし、絶妙に1996年あたりのデータがなく、役立たずであった。

2009年にブロンコビリー静岡安倍街道店の横に、古めのお屋敷が建っているのを確認したが、よく見ればそれがブロンコビリーだった。
ブロンコビリーは2009年まで瓦屋根の大きな家だったようで、この場所ではないのかもしれない。

ガストの方も念の為調べたが、隣の家のような建物は1990年代以降の建物のようで本屋であった過去はなさそうだ。

完全に振り出しへ戻ってしまった。

仕方ない。
見逃しているかもしれないので本屋に絞って、もう一度探すことにした。
建物は白色で単純な四角ではなく、凹凸があったのでチェーン店なら名前を割り出せるかもしれない。

Googleマップで本屋さんで検索したらかなり近しい建物があった。

蔦屋書店 静岡平和町店だ。

建物はそのままというくらい似ているのだが、隣は明らかに私が幼い頃から営業していたであろう、年季の入った蕎麦屋さんだった。
インターの近くにあった記憶もないので、ここではない…。

独自の調査に限界を感じ始めていた。

古くから住む人に聞き取り調査!

そこで翌日、静岡市に長く住むパートさんに聞き取り調査をすることにした。
「1996年くらいに、ファミレスの隣にあった本屋さんを知らないか?」
「また、私が探してる浅間神社付近で昔本屋さんがあった情報を知らないか?」

すると、目星をつけてご丁寧に地図まで描いて教えてくれた。

パートさんの記憶

この地図を元に、再度周辺をGoogleマップで確認したが、本屋さんも見当たらなければ当時の風景とは一致することはなかった。
なかなか手強い。

最終手段!Twitter (X)で呼びかけてみる

あの本屋はもう無くなってしまったのだろうか?
ここまできたら、無くなってしまったとしても、それがどこにあったのかを知りたかった。

そこで、最後の手段としてTwitter (X)で呼びかけてみることにした。

すると、拍子抜けするほどすぐに返事があった。

突然すみません。
合っているかわかりませんが、ファミレスの隣の本屋さんといえば今は、もうファミレスも本屋さんもありませんが、中央図書館のすぐ近くに、ココスがあり、隣に本屋さんがありました。浅間神社も目と鼻の先です。

ファミレス…本屋さん…浅間神社…!

すぐにGoogleマップで調べると、風景が一致した。
なんと、山と…墓も見える!


ここだ!


ファミリーマート静岡大岩本町店

なんと、私が目星をつけて探していた浅間山を挟んで反対側の道であった!
図の臨濟寺側のエリアが正しかったのだった。

ここは1番はじめに調べていたけど、ファミレスも本屋も見当たらなかった為、通り過ぎてしまったところだった。
まさか、両方無いことは想定していなかった。

やっと出会えた。

Googleマップでは2012年までは振り返ることができる。
私は2012年に時間を戻した。
2015年2月までは、ココスは実在しており、本屋はブックオフとして存在していた。

麻機街道 - Google マップ

少し遅かった。

大学生だったあの時、きちんと特定していれば少なくともファミレスに行けて、ブックオフで本が買えたかもしれない。

ファミレスの記憶を呼び起こしたときに、私は黄色いファミレスだったと言っていて、ぬくんは白い壁だったと言っており、当初は意見が食い違ったように思われたが、ココスだったので2人とも正解であった。
記憶というものも侮れないものだ。

それでも、私はGoogleマップで2012年の6月にタイムスリップして、周辺を歩いてみた。
駐車場の近くにあった水色のアパート、ココス、目の前の山。
あの頃のままだった。

祖父が連れて行ってくれたあの風景だ。
私は時間旅行をして、涙が止まらなくなった。

約25年ぶりに思い出の場所へ行ってみる

そして2023年3月、あと数日でこの街を去ることになった私は、ぬくんと一緒に思い出の地を訪れることにした。
幸いファミリーマートなので、車で気軽に行ける。

ファミリーマートへ行く前に、当時祖父母の家でよく出前を取っていたお店へ向かう。
当時祖父母の家で飼っていた犬の写真と、祖父の遺影を持って。

あの頃は出前のおじさんが来たことを、犬が「ワォオオオオ〜」と綺麗な遠吠えで教えてくれた。
祖父は、チャーシューを犬へ放り投げていた。
いつもの出前はいつもの味。みんなで食べるご飯はとても美味しかったのも覚えている。

このお店もやってなかったらどうしようかと思ったが、Googleマップで調べたら口コミ122件の☆4.2。
あの頃は出前するだけで店舗へは行ったことがなかったのだが、人気店のようだ。

のれんをくぐると、お店はお客さんでいっぱいだった。
年季の入った店内は、今はもう無くなってしまった祖父母の家へ来たような気持ちにさせられた。

かつ丼、ラーメン、もりそばを注文。
当時食べていたメニューだ。

かつ丼とラーメン。

味がしみっしみのかつ丼は、あの頃と変わらず濃い味付け。
しっとりとした触感は他のどこのお店よりもおいしい。
ラーメンのチャーシューは分厚く、麺に絡むスープは深い味わいで最高だった。

こんなにおいしいラーメンが500円以下で、おそらく当時のままの値段で売られている。
1500円くらいにした方がいいのではないだろうか?それくらいうまい。

店内に広がる姉妹の「うまい…本当にうまい…。」の声。
他のお客さんの視線なんて気にしない。
3つのメニューを食べ終わるまで、止まらなかった。

昔、よく食べていたことをお店の人に伝えようかと思ったけど、かなり繁盛していて忙しそうだったのでそのまま帰ることにした。
相変わらず、安くて美味しかった。

そして、車のエンジンをかけ、ファミリーマートへ向かった。
あの日寝転がって目指した場所を、今度は自分たちで運転した。

「こんなお店あったよね!」
一部、変わらない商店街の街並みもあった。
当時の記憶が蘇る。

私たちはファミリーマートに着いた。

ずいぶん遠いところへ連れて行ってもらっていた気はしたが、そこまで遠くはなかった。
特定するまでの数日、記憶と時空を旅行し、そして実際に訪れる。
そんな大冒険がたまらなく楽しかった。
会いたかった景色は、今はもう見れない景色だったが、ここが確かに私たちの大切な思い出の場所だった。

本屋さんはファミリーマートへ、ファミレスはクリニックになっていた。

山とお墓もあった。

私たちは少し道沿いを歩いて、記念に数枚写真を撮り、ファミリーマートでハイチュウを買った。

思い出の場所の滞在時間は数分。
あれだけ探したのに数分。

でも、もういつでもここに来れる気がする。
目をつむると今までよりも、もっと鮮明にだいすきな風景が浮かんできた。

執筆のおやつにヤングドーナツをたべます🍩🍩🍩