初期衝動

新幹線で地方ロケに向かう途中である。

車窓から見える長閑な景色を見ながら回想してみる。

初期衝動という言葉が正しいのかわからないが、自分がこの道に進んだきっかけは『スティング』という映画を見終えた時だった。

見終えた時に「この映画のラストシーンが終わった瞬間に観客席のほうを見ていたい」

そう思った自分の夢は、その日から映画監督になった。

ネタバレはしないが、この映画は最後にどんでん返しが待っている。そのラストシーンを見た時に、観客は監督の狙った通り、みんな騙されて「あぁ!やられた!」と思うだろう。

その騙される観客側ではなく、騙す監督側になった自分を想像すると、ゾクっとなった。

これ以上の快感はないな 笑

そう思った時から何年経っただろう。
映画監督になったとは堂々と言えないが、映像の監督をやっている。

しかし、監督になる事が目的ではなく、自分が作った作品で感情を揺さぶられる観客達を見たいのだ。

その夢はまだ全然叶ってない。自分が初めて監督した作品を上映した時は1番前の席に座って観たが、怖くて後ろを振り返れなかった。

いつか、舞台袖からほくそ笑む作品を作ってやる。もう夢とは言えない年齢なので、目標と言い換えておこうか。

では、そろそろ名古屋駅に着くのでまた。


つづく

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